16.実家で決闘し、完勝する
《ヒラクSide》
俺は実家に向かう馬車に乗っていた。
「ヒラク様、なぜ……今更マトー家へ戻るのですか?」
「そうですよ父上さまっ。偉大なる父上さまを虐げた家になんて、戻ってやるひつよーないですっ」
俺は剣聖並に強い力を手に入れた。
今帰れば、なるほど、家は俺を迎え入れてくれるかもしれん。
ふたりは、俺が強くなったから、当主になれる資格を得たから、実家に戻る。そう思ってるようだ。
「俺は別に当主になりたいわけじゃあない。これはほんとだ」
「「ほ……」」
二人が安堵の息をつく。
だが、続いて二人ともが首をかしげた。
「では……なぜ? マトー家に」
「ふむ……」
奴隷は、俺の言うことには絶対に服従だ。
従魔もまた同様、俺の言ったことを外には出せない。
「マトー家に、邪神ギンヌンガガプの遺体の一部がある」
「「なっ!? じゃ、邪神の……遺体が!?」」
驚くのも無理はない。
「これは当主になるものにしか知らぬ事実だ。そして……当主ですら、自分たちに課せられた、【本当のお役目】を知らない」
「「本当の……お役目」」
気づいたのは【開】、そして魔族チータスに出会ってからだ。
まあ、ようするに、だ。
「マトー家には邪神の力の一部がある。それをほっとけないから、俺は一旦家に帰るだけだ。それを破壊したら、また旅に出る」
「よ、よくわかりませんが……わかりました! ヒラク様が、剣聖の家に帰る気がないということを!」
「それならよかったですー!」
ということで、俺は実家に戻ったのだが……。
☆
「ふむ……どうしてこうなった」
俺はマトー家の裏庭にいた。
目の前には、にやけたツラが実に不快な、我が弟ジメルがいた。
「ひーらーくぅう? わざわざボクにぼこられにくるなんてぇ? ばっかなのぉ?」
マトー家につくなり、俺は父上に呼び出された。
邪神の遺体について話そうとする前に、ジメルと戦えと言ってきた。
意味不明の極みだった。
なぜ今更ジメルと戦う必要があるのだ。馬鹿馬鹿しい。
そんなことより、邪神の遺体の状態を確認するのが先決だった。
しかし、父上……いや、トザース・マトーは言うのだ。
『当主でないものを、家に入れるわけにはいかんな!』と。
……無論、トザースのことなど無視して、遺体(だと思われる)場所へ向かうことはできた。
だが、【あそこ】への部屋の出入りは、当主、または当主の許可がないと中に入れないのだ。
……なので、仕方なく。
本当にしかたなく、トザースの提案に乗ってやることにしたのだ。
「ヒラク様ー! そんなやつぶったおしてくださーい!」
「父上さまー! そいつぶっころしてくださーい!」
離れたところでミュゼとフレイが観戦していた。
そして、懐かしい、【彼女】の気配もうっすら感じる。
「おいおいヒラクぅう。はずれ野郎のくせに、なーに女囲ってんだぁ? 調子のんじゃあねえぞはずれカスがよぉ」
ふむ。
どうやらジメルのやつは、俺が美少女を連れているのが気に食わんようだ。
どうやらとことん、俺を見下してるように感じる。
まともに手合わせするのは、これが初めてなのだが。
どうやら強い力を手に入れて、増長してるのは確かなようだ。
……ふむ。
「ステータス、展開」
~~~~~~
ジメル・マトー
体力 200/200
魔力 30/30
SP -
【職業】
大剣聖(S+)
【スキル】
・
・
・
~~~~~~
この段階で、俺は勝ちを確信していた。
「ふむ……ジメルよ」
「あ? んだよ」
「悪いことは言わない。決闘なんて時間の無駄だ。やらないほうがいい」
……善意の忠告だった。
しかし。
「は、は、は……! てめえ……ヒラクぅ……」
びきびき、とジメルの額に血管が浮く。
「なに……イキってやがんだぁ? ああ!? 雑魚のくせに調子乗るんじゃあねえぞぉおお!」
ごぉ……! とジメルの体から、プレッシャーを感じる。
だが、いくら凄んでも、俺は【開】で確かめたのだ。
弟の、格を。
「おまえは100%俺には勝てない」
「うっるっせえ! それはこっちのセリフだ馬鹿がぁ!」
ジメルが真剣を抜いて、構える。
その時点ですでに、鍛錬が足りてないのがわかった。
スキルに加えて、鍛錬すら足りてないなんて……。
「勝てる見込みのない試合をして、なんの意味があるのだ」
「うっさいうっさいうっさい! そういう強いセリフはなぁ! 弱いやつが言っていいセリフじゃあねえんだよぉお!」
ぐぐ……とジメルが体を縮める。
「スキル……筋力向上! 筋力超向上!」
ジメルが大剣聖のスキルを使って、身体強化を行う。
だが、想定通り。
「スキル……斬撃強化! クリティカルヒット! 斬撃速度強化ぁ……!」
これだけ強化スキルを重ねても……。
無意味だ。
だが、もういい。
底は見えた。
「一瞬だ! 一瞬でてめえをぶちころしてやるぜ、ヒラクぅうう!」
「御託はいい。さっさとはじめよう。父上」
審判を務めるらしいトザースを、見やる。
彼はうなずくと、手を上げる。
「これより、ヒラクVSジメルの決闘を行う。勝敗は、相手が参ったというか、相手を気絶させることで決するものとする!」
その割に本気で、ジメルは俺を殺すつもりなのだが。
トザースもそれを承知してる節はあるが……無視してる。
多分俺が死んでも、事故だったで済ませるつもりだろう。
まあ、いい。どうでもいい。
俺はもう、家のことなど、なんとも思っていない。
ノブレス・オブリージュ。
俺は、俺にしかできない、俺に与えられた責務を果たす。
そのためだけに、ここに来たのだから。
「では……はじめぇええい!」
「くたばれクソヒラクぅう!」
ドンッ……! とジメルが、地面を蹴る。
「!? 馬鹿弟が消えました!?」
「ばかおとーと、はやいです! 父上さまー!」
ジメルのやつが、俺に向かって真っ直ぐ突っ込んでくる。
大上段の構えから……。
「チェストォオオオオオオオ!」
ズバンッ……!
「「ヒラク様……!」」
「勝った……! ジメルの勝ちだぁ……! 我が息子の、勝ちぃい!」
どさ……!
……倒れたのは、ジメルだった。
「「やったー! さすがヒラク様~!」」
「なんだとぉおお!?」
俺はその場から動いていない。
目の前には、白目を剥いて気絶するジメル。
その手に握られていた真剣は、粉々に砕け散っている。
「こ、殺したのかヒラク!?」
「峰打ちで人が死ぬか、馬鹿」
「ば、馬鹿とはなんだ!?」
いきり立つ父。
昔は……こんなの相手でも、畏敬の念を抱いていた。
剣聖の家を継ぐ、すごい剣士だと。
……だが、今この立場になってわかる。
トザースすら、たいしたことないと。
俺は近づいてきたトザースを、にらみつける。
それだけで、ガクガクと父が震えだし、尻餅をついた。
「大馬鹿だ。貴様は。息子の格の違いすら、見抜けぬとはな」
トザースは仮にも武芸者だ。
剣を握る手を見れば、わかるだろうに。
兄と、弟、その手の違いに……。
弟の手には、一切のマメがなかった。
どう見ても、何の訓練もつんでこなかった。
一方で俺の手は……マメだらけだ。
「職業スキルのみで、力の優劣を決めつけ。そして……【息子】が絶対に勝てない相手と、戦わせた。それを愚かと言わずなんという」
「う、ぎ……く、くそ……! なめ……舐めるなよ小童ぁ……!」
トザースが切れて、腰から剣を抜く。
キンッ……!
ばきぃいいん!
「死ね……! って、えええ!? や、、刃がないぃいい!?」
トザースの手にある剣は、刃が根元から折れていた。
「ば、馬鹿な!? 何をした!?」
「別に。ただ、貴様の剣が引き抜かれると同時に刃を切った。ジメルにも同じことをした。近づいて攻撃してくる前に、峰打ちで急所を突いた。それだけ」
唖然とするトザースを見ても……。
俺は、失望しなかった。
すでに二人のステータスは確認済みだ。
そして……見ている。
スキルについて。
・最上級・剣術
……そう、剣聖も、大剣聖も、最上級・剣術。
すなわち、俺と同じ剣術スキルを持っていたのだ。
「で、でもヒラク様……どうして? 同じ最上級・剣術を持っているのに、ヒラク様が勝ったのですか?」
「熟練度だ」
「熟練度……? あっ!」
「そう、同じスキルを持っていても、熟練度が違ったのだ」
俺の最上級・剣術の熟練度は、100/100。
一方で、この馬鹿ふたりは、10かそこらだった。
その時点で、勝負は、始まる前から決まっていたのだ。
「なぜだ……なぜ負けた……こんなゴミに」
「ふむ。哀れだな」
「なんだと……?」
「強い力をもっていても、持ってるだけでは意味が無い。それに気づかないから……貴様らは負けたのだ」
トザースは実に悔しそうに歯がみすると、がっくりうなだれる。
目をかけていた弟も、そして自分すらも、直接やり合って負けたのだから。
認めざるを得なかったのだろう。
俺が、強いと言うことに。
「さっさと試合終了しろ」
「……ぐぎ……ぎ……しょ、勝者……ヒラク……」
わ……! とミュゼたちが歓声を上げる。
「さすがですヒラク様! 大剣聖と剣聖を一撃で倒してしまうなんて!」
「父上さますごいです! 強すぎますよぉう!」
すると……。
「ひ、ヒラク……いや! ヒラクさまぁあ……!」
今度は、トザースのやつが、へこへこと情けなく頭を下げ、そして手をこすりながら言う。
「なんとお強いおかただ! わたくしめが間違っていた! 哀れな父を許しておくれよぉう!」
……確かに哀れな姿だが、同情を引かせる気見え見えの父に、同情の気持ちなんてわきはしない。
「わたしが間違っていた! 謝る! だから我が家に戻って……」
「来ない」
「そ、そんな! どうして!? 謝ったじゃあないか! 気に食わないなら、弟の馬鹿も家から追い出すが!?」
「必要ない」
俺を追放したやつらを倒しても、別に感慨もわかなかった。
ノブレス・オブリージュ。
俺は、俺のやれることをやってる。
この戦いはあくまで、邪神ギンヌンガガプの遺体を破壊する目的の、邪魔をこいつらがしてきたから、やっただけ。
「俺はあんたに謝ってもらうためでも、あんたらを見返すためでも戦ってない。もう、そんな次元で物を見てない。だから……マトーの家には戻らない」
俺の発言を聞いても、邪神ギンヌンガガプを知らん父からすれば、なんのことだと困惑してるだろう。
だから、俺はハッキリ言う。
「金輪際。俺はあんたらの家には、戻らない。土下座されようが、謝られようが、絶対にな」
「そ、そんなぁ~……そんなぁああ~……」
トザースは、情けなく涙を流しながら、へたり込んだのだった。
さて、茶番は終わった、直ぐに本題に取りかからねば。




