12.盗賊も魔族も超余裕で倒せる
フェンリルのフレイが仲間になった。
その後、俺は次なるクエストを、冒険者ギルドで受注した。
『とーっちゃっくです! 父上さま~!』
俺たちはウォズから南東にある、【ドンタキ】という森に来ていた。
ドンタキまではかなり距離があったのだが、街を出てすぐにここへこれた。
「ぐぬぬ……やりますね、フレイ。さすがフェンリル。この距離をこんな短時間で走破するとは」
『えへへ~♡ 父上さま~♡ どうですかー? すごいですかー!』
ふむ、たしかに。
俺は、フェンリル状態のフレイの顎の下をよしよしとなでる。
フレイが嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振るった。
ぽんっ……。
「父上さま。どのようなクエストを、受けたのですか?」
「ふむ、聞いてなかったのか?」
「はい!」
ふむ。まあ子供には少し難しかったか。
しかしフレイのやつ、俺が危ないから宿で待ってろといったのに、付いてくると言ってきかなかったのだ。
『父上さまの、かっこいいご活躍を、ちかくでみたいのです!』とのことだった。
まあミュゼもいるし、大丈夫だろうと思い連れてきた。あまり感心はせぬがな。
「ヒラク様、ここは私が。一番奴隷のわ・た・し! が、このお子様に説明します」
「ふむ。頼む」
ミュゼがフレイに説明したのは、こんな内容だ。
『ドンタキの森の調査依頼』
『ウォズ南西にあるドンタキに、最近盗賊の姿を確認してる。アジトがあるかもしれない。その場所の特定』
「とーぞくの、アジト! 父上さまが、ぶっ壊すのですね!」
「ちがう。あくまで、場所の特定だ」
「そうですかぁー……でもでも! 盗賊ごとき、父上さまなら、わんぱんでございますよねっ!」
「ふむ……どうかな」
俺は地面に手をついて、【開】のスキル、ステータス操作を発動。
レベル2の【開】となった俺には、フィールドのステータスを表示することができる。
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ドンタキの森
【モンスター・一覧】
・盗賊(D)×25
・盗賊(C)×5
・盗賊(?)×1
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ステータスを可視化し、俺はミュゼとフレイにも、ステータスを見えるようにした。
「これは確実に、あるな。盗賊のアジトが」
「ふぉおおお! すごいです父上さま! 盗賊のアジトがあることを、一瞬で付きとめてしまうなんてー! すごいすごーい!」
フレイがぴょんぴょんと飛び跳ねる。
ぐぬぬ……とミュゼが悔しがる。
「フレイが加わったことで、私の【ヒラク様すごい】係を奪われてしまう……!」
「ふむ。馬鹿言ってないで、ミュゼ。超聴覚を使ってくれ」
「かしこまりました!」
ミュゼは耳をそばだてる。
彼女にスキルで、盗賊達のアジトの位置を特定してもらう一方……。
俺は、さきほど確認した、ドンタキの森のステータスを見て、思うところがあった。
「父上さま、どうしたのですかー? ムヅカシイ顔をして?」
「ふむ。盗賊(?)が気になってな」
盗賊のアジトには、CとD程度の実力者がいるのは、わかった。
しかしそのなかに、(?)という、ランクが測定できないやつがいるのが、気になったのだ。
「スキルの不具合でしょーか?」
「ふむ。そう考えるか。俺はな、こいつが特殊なスキルを使ってると考えた」
「とくしゅな、スキル……?」
「ああ。たとえば、力を隠すような……そう、隠蔽のようなスキルを使ってるのではないかと」
『条件を達成しました』
『スキル、【隠蔽】が獲得可能になりました』
『スキル、【隠蔽看破】が獲得可能になりました』
■隠蔽(A)(消費SP 100)
→姿やステータスを、隠蔽可能となる。
■隠蔽看破(S)(消費SP 500)
→隠蔽スキルで伏せられた情報を、看破できる。
ふむ?
心なしか、獲得にかかるSPが増えてる気がする。
それだけ、効果の高いスキルということか。
あるいは、俺の職業では、取得の難しいスキルゆえ、消費量が多くなるのか。
まあいずれせよ、どちらも有用なスキルだ。
どっちも取得しておこう。
・SP6500→5900
「スキル隠蔽看破、使用」
『隠蔽によって隠されていた情報が、オープンになります。以下の通りです』
『盗賊(?)→魔族(S)』
続いて、鑑定。
■魔族(S)
→高い魔法適性を持つ、人間とは異なる種族。
「ふむ……魔族、か」
「父上さま、まぞくとは?」
「人類にあだなす、敵だな。しかも厄介なことに、かなり強いと聞く。ひとりで、竜を瞬殺できるとか」
「! そのような強い種族が……なぜ盗賊に?」
「おそらくは、用心棒的な感じで雇ったのか。あるいは、魔族が盗賊どもを、手下として使ってるか」
どちらかというと、後者の可能性が高いな。
しかし魔族。かなり強いと聞く。これはどうするのがいいか……
「大変です! すぐに、たおさないとっ! のぶれす・おぶりーじゅ、ですよねっ?」
ふむ……。
そうだな。
かつての俺ならいざしらず、今は俺には【開】、そして、神狼騎士の力もある。
魔族のランクはS。
生ける屍とかした母フェンリルのランクがSだった。
あのときの俺は、普通に戦えていた。
ならば、魔族相手でも、俺は戦えるだろう。
勝算はある。それに、ほっとくと事態は悪化するだろう。
「ヒラク様、アジトの位置を特定できました。どうしますか?」
「当然、アジトを潰しにいくぞ」
「やはり! ヒラク様なら、そうおっしゃると思いました。さすがヒラク様、人々の平和のため、自ら進んで、危険な地に赴く……その勇気、あっぱれでございます!」
・SP5900→SP6200
スキル報恩謝徳が発動したようだ。
ミュゼとフレイ、二人を喜ばせたからか、SPの回復量が上がってる気がする。
「よし、フレイ。フェンリル姿になって、俺たちを乗せて運んでくれ」
「かしこま、です!」
フェンリルになったフレイにのり、ミュゼに道案内させて、俺たちはアジトの入り口までやってきた。
隠蔽スキルを使い姿を消して、入り口の様子をうかがう。
「盗賊ですね。あそこがアジトで間違いないかと」
森の中にある、洞窟前には、盗賊らしい風貌の男が見張りとして立っている。
「ミュゼ、魔法で敵を外におびきだしてくれ。できるだけ派手な感じ、しかし殺すな。できるな?」
「委細承知です!」
ミュゼが両手を突き出し、そして魔法を発動させる。
「【業火球】」
手の前に巨大な火の玉が出現。
洞窟の壁めがけて飛んでいく……。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「な、なんだなんだ!?」「敵襲か!?」「どうなってやがる!?」
騒ぎを聞きつけて、盗賊達が出てきた。
俺は氷の剣を魔法で作り、地面に突き刺す。
「氷魔法……【氷縛】」
がきぃん!
「なんだぁ!?」「か、下半身が急に凍り付いたぞ!?」「くそぉお! うごけねえ!」
ふむ、出てきた雑魚の盗賊達は、俺の魔法で無力化できたようだな。
次々出てくる盗賊どもを、俺は同じように魔法で動けなくする。
「父上さま、すごいです! あんないっぱいの盗賊達を、一瞬で捕まえてしまうなんて!」
「ぐぬ……またすごい言う係、フレイに取られてしまいました……」
さて、雑魚の掃除は済んだ。
いよいよ本命が、出てくるだろう。
「おいおいおいおい、こいつぁいったいどぉおいうことだい?」
「「「リーダー!」」」
見るからに、格の違う、盗賊の男が現れる。
リーダーと呼ばれたそいつが……。
「おまえが魔族か」
「ほぅ……少しはできるようだな。人間」
リーダーの男から、ずずずう……と黒いオーラのようなものが湧き上がる。
男は人間の姿から、別の姿へと変貌していく……。
「チーターの……獣人……? いや、この圧倒的なプレッシャー! これが、魔族ですか!?」
「そのっとおりだ、ハーフエルフの女。おれは男爵級魔族……【高速のチータス】だ!」
■男爵級
→魔族には、強さに応じて格付けがされている。
下が男爵、上が公爵。
二足歩行するチーターのような見た目の、こいつが魔族、高速のチータスか。
「くく……このおれの隠蔽を見抜く人間なんて、久しくいなかったからな。どれ、ちょっとは楽しませてくれよ? 人間」
「ご期待に沿えず申し訳ないな」
俺は氷の剣を構える。
「いくぞ!」
「来い」
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
「なるほど、おれについてこれる程度の腕はあるようだなぁ。だが次は、おれのツメの餌食だ!」
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
「ぐ、こ、この……! 高速の能力を使ってるのに、なおもついてくるだと!?」
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
ギンッ……!
「ヒラク様の剣が、高速のチータスのツメを打ち破りました!」
「仕舞いだな」
ざんっ! と俺は躊躇なく、チータスの首を切った。
「ば、馬鹿な……魔族を……凌駕するというのか……たかが、人間風情……が……」
チータスが絶命する。
その姿を見て、盗賊どもは絶望の表情を、ミュゼ達は歓喜の笑みを浮かべる。
「さすがですヒラク様! 魔族をまるで赤子の手をひねるかのごとく、たやすく倒してしまわれるなんて! すごい……すごすぎます!」
「父上さまーすっごーい!」
ふむ……どうやら魔族だろうと、今の俺にはかなわないようだ。
強くなれたのだな、俺は。
『条件を達成しました』
『魔族チータスから、【高速】をラーニングしました』
『スキル、【高速】が取得可能です(消費SP1000)』
■高速(S+)
→脚力を強化し、俊敏性を上昇させる。
もちろん、取る。
なかなかあのチータスのやつ、速かったからな。スキルによる補正を受けていたのか
しかし魔族の力も、SPを使えば、コピーのようなことができるなんて。
【開】、やはり、天より与えられし特別な恩恵のようだ。
俺はよりいっそう、この力を、か弱き人たちのために使おうと、そう決意したのだった。
・SP 6200→6500→5500




