02.スキルの覚醒
王都の神殿にて、俺は父上から追放を言い渡された。
今すぐ出ていけ……そう言われた俺だが、いったん屋敷に戻った。
俺にやさしくしてくれた使用人たちに、一言お別れを言いたかったのだ。
けれど……。
『話しかけないでください』『さっさと消えろカス』『あーあ、今まで仲良くしてやってたのに無駄になったなぁ』
……使用人たちは、俺が実家追放になったと聞いたとたんに罵声を浴びせてきた。
俺は、理解した。所詮俺は、マトー家の長男だから、次期当主最有力だったから、みんなからチヤホヤされてたのだと。
「厳しいな、現実とは……」
何の理由もなく人から好かれるわけがないのだ。それが現実だ。しかたない。
でも、ちょっと……いやかなり堪えたな。
「これから……どうするか」
俺の持ち物は訓練用の鉄の剣、そして儀式に参加するために着させられていた礼服。以上。
私物を持ち出すまえに、使用人たちからたたき出されてしまった。
多分もう俺はマトー家の人間ではないからだろう。
持ち出せば窃盗になるしな。
「とりあえず、王都から近い街を目指そう。人がいる場所なら仕事もあるやもしれん」
生きていく以上、金が要る。
俺ははずれスキルの烙印を押されたからといって、死ぬつもりはなかった。
親、そして周りの優しかった人たちからののしられて、つらい気持ちにはなったけども。
それでも、死んでやるつもりはない。
ということで、俺は王都を出発、徒歩で街を目指していたのだが……。
「ガウゥウウウウウウウ!」
「ふむ。……あれは灰狼か」
魔物だ。町の外には普通に魔物がうろついてる。
本で読んだ知識によると、たしかDランクの魔物だろう。
「ガオォオオオオオオオオオン!」
灰狼が突っ込んでくる。
だが俺は冷静に、訓練用の剣を抜いて構えた。
剣聖の家で、俺は何もしなかったわけではない。
「はあ!!!!!!」
ざしゅっ!
俺が放った斬撃は、灰狼を縦に真っ二つにした。
剣聖の家で15年も厳しい訓練を受けたのだ。
D程度の魔物一匹位なら、スキルがなくても倒せる。
もっとも、複数体で襲ってこられると、さすが対応はできないだろうが。
魔物が死ぬと、紫色の煙となって、その場に1枚のぼろい毛皮と、そして小さな結晶が出現した。
動物と違って、魔物は死ぬとその場にアイテムを残す。
これをドロップアイテムという。
「低ランクの魔石に……これは灰狼の毛皮かな」
ドロップアイテムは、ギルドへ行くと買い取ってもらえる。
そこには【真実の目】という、ランクを調べる魔道具があり、アイテムのランクを鑑定してくれる。
かつてこの世界には鑑定スキルを持った人間が存在したけれど、今はいないんだよな。
「これも貴重な財源だ。回収しておこう」
おそらくそんなに高くは売れないだろうが。
と、そのときである。
「きゃあああ!」
女の悲鳴が遠くから聞こえてきた。
俺は声のするほうを見やる。
「! 女の子が、魔物に襲われてる……」
女の子が複数体の灰狼に囲まれていた。
状況を確認した俺は……。
すぐさま、助太刀へと向かっていた。
……人によっては、他人を助ける義理などないというだろう。
だが、俺は行く。
人より多くを与えられた生まれた人間は、弱きものを助ける義務がある。
ノブレス・オブリージュ。
俺はもう家を追い出されたけど、その考え方を捨てるつもりはない。
「伏せろ!」
「は、はい!」
「ぜやあ!」
俺は斬撃を近くの灰狼にお見舞いする。
一匹は奇襲で倒すことができた。
だが灰狼は俺に気づくと警戒心をあらわにし、複数体で俺たちを取り囲んできた。
戦いにとって数は勝敗を決める重要なファクターだと、本に書いてあった。
こちらは二人。相手は、10。
さすがに分が悪い。
「あ、あの! 逃げてください! 私なんておいて……」
「馬鹿を言うな。君を置いて一人逃げるわけにはいかない」
髪の長い(というか髪の毛を切ってない)女の子が、潤んだ目を俺に向ける。
彼女はぼろ衣同然の服に身を包み、かばんはおろか武器すら持ち合わせていない。
どう見ても戦う力も逃げる力もない子だ。
俺が守らねば。力あるものとして。
「こい!」
「グラァアアア!」
ざしゅ! ざしゅ! ざしゅ!
「す、すごい! 一気に3体の灰狼を倒しちゃうなんて!」
どがっ!
「ぐっ!」
背後から灰狼に突進されて、俺は地面に倒れてしまう。
その際に剣を手放してしまった。
「くそ!」
すぐに起き上がろうとしたのだが、灰狼の1匹が俺に襲い掛かってくる。
俺はとっさに利き腕ではない、左腕を前に突き出す。
がぶっ!
「っつぅう! だが……くらえ!」
どが!
俺は灰狼の横っ面を殴ってやった。
灰狼はぶっ飛んでいく。
くそ、左腕が……やられた。
患部を手で押さえるも、血がとめどなくあふれ出てくる。
「グルルウ……」「ガルゥウ……」
「くそ……万事休す、か」
剣は割と遠くに落ちている。
拾いに行ってる間に灰狼たちが襲い掛かってくるだろう。
そして左腕は負傷している状態。
これで残り7体の灰狼と戦うなんて、無理だ。追い詰められた俺は……。
「こうなったら……いちかばちかだ。【開】」
俺は腕を押さえた状態で、【開】を発動した。
それで何ができるかわらかない。
だが、女神さまが俺たち人間に、この世界を生きるために授けてくださった力だ。
きっと、周りが思うような、はずれじゃあないはず……。
そのときだった。
目の前に、半透明な窓が突如として開いたのだ。
「! これは……」
~~~~~~~
ヒラク・マトー(15)
体力 10/100
魔力 100/100
SP 100
【職業】
開
【所有スキル】
・ステータス操作(SSS)
・アイテムボックス(SSS)
・最上級・鑑定(SSS)
・最上級・氷属性魔法(SSS)
・中級・剣術(C)
~~~~~~~
「なん、だ……?」
これはなんだ?
なんだこれは?
さすがに、わけがわからんぞ……。
いきなり出てきた文字の羅列。
それを理解してる時間は、ない。
だが俺の目は、所有スキルの文字をとらえていた。
所有……スキル。スキルとは職業スキルのことじゃあないのか?
いや、今はどうでもいい。
問題はスキルを所有してるということ。
俺は右手を前に出す。
「【氷槍連射】!」
俺の家にはたくさんの本が所蔵されていた。
その中には魔法に関する本もあった。
氷槍連射。
上級・氷属性魔法。その効果は、大気中の水分を凍らせ、氷の槍を照射するというもので……。
ドガガガガガガガガガガガガ!
まさに、今目の前で起きてる現象のことだった。
「す、すごいです……灰狼を一瞬で全滅させるなんて……」
目の前には灰狼の死体が転がっている。
俺が、やったのか? 魔法が使えた……おかしい。
俺は魔法使いの職業スキルを所有していなかったのに……どうして?
~~~~~~
■灰狼 (10)のドロップアイテム一覧
選択してください
・魔石(E)×10
・毛皮(E)×10
・灰狼の大毛皮(D)×5
・灰狼の牙(D)×5
・灰狼の大牙(C)×2
・灰狼の肝(S)×1
~~~~~~
「なん……だと……」
俺の前にまた半透明の窓が出現した。
そこには、ドロップアイテムを選べと書いてる。
「選ぶ? 馬鹿な……ドロップアイテムは、ランダムだろう? 選べるはずが……」
「あ、あのぉ……どうしたんですか? 虚空なんて見つめて」
「! 君は、これが見えないのか?」
俺はこの半透明な窓を指さす。
こくん、と女の子がうなずいた。
「どうなってる……」
正直この半透明な窓が現れてから、次から次へと知らないことが襲ってくる。
だが、不思議と嫌な気持ちにはならない。ワクワクしてるのか、俺は。
「…………」
俺は、とりあえず選べといわれてるので、一番ランクの高い、灰狼の肝を選択。
まさか、Sランクのアイテムが出現するなんてことは……。
ぼふんっ、と窓が消えて、俺の手のひらには、生物の肝が出現した。
「! これは……まさか……ドロップアイテムを、自分で好きに選べるってことなのか?」