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アネモネが華やかに舞いましょう  作者: komado(六種銘菓BOOKS)
アネモネが軽やかに舞いましょう
59/60

◯マーチャント同士の出会い

「へえ、お前駆け出しの商人なのか!」

 ロアを見つめてそういった女は、赤い髪を二つに結い分けた商人でした。たくましそうな見た目の割に、声はとても愛らしいです。

「なら俺の商品も見ていってくれよ。とっときが沢山だぜ」

「気になる。拝見しよう」

「ちょっとエリア。人の店でお店屋さんしないで貰える?」

「ああカフェ、わりいわりい。つい商売の話になるとテンション上がっちまってさ!」

 ここは喫茶店cafe chokerの本店。草原の真ん中に建ち、街からは程遠く離れたこの店にとって、食材などを運んできてくれる商人の手はかかせないものです。特にこの少女――エリアは一番のお得意様。様々な土地から仕入れた商品を定期的にこの店まで届けてくれるのです。そのため、カフェアリーヌはこの店から長時間離れることもなく、店を運営できているのです。その付き合いも随分長いものでした。

「構わねえだろ? 今日だってこの店、一人も客がいないんだぜ。だったら片隅くらい貸してくれよ。なっ、ロアからも」

「そうだな。可能なら、彼女の商品を見てみたい」

「全くしょうがないわね。ちょっとだけですからね」

「有り難い」

 商人ならではの大きなカバンから、エリアはありったけの商品をテーブルの上に並べ始めました。食料品が多いのかと思えばそうではなく、敷布や食器・ガラス製品、本に葉巻などと、様々なものが出てきます。いずれもロアが見たことのない品でした。

「お前は異世界を知ってるか?」

「異世界」

 ロアは確認するように反復します。

「そうさ。この世界は小さい。だが世界ってのはな、見渡せばうんと数があるんだぜ。異世界から集めたもんは、この世界でも高値で売れる。商売の始め方としてはうまい話だと思うが、どうだ?」

「興味はある。だが、異世界というのはおいそれと行ける場所ではないだろう」

「どっこい。俺なら行けちゃうんだな。行き方は難しくないが、誰かを連れて行くのはとびきり難しい。だから俺は商材だけ行き来させてるんだ。どうだ、カフェみたいに契約もできるぜ。俺から定期的に異世界の品を買い付けることができる権利。いいことがあるかもしれねえぜ?」

「……ホラ吹きにも聞こえかねないことを言っている。カフェアリーヌ、どうなんだ。事実なのか」

 カウンターで紅茶を蒸らしているカフェアリーヌが、呆れ気味と言うべきか、ため息交じりに答えます。

「一応、本当よ。彼女は異世界に行くことが出来て、そこから珍しい品を買い付けてくることができる。行き来が制限されている環境にほいほい出かけていって、それでこの世界――ワールド・アネモネにないものを提供してくれる。類まれなものに恵まれた商人よ」

「褒め言葉は素直に受け取るが、あっさりした説明だなあ、カフェ。ほら、もっとダイナミックに語ってくれたっていいんだぜ?」

「ダイナミックって何よ」

 エリアは豪快に笑いながら、カフェアリーヌのいぶかしげな表情を吹き飛ばすように背中をバンバンと叩きました。いつものことなのか、カフェアリーヌのため息は止まりません。

「カフェアリーヌは彼女から食料品以外も買い付けているのか」

「ええ、時々ね。小さいものだと食器だとか……焼き菓子の梱包資材とか。大きいと設備全般よね。色々彼女から。そういう意味でも感謝はしてるのだけど」

「けどってなんだよ」

「いいえ、べつに食料品の仕入れに限って雑だなんて話はしていませんよ」

「ちえっ。いいじゃねえか、食えば無くなるものだぜ」

「そういう問題じゃありません」

 カフェアリーヌは店の奥に戻る素振りを見せながら、二人に言付けます。

「そんなわけで私は納品のチェックをするから、二人で話してて頂戴。もう、エリアにはついていけないわ……」

「おう! 茶だけごちそうになるぜ!」

 エリアは自分からポットに手を付け、カップに注いで一気に飲み干しました。熱いはずのそれを全く気にしていません。ロアはその様子を何も言わずじっと見つめています。

「なんだよ、調子狂うな」

「いや。仲が良いものだと思っただけだ」

「そりゃー、この店の運営が始まった頃からの付き合いだ。もう長いぜ?」

「ならば支店にも荷は卸しているのか」

「支店ってなんだ?」

 眉間にシワを寄せつつ首を傾げるエリアの様子に、ロアは「そうか」とぽつり呟きました。

「……知らないのならいい。しかし、貴重品しか扱わない店か。カフェアリーヌのような固定客がいれば随分安定するだろう」

「そうだぜ。例えばこの妙薬。眠り薬はこの世界でもよく見かけるが、逆の働きを持つんだ。しばらく眠るのを控えたいときなんかにゃオススメだぜ。紅茶を何杯と飲むよりずっと効く。あとはこっちの本、原本の言葉はわからないだろうが翻訳用のペーパーが俺特製なんだ。俺からじゃなきゃ買えないぜ。面白いだろう。そうやって自分が『いい!』と思った商材は進んで買い付けていったり、自分でカスタムしていくんだ。それを納得のいく価格で売る。薄利多売なんて俺の性格には合わないからな」

「成程。初心者は高値で売れるものを、とは聞く。実際にそれをやって成功しているのだな」

「まだまだ成功なんてもんじゃないぜ! 自分が楽しめて、それで食っていけてるからやってるだけの話さ。世界は、小さいが数がある。危険も多いが、冒険しがいがある。カフェみたいにあっさりシンプルに言うなら、そんなところだな」

「それは良い。商品だけでなく、様々な話を見聞きしてるだろう。カフェアリーヌに聞かせてるのか」

「俺は旅人とは違うから、そんなことしちゃいないぜ。だってよ、俺の口は商売道具だ。品をさばくとき以外にべらべら喋っちゃ勿体ないもんだろ?」

「……成程、そういうものかもしれない」

 ロアは説明を受けた妙薬の瓶を手に取ります。黒い瓶ですが透き通っており、中に丸薬がいくつも入っていることがわかります。実際にこの薬に効果があるのかどうか、飲んでみなければわかりません。ですがエリアの語り口や性格には、それが事実であるよう思わせる力がありました。適度な距離感や親しみやすさ。商人に必要なものだろうかと、ロアは考えます。

「お前は口数が少なそうだな。だが商いをして物を人から買ってもらおうってんなら、口達者じゃなきゃならねえぜ。もしくはそれを上回るくらいの上物を仕入れるか。どっちのが気が楽だ?」

 信頼してもらえる商人になれるかどうか。それは努力の積み重ねであり、誰でもスタート地点はゼロで変わりない。エリアとカフェアリーヌのように長い付き合いになる客同士にも、初対面のときはあったはずだ。そんなことをロアは考えていました。己の未熟なところに向き合いつつも、今は目の前の珍しい商品に目が釘付けです。

 ロアは机の上に広げられた商品を指差し、エリアに言います。

「エリア。あなたの商品は十分上物だろう。いくつか買い付けたい。私も定期的に荷を卸したい場所があるんだ」

「おっ、話が早くていいねえ。上等だぜ。好きなもの見ていってくんな!」

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