148.めくばせ
父の机から出てきたのは、1冊の手記。
しかもかなり厳重に保管されていたものだ。
俺はその手記から、父のメッセージを受け取った。
……なにか、俺に、いや、俺たち兄妹に伝えようとしてる。しかも、それは誰にも知られてはいけないということ。
「兄さん……どうする? それ……読む……?」
……俺は周囲のステータスを開く。
誰かが俺たちを監視してる可能性があったからだ。
……やはり。
俺は手記に触れて、操作をする。よし……。
「ミュゼ」
「はい」
「もやせ」
「は……?」
ミュゼを含め、全員が困惑してる様子だった。
「あ、あの……ヒラクさま。それって……何か重要な書類じゃ……」
「知らん。こんな古びた本に、何の価値もない」
俺はジメルに目配せをする。
弟は何かに気づいたような顔になり、うなずく。
「ちっくしょぉ! クソ親父! さんざん期待させておいてこれかよぉ!」
よし、いいぞ。弟はきちんと意を汲んでくれたようだ。
「おい貸せ!」
ジメルが俺から本を奪うと、ビリビリにやぶく。
「ちょっと! 何するんですか!」
「うるせえー! あー、やだやだ。とーんだ無駄骨だったぜ。あのクソ親父がよぉ、ったく……」
ジメルが俺に目配せをしてくる。……さすがだ、弟よ。それでいいのだ。
皆が困惑しているなかで、俺たち兄弟だけは、わかっていた。
この手記は、親父が、誰にも知られないように、俺たち兄弟に残したモノであること。
……そして。
それを知られまいと、見張ってるやつが、この近くにいるってことを。




