表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第一章 春、出逢いと始まりの季節
7/229

第7話 買い物に行こう

前回のあらすじ

秋芳あきよし部長にクシャクシャにされた春山くんは、深谷ふかや先輩にめちゃくちゃ怒られた。


 今日の稽古で4月中の部活は終わりになる。


 入学式から今日まで、目まぐるしい毎日で、1か月があっという間に過ぎ去ってしまった。


 高校生活も慣れてはきたのだが、部活には今だ慣れていない。

 というか、茶道部入部後の4月下旬の時の流れだけ、異様に早く感じられる。


 明後日から5月の連休に入る。

 学校も部活も、しばらくはない日々。

 正直、新生活で疲れが溜まってはいた。まあ、その大半の原因は部活なのだが。

 そんなわけで、この連休は家でじっとしていてゆっくりしていたい。

 どこか一緒に遊びに行く友達もいないことだし。


 しかし、しばらく秋芳部長たちともお別れかー

 嬉しいような悲しいような。




 部活終わりの帰り道。

 この前同様、僕と秋芳部長、深谷先輩と3人並んで歩いてる。


 そこで思い出したかのように部長が尋ねてきた。

「春山くん?」

「はい」

「今度の休み、何してるの? どこか旅行とか行くの?」

「え? あー まあ、予定はないですけど。家にいるだけです」

「そうなんだ。あのね、連休中に一回部活やろうかなって思ってるんだけど」


 学校休みでも部活やるんですか……

 うっかり予定ないって言ってしまった。


「1日でも茶室を開けて、風通しよくしておきたいんだ。それなら、せっかくだからお稽古もしようかなーって」

「ええ、いいですけど……」


 まあ、1日くらいなら……


「その前に、いい? 春山君」

 そこに深谷先輩が話に入ってきた。


「なんですか?」

「春山君? お金いくらある?」


 えっ? お金? カツアゲですか?


「なんか変なこと考えてるでしょ」

「いや別に、なにも」

「あなたに茶道に使う道具を一式そろえてもらいたいから。それにはお金かかるから、いくらまで出せるかってこと」


 あー びっくりした。そうでしたか。なるほど。


「そしたら一緒に道具、買いに行こう」

 今度は部長が、テンション高めに割って入ってくる。


「一緒に? 買いに? ですか?」


「最低限必要なものは自分用として持っておいた方がいいわ」

「必要なもの?」

帛紗ふくさ扇子せんす懐紙かいし楊枝ようじ、くらいかしらね。全部で1万はしないと思うけど、出せる?」

「ええ、まあ、大丈夫ですけど」

 と、深谷先輩が説明してくれるが、専門用語がよく理解できない。


 ふくさ、は、まあいいとして、扇子? かいしってなに? 楊枝なんかも買うの?

 そのうち、よくわからないバカ高い壺とか茶碗、買わされるんじゃなかろうか……


 難しい顔をしているだろう僕に、今度は部長が優しく、

「どこで、どんなの買えばいいか分からないでしょ」

「そう、ですね」

「そしたら、今度の休みの日、みんなで買いに行こう。私も一緒に選んであげる」


 部長たちと買い物?


 休みの日に買い物……

 

 ショッピング……

 

 ……デート!??


 いやいや、これは部活だよね。

 ショッピングとか、そーゆうのとは違うよね。


「どうしたの?」

「あ、いや別に……」


 これも茶道部の稽古の一つ。でも、学校ないけど。

 っていうか、連休の1日がまた消えて、連休じゃなくなった。 


「あの……どの辺まで行く予定ですか?」

「そんなに遠くじゃないよ。電車で終点まで。そこの駅ビルにお店あるから、近いよ」


 休みの日に電車に乗って繁華街まで。

 これはもう完全にデート……じゃない、まぎれもなく部活動。

 部活だけど制服で? いやいや、私服で? だよね。学校ないし。 

 部長たちの私服? 見てみたいような……

 って、僕も私服? そんなオシャレしたことないし、女の子と一緒に歩く服なんて。

 そもそも、休みの日に女の子と歩くって、僕の人生初なんじゃ……


「あの部長! その日って制服ですか?」

「えっ?」


「春山君、あなたなに言ってるの? 休みの日に、あなた学ランきて買い物行ってるの?」

 深谷先輩に可哀そうな子を見るような目つきでバカにされた。



 そうこうしているうちに、分かれ道の十字路に着く。


「詳しいこと決まったらメールするね」

「わかりました。お疲れ様です」

「またねー」


 2人と別れ、家に向かう僕。

 今日も帰ってから、いろいろと考えることが多そうだ


 と、そこに後ろから声が……

「春山くんー」


 部長?


 僕の後を部長が小走りで追いかけてきた。


「春山くん、これ貸してあげる」

 ちょっとだけ息を切らせながら言って手渡してくれたのが、


帛紗ふくさ?」

 今日の稽古で借りて、部活が終わって返した物だ。


「しばらく部活ないから、これで練習してみて」

「あ…はい。ありがとうございます」


「それじゃぁ、またね」


 そういって笑顔を向けると、また小走りで深谷先輩が待っているところまで戻っていった。


 ん……これ渡されてもなー


 とりあえず朱い色が目立つのでポケットに入れて家に帰った。




 自室に戻って着替えて、しばらく漫画見たりゲームしたりしてゴロゴロしていると、制服の上着のポケットに入れっぱなしの帛紗の存在を思い出した。


 練習……する……のか?


 せっかく部長が貸してくれたんだし、とりあえず取り出してみる。


 しかし、何度触っても、触り心地がいい。

 こうやって触っていると、部長の手をさすっているような感覚だ。

 ……我ながら気持ち悪いこと思ってるよな。


 それを、広げたり、たたんだり。


 そのたびに、あの時、部長に握られた手の感触がよみがえる。


 これじゃあ、練習にならないよ……


 しばらく僕は、手にした朱色の帛紗を眺める。


 そして、ふと、それを鼻先まで持ってくる。


 あっ…… いい匂いがする。


 線香の匂いだろうか?


 どこか懐かしく、かすかに甘く、優しい匂い……


 これは確かどこかで……そうだ、初めて茶室に入った時、この匂いがしていたような。


 これは茶室の匂いなのか。

 それとも部長の香りなのか……


 僕は練習することも忘れ、

 しばらく手を止め、

 香りの中で秋芳部長のことを思っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 最後の普通にキショいで
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ