13.邪神の復活を余裕で阻止する
俺は依頼を受けて、盗賊のアジトの調査を行った。
そこに居た盗賊ども、そして魔族を制圧した。
「これで一件落着ですね、ヒラク様!」
「ふむ……ミュゼ。まだ終わりではないと俺は思うぞ」
「? どういうことでしょう?」
盗賊のアジトの入口。
俺、ミュゼ、そしてフェンリルのフレイは立っている。
「ミュゼ。君に聞こう。なぜここに魔族が居たのだろうか?」
「え、な、なぜって……?」
ふむ……ミュゼはわからぬか。
では、フレイを見やる。
「はい! おそらく……なにか悪巧みをしたのかなー、と!」
「そのとおり。魔族が理由も無く、こんな場所に、しかもひとりで居たのが気になった。何らかの悪事の、準備をしてる。そのために、人間……盗賊たちを使っていた、と俺は考える」
確かに……とミュゼが言う。フレイは「どやあぁ!」と胸を張っていた。
もしもさっき倒したチータスが、人間たちを襲うつもりならとっくにやってるはずだしな。
ふむ……となると、その魔族の悪事、ほっとくわけにはいかない。
少なくとも、さっきのやつが手間暇かけてやってること。
それすなわち、なんらかのヤバい事態が現在進行中ということだ。
急いで阻止しないといけない。
街へ応援を呼ぶ暇などない。
「ミュゼ。超聴覚を使って、アジトに誰かいないか調べられるか」
「かしこまりました! ……。…………。わかりました! 中から人のうめき声が聞こえます!」
「ふむ……そうか」
俺はアジトに背を向けて、歩き出す。
「あ、あれ……? 帰るのですか……?」
「違う。おい」
俺は転がっている、さっきの魔族、チータスの頭を持ち上げる。
白目を剥いて、ベロを出してる……が。
「フレイ、フェンリル姿になれ」
『かしこまですっ! 父上さまっ』
フェンリルになったフレイに向かって、チータスの頭部を放り投げる。
フレイは反射で、ばくっ、とチータスの頭にかみつく。
「いってぇえええええええええええ!」
「! 魔族は……生きていたのですか!?」
驚くミュゼに、俺はうなずく。
「ああ。俺は、気になっていたのだ。ステータスには、魔族はモンスター扱いになっていた。ということは、倒せばドロップ品が出るはず。でもでなかった、つまり?」
「死んで……なかった!」
「正解だ。この魔族野郎は、死んだふりしてやがったのだ。ステータスで確かめた」
「すごい……すごいです! ヒラク様はさすがです! いつもながら冴え渡る頭脳……! 感服です!」
俺はフレイに近づく。
痛がってるチータスに言う。
「おい貴様。ここで何をしていた」
「へんっ! 言うものか!」
「そうか。いくぞ、フレイ、ミュゼ」
「あ、お、おいやめろ!」
「悪党の言葉に従う道理が、どこにある?」
俺はミュゼに道案内してもらい、さっき突き止めた、人間たちのうめき声がする場所へと向かう。
『父上ひゃま。こいつ、殺さひゃないの?』
フレイがもごもごと、口にチータスの頭をくわえながら言う。
ふむ、【開】を使えば殺すことは可能かも知れない……が。
「殺すのは、いつでもできる。死んだふりをしたということは、そうしないと逃げおおせないと判断したからだろう。ならそいつは、中の悪巧みを阻止してから殺しても遅くはない」
『なるひょど! ひゃふは、父上ひゃまっ!』
ややあって。
俺たちはアジトの最奥部へとやってきた。
「これは……祭壇……でしょうか?」
洞窟の奥にはちょっとしたホールのような、開けた場所があった。
その中央部には、土で作られた祭壇があった。
「祭壇の上にあるのは……手? なんだか、嫌な感じがしますね……」
祭壇の上には、人間の手のようなものが置いてあった。
ただ、手にしては干からびてるように思えた。
そして手には包帯? のようなもので、ぐるぐる巻きにされている。
どう見ても危険なものだとわかった。
「あ! 見てください! 祭壇の周りに、人です! 人が倒れてます!」
「ふむ。ミュゼ、治癒魔法を」
「かしこまりました!」
祭壇を取り囲むように、10……いや、30人はいるな。
祭壇を中心にして、人間たちを、円を描くように配置してる。
全員が青い顔をして倒れ、そして、微動だにしていない。
……嫌な予感がする。
「た、大変です! ヒラク様……! 治癒が……治癒がまったくききません!」
「ふむ……」
やはり嫌な予感が的中したか。
フレイのほうを見やる。
チータスのやつが、にやあ……と邪悪に笑っていた。
まあ、そっちはあとだ。所詮動けない。
俺はミュゼのもとへ行く。
青い顔をして微動だにしない、人間の前で、ミュゼが必死に治癒魔法をかけてる。
だが、人間は動こうとしない。
俺はそいつの肌に触れて、【開】を発動。
ステータスを表示させる。
~~~~~~
パンモブ(20)
体力 5/0
魔力 10/0
~~~~~~
「……これは」
「そ、そんな!? た、体力……魔力の上限が、ゼロ!? こんなステータス見たことない……ですよね!?」
「……ふむ。そうだな」
「れ、冷静ですね……」
「ああ」
未知なる事態、しかもいかにもあやしげな祭壇。そして魔族の邪悪な笑み。
恐らく何らかの、最悪の事態が進行中だと覚悟はしていた。
だから、驚きはすれど、次にするべきことはわかっていた。
「鑑定」
~~~~~~
パンモブ
【状態】
落魄
~~~~~~
■落魄
→魂魄が、体から抜け落ちてる状態。体力、魔力の上限がゼロとなる。
魂魄を戻さないと、肉体が死に、蘇生が不可能となる。
「わかったぞ、ミュゼ。こいつらは、魂魄……魂が抜き出されてる状態だ。早く戻す必要がある」
「なっ!? ば、馬鹿な……!? どうしてわかった!?」
背後で魔族チータスのやつが、驚いていた。
答える義理もないので無視する。
「なるほど……この人らは魂魄が抜け落ちてる状態。だから、いくら治癒を施しても目を覚まさなかったと……。し、しかし……魂魄とやらはどこに?」
「ふむ。そこの怪しげな右手が関わっているだろう」
ちら、とチータスの方を見やる。
だがやつは、額に汗をかいてるものの、ムカつく笑みは崩さなかった。
ふむ、めんどうだな。よし。
「こういうときに、相手に秘密を吐かせる力があるといいのだがな」
「? ヒラク様、急にどうしたのですか……?」
『条件を達成しました』
『回答者、を獲得可能となりました』
■回答者(SSS)(消費SP 1500)
→触れた対象は嘘がつけなくなり、質問に嘘偽りなく回答する。
※使用の都度SPを消費する。
思った通り、だ。
俺が望むことで、それに適したスキルの獲得が提案される。
誰の意思かは知らんし、興味もない。
ふむ、消費SP1500か。
安いな。
「よし。1500SPを消費。回答者を獲得する」
・SP5500→4000
人命がかかってるのだ、安い物だ。
こういうときのために、SPがある。なくなって死ぬものではないからな、SPは。
俺はチータスの顔を鷲づかみにして、問いかける。
「おいチータス。あの手はなんだ?」
「【邪神ギンヌンガガプ】様の手だ!」
「ふむ……邪神ギンヌンガガプ?」
・SP4000→3000
ごっそりとSPが減った。
回答者は使える力だが、SPが結構減るな。
この減る量の法則はあるんだろうか。重要な情報ほど消費が大きいなど。
慎重に、情報を引き出す必要があるな。
「じゃ、邪神ギンヌンガガプ様……とは! 我ら……魔族があがめる破壊の神の名前!」
・SP3000→2000
あと、最低二回か。
しかし……ふむ。魔族があがめる破壊の神……。
詳細は、あとで調べる。
今知っておく話は……。
「貴様は、ここでなんの儀式を行っていた?」
「じゃ、邪神ギンヌンガガプ様の、ふ、復活の儀式だ! 盗賊を使って人を連れてこさせて、その魂魄を生け贄にして! 邪神様を復活させる!」
・SP2000→1000
ふむ、理解できた。
「くそっ! くそっ! しゃべってしまった! なんだこいつ!? 何しやがった!?」
「敵に答える義理はない」
情報を引き出したあと、俺は手に近づく。そして、鑑定を行った。
~~~~~~
邪神ギンヌンガガプの右手
【状態】
・封印(※解放まであと130秒)
・人間の魂魄×30
・破壊不可能オブジェクト
~~~~~~
「ミュゼ、状況を把握した。この手は邪神ギンヌンガガプの手だ。こいつは封印されており、人間の魂を取り込んだことで、130秒後に邪神が復活する。そして、どうやらこいつは破壊不可能らしい」
「そ、そんな……!? 破壊不可能だなんて……もう、どうしようもないじゃあないですか……」
ふむ。
だが、問題ない。
「……そうか、【開】は……このために……」
「ヒラク様!? どうしましょう!?」
俺は……。
邪神ギンヌンガガプの右手に、触れる。
【開】を発動させる。
「開錠」
「はっははあ! 無駄無駄無駄あ……! 冥土の土産に教えてやるよぉ! 邪神ギンヌンガガプ様の【遺体】はなぁ! 破壊不可能なんだよぉお!」
チータスのアホが勝ち誇ったように言う。
その間に、開錠を使って、ステータスを操作する。
「どんな強い力を加えようがぁ! 絶対に破壊不可能なんだよ! てめえがいくら強かろうと! 絶対の絶対に壊れやしないんだ!」
「せいっ……!」
パキぃイン!
「なぁにい!? じゃ、邪神様の右手が、粉々になったああ!?」
俺は魔法で氷の剣を作り、そして、邪神ギンヌンガガプの手を破壊した。
「う、嘘だ!? ぜ、絶対に破壊不可能なのに!? どうしてぇ!?」
「開錠を使って、ステータスを書き換えた」
「ステータスの書き換えだとぉお!?」
邪神ギンヌンガガプの右手は、【破壊不可能オブジェクト】という状態だった。
なら、この状態を開錠……他者のステータスに干渉するスキルを使って、書き換える。
・SP1000→0
「そ、そ、そんな……邪神ギンヌンガガプ様の……復活が……こんなガキに阻まれるだなんて……」
そして手に含まれていた、魂魄たちが……。
元の体へと戻っていった。
「うう……」「あれ……?」「ここは……?」
「ヒラク様! 見てください! 気を失っていた人たちが、全員目を覚ましました!」
ふむ、良かった。
右手を破壊したことで、取り込まれていた魂が解放されたのだろう。
「すごいすごいすごいです! 邪悪なる企みを阻止して、人々をお救いになるなんて! まさに救世主です! さすがヒラク様です!」
『もがぁ~……口にものくわえてるひゃら、うまくしゅごいいえないぃ~……』
二人が褒める一方、魔族のやつは驚愕していた。
「な、なんだ……なんなのだ貴様……?」
「ただの、外れスキルもちの、落伍者だよ」
『邪神ギンヌンガガプの遺体を討伐しました』
『条件を達成しました』
『【開】、レベル3へと進化します』
『SP0→10000』