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僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第一章 春、出逢いと始まりの季節
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第3話 三人での下校

時刻が下校時間の18時に近づくと、今日の部活動も終わりを告げようとしていた。


「じゃあ、今日の稽古は終わりにして、帰ろうか」

「はい、ありがとうございました」

お互い正座し、両手の指先を畳につけ頭を下げる。


部活の初日。たいして体は動かさなかったが、なんだかすごく疲れた。

半日の授業よりも数時間の部活の方が疲労感が高いなんて。

高校の部活動ってこんなに疲れるものなのかな……


「そういえば春山くんって、家近くなの?」

荷物を持ち上げ部屋を出ようとする僕に、部長がおもむろに尋ねてきた。

「まあ、近いですけど」


確かに学校まで近い。歩いて15分くらいである。

というか、近くて登下校に楽という理由でこの高校に進学したほどだ。


「僕、今日は歩いて来てますけど……」

「うん、知ってるよ」


……え?


「いつも駅とは逆の裏門から歩いて登校してるもんね」

部長は、さも当然のことのように切り返してきたのだが。


何でそんなこと知ってるんだろう……

確かにそうではあるけど。

どこかで見られてたのかな? なんか怖いんですけど……


「あのね、私たちも同じ方から歩いて通ってるんだよ」

「……そう、ですか……」

「もしかしたら、私たちとご近所なのかもね」

「きんじょ?」


僕の家と部長たちの家が近くって、もしかして同じ町に住んでるの?


「ねぇ、どの辺? 何丁目?」

僕に食いつくように訪ねてくる部長。


「あー 5丁目です、かね、」

「私たちより学校に近いんだー もしかしたら通り道かも。商店街のほう?」


 なんでこんなに知りたがるんだろう? あんまり家を特定されたくないんだけど……


「私たちはその先の坂を越えて下ったところね。20分くらい歩くかなー」

「はあ……」


 秋芳部長宅の住所や通学路は、あまり興味ない情報なんだけどな……


「じゃあ、今日一緒に帰ろっ、ね」


 え? 一緒に帰るの?

 そうかー 帰りまで一緒なのかー


「あの、みんな一緒に帰るんですか?」

「うん、せっかくだから、ね」


 そんな笑顔で言われたら断るわけにもいかないし、帰る方向が一緒なら、なおさら断る理由が思いつかない。


「はぁ、まあ」

 渋々返答した僕であったが、その言葉を聞いて部長は嬉しそうに頷いた。


「一緒に帰るのはいいけど、ちゃんと掃除してからにしてください」


 深谷先輩の鋭い言葉がその場を締め付けたが、部長の「はーい」という間延びした言葉で相殺された。




 部室に鍵をかけ、僕たち三人は昇降口へと向かい、それぞれ分かれて靴を履き替える。


 僕が靴を履き終わるよりも早く、僕を見つけた部長は、

「春山くん、足、大丈夫?」

 と、気遣いの言葉をかけながら僕に近寄るが、その僕の足にダメージを与えたのはこの人だ。


「歩けないほどじゃないですから、大丈夫です」

 そうは言うが、毎回こんなことされたら、確実に歩けなくなる。


「もし辛かったら、おんぶしてあげようか?」

 と、部長が後ろをむき腰をかがめ、僕におぶさるようにアピールしてくる。

 そんなこと、恥ずかしくて僕にできるはずがない。

 下校時刻、そこそこ生徒が行き交う場所で、僕はそれを横目で見ただけで無言でスルーした。


「早く行くわよ、二人とも」

 すっかり準備の整えた深谷先輩が先に歩き始め、僕たちはそれに続いていく。


 朝、登校した道のりを逆にたどっていくだけの行程。

 入学してから何度か往復した道のり。


 しかし、今日の行きは一人で帰りは三人。

 まさか部長たちと一緒に帰ることになるとは思わなかった。


 人も車も疎らな道で、部長を真ん中にし三人並んで歩く。


 女の子と一緒に帰るなんて……

 緊張するというか恥ずかしいというか。

 なに話せばいいんだろう?

 何も話さなくていいのかな?


「ねえ、春山くん?」

「はい?」


 考えながら歩いていると、急に部長に声をかけられたので、変に裏返った声で返事をしてしまった。


「自転車でこないの?」

「あー なんか自転車通学は、学校に登録とか申請書提出するとかで、もう少し落ち着いたらしようかと」


 歩いても来れない距離ではないし、別に急いで自転車通学にしようとも思っていなかった。


「それよりも部長たちのほうが、結構歩くんじゃないですか?」

「ん~ 20分から30分くらいかな~」

 部長は簡単そうに言い放ったが、それを毎日歩いて通うのは、きついのではないだろうか。


「実際もっとかかるわね」

 それをすぐさま深谷先輩が訂正した。


「香奈衣がいつも寝坊するから」

「寝坊なんかしないよ。ちょっと朝の仕度が遅れるだけだよ」

 冷静に話す深谷先輩に、必死に否定しようとする部長。


「毎朝、起こす身にもなってよね」

「ちゃんと起きてるよ。着替えるのに時間がかかるだけだよ」


 部長はそんなこと言ってるけど、きっと、寝坊してるんだろうなー 部長。

 それを深谷先輩が起こして、一緒に登校するのだろう。


 そんなに時間がかかるなら、なおさら、

「先輩たちは自転車登校にしないんですか?」

 と尋ねると、深谷先輩が、

「学校に行くまで坂を上って下って、また上って下って上るから、逆に疲れるのよね」

「電動機のついたのは?」

「そんなものに寝ぼけた香奈衣が乗ったら、どうなると思うの?」


 あー それは確かに。

 想像すると、この部長が学校に着くまでに、何人か引き倒してくる様子しか思い浮かばない。

 そんな部長は、どうしたの? というような顔で僕を見ている。


 そして、そんなことに気にもしない部長が、、

「これからは部活終わりは一緒に帰れるね」


「え?」


「一緒に同じ方向で歩いて帰れる距離でよかったね」

 

 これからも、部活が終わったとしても一緒なんですか?

 というより、僕、自転車で通いたいんですけど……


 僕が今後の未来に危惧していると、夕日に照らされた部長は、僕の進路をふさぐように飛び出し、覗き込むようにして、

「こうやってみんなで歩いて帰るって、なんだか青春って感じがするよね」

 と、笑顔でそんなことを声にした。


 沈みゆく朱い日の光に染められた部長の笑顔は、とても明るく温かく、まぶしかった。


 部長のそんな仕草と言葉が、ちょっとかわいいなー と思ってしまい、不覚にもドキドキしている。

「いや、まぁ……青春……なんですかねぇ……」


 よく映画や漫画で見るシチュエーション……

 高校生の男女が共に下校し、会話し……

 その男が僕で、ヒロインが部長……?


「ねぇ、春山くん」

「……あっ、はい?」


 また変な妄想をしているところに、ふいに僕の名前を呼ばれて、また変な声を出してしまった。


「えーっと、何ですか? 部長」

「連絡先教えて」


 連絡先?


「あー はい」

 急に言われて何の疑いもなく、スマホの電話番号とアドレスを交換してしまった。

 部活の部員同士なら当然なこと……なのか?

 連絡事項とか予定を伝えるのに必要ではあるが。

 言い換えれば、これは四六時中、連絡が取れるということである。


「これでいつでも連絡できるね?」

 慣れた手つきでスマホを操る部長。

 お目当ての商品が手に入ったかのような満足感いっぱいの顔をのぞかせる。


 しかし、僕の個人情報を部長に渡して大丈夫なのだろうか?

 悪い予感しかしないのか気のせいだろうか?


 それにしても、クラスの同級生を差し置いて、高校初の連絡先の交換が、まさかの部活の部長だったとは。

 しかも、美少女の先輩……


 高校に入ってから手に入れたスマホはまだ新しく、登録も家族くらいしか入っていない。

 そんな中での秋芳部長アドレス。

 僕は慣れないスマホをいじりながら、なんとか登録をすます。


 そんなことをしているうちに、坂を下り、バス道路を渡り、橋を渡り、商店街の入り口まで来ていた。


 先輩二人は話しながら、そのまま真っすぐ進もうとしていたので

「あの、すいません。僕こっちなんで」

 僕はこの十字路で曲がらなくてはならない。


「春山くんの家、こっちなんだ。私たち真っすぐ坂のぼって、下った先だからね」

「今日はありがとうございました」

「また今度ね」

「お疲れ様」


 二人と別れた僕は、手を振る部長をしり目に、そそくさと家に向かった。



 家に着き、真っ先に自分の部屋に入ると、僕はそのままベットの上に倒れこんだ。


 疲れたー あー 疲れたー


 今日一日いろいろあったことが、頭の中で次々と浮かんでは混ざり合い、消えていき、また浮かんでは溶けていく。


 予想していた高校生活とはまるっきり違うスタートとなってしまった。


 初めての部活。

 初めて学校の人と一緒に下校。

 それも、女の子との下校。

 初めての連絡交換。

 それも、女の子との連絡交換……


 思えば、久しぶりに家族以外で会話をしたような気がした。

 おかげで喉がカラカラだ。


 飲み物を取り行こうと体を起こしたところ、スマホからメールの着信音がなった。


 ……部長からだ。


「お疲れさま。今日はどうだった? 最初だから疲れたでしょ。ゆっくり休んでね。またね!」


 メールの文章が、脳内で部長の声で自然と再生された。


 分かれたから全然時間たっていないのに、早速、部長からのメール。

 なんだか嬉しいような恥ずかしいような。

 じっとしていられない、変なむず痒い感じに体が包まれる。


 僕は遅れてはいけないと、慣れないスマホですぐさま返信をした。


「今日はありがとうございました。これからもよろしくお願いします」


 と、返信した…………直後に思った。



 これからもよろしく……なんだ。


 これからも……

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。


小説書くのって難しいですね。


ご意見、ご感想、ご指摘 ございましたら、よろしくお願いします。

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