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僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第一章 春、出逢いと始まりの季節
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第2話 正座はつらいよ

 今日は初日ということもあって、部活の内容などの説明やら注意事項などの基本的なことの説明から始まった。


 お互い畳の和室で、正座して向かいある。

 正面には秋芳部長と、右隣に深谷先輩が。


「よろしくお願いします。春山勝喜はるやまかつきです」

 僕はゆっくりと頭を下げる。


「茶道部部長の秋芳香奈衣あきよしかなえです。よろしくね、春山くん!」

 元気いっぱいの笑顔で挨拶する部長に見つめられると、なんだか恥ずかしく感じる。


「副部長を務めている深谷水月ふかやみつきです。よろしく」

 そして抑揚のない平坦な口調で先輩から挨拶され、現実に引き戻される。


 部長は、まあ、こんな感じで困るのだが、深谷先輩は気難しそうで、これまたとっつきにくい。


「これから一緒に頑張ろうね、春山くん!」

「あー はい……」

 身を乗り出してまで、やる気を解き放つ部長に、なんとも気の抜けた言葉で返してしまった僕。


「いいかな、春山君。これから部活の説明をしていきたいんだけど」

「あっ、はい。よろしくお願いします」


 その後しばらく深谷先輩からの説明が続いた。

 その間、部長は笑顔で僕のことを見続けているもんだから、正直落ち着かない。


 前回の体験入部の時には会ったのだが、今日は参加していないそのほか二名の部員の紹介もされた。

 南明日望みなみあすか先輩は、よく体育系の部活の助っ人に行っていて、なかなか茶道部には来れないらしい。

 遠野翠とおのみどり先輩は、遊びとバイトで、気の向いたときにしか来ないらしい。

 二年生の女子生徒の先輩4人と、僕一人、の計5人。

 部活構成人数の最小人数で、僕が入部しなければ、この茶道部は廃部だったようだ。

 いわば僕は茶道部の救世主のような存在。のはずなのだが……


 その後に茶道部の活動方針の説明と続いた。

 どうやら文化祭が一つの目標らしい。

 文化祭にて茶道部主催のお茶会を開き、そこで一人ひとりお点前、というお茶をたてておもてなしするようだ。

 その時に一通りの作業ができるようになるのが、これからの僕の目標らしい。

 まったくの素人の僕でも、部長が言うには「大丈夫だよ!」らしい。


 そんな話を、かれこれ20分ほど聞いていたのだろか、徐々に僕の体には異変がおとずれていた。


 ……足が……しびれた……


 こんな長時間、正座したことなんてなかったものだから、足先が痺れて痛い。

 というか足先の感覚がなくなってきてる。


 正座で足がしびれるって、こういう感覚なんだなー


 話も上の空で聞いてると、さすがに部長が異変に気づいたようで、

「どうしたの、春山くん?」

「あの……ちょっと、足が、しびれまして……」

 ここはしょうがない。恥ずかしいけど正直に打ち明けた。


 深谷先輩は話を止め、ふーとため息をついてから、

「そうね、少し休憩しましょうか」

 そういうと立ち上がり、次の支度のためにか台所の方まで行ってしまった。


「しびれちゃったの?」

 心配そうに、僕をのぞき込む部長


 さすがにこのまま正座を続けるのは厳しい。

「足伸ばしていいですか?」

「うん、いいよ。まだ慣なれないからね」


 やばいなー しびれるとほんと立てなくなるもんだな。

 立ち上がろうとしても、全然、力が入らない。


 僕は足を伸ばして、つま先をマッサージしていると、部長がゆっくりと近づいてきて……


「春山くん?」

「はい」

「足しびれちゃったてことは動けないのよね」

「まあ」

「じゃあ、なにされても動けないんだ」


 そういって僕の足を指で突っついてきた。


 なにしてんの? この人? 普通に痛いんですけど……


「……あの部長、立てないですけど、両手は動かせますからね」


 僕はゆっくりと部長の手を払いのけた。


 すると……


「ねえ、どうしよう春山くん」

「なにがですか?」

「私も、足、しびれちゃった」

「……はあ?」


 そんなことあるはずないでしょう。そんな様子なかったし。


 でも、そう言うと、きれいにたたんだ正座を崩して、足をこっちに向けて伸ばしてきた。

 そのはずみでスカートが乱れ、かなりきわどい位置までめくれあがった。


 部長のほんのり赤みがかった、ふくよかな太ももが僕の視線にいやおうなしに入ってくる。

 これは非常に目のやり場に困る。


 いや、本当に困るからやめてくださいよ。


「あー もし今、春山くんに襲われたら、抵抗できない! 私逃げられないなー」


 何言ってるんだよ…この人は……もぅ……


 絶対しびれたなんて嘘だろ。そんなことになるはずがない。絶対わざとだ。

 また僕をからかって楽しんでるんだろう。


「襲いなんかしませんよ。僕だって動けないんで」

「でも、両手は動くんでしょ?」

「……」

「足、掴まれたら逃げられないー」


 そういって足をバタバタさせる部長。

 それ以上暴れると、いろいろ危険だから……


「ちょっと!」

 急に大きな声をあびせられて、ビクッとしたら、

「なにしてんのよ! 二人とも!」

 戻ってきた深谷先輩に僕たちの様子を見られ、おもいっきし怒られた。

 部長は気にもせず、へらへらしてるが、なんで僕も巻き込まれて怒られなければならないんだろうか。



 そうこうして足の痺れも取れたころ、深谷先輩に


「しょうがないわね。正座の練習をしますか」

「はい」

「じゃあ、しばらく正座してて」

「はい」


 なぜか叱られた僕は、おとなしく伸ばした足をたたみ、礼儀正しく正座する。


「私、これから部活の書類を職員室に提出しに行くから、戻ってくるまでそのままでいるように」


 え? このままの状態で放置?

 正座の練習なの? お仕置きというか体罰じゃない?


 そう言い残すと先輩は部室から出て行ってしまった。


「はあ~」


 深谷先輩が見えなくなったら、思わず大きなため息が出てしまった。

 疲れや困惑やら不安といった禍々しいものが、ため息となって僕の体から放出された。


 わざわざ正座をするために、茶道部に入ったわけではないんだけど。

 ……と、いうか、今、部長と二人っきり? 不安しかないのだが……



「大丈夫?」

「まだなんとか」

 忠犬のように正座のまま固まっている僕のところに、部長が寄ってきた。


「きついと思うけど、茶道やるからには慣れないとね」

「まあ、しょうがないです」


 部長はしばらくのこと、無心で正座する僕のことを見つめていた。

 そんなに見られても気まずいのだが。


 すると、しばらくして僕の前でゆっくり立ち上がり、背を向けた。


 ……? 


 どうしたのかと思えば、ゆっくりと僕の膝の上に、椅子に座るかのように腰を下ろしてきた!?

 部長のふっくらしたお尻が、僕の太ももの上に置かれる。


「ちょっと何してるんですか!?」

「特訓だよ、正座の特訓」


 特訓!? って、普通に足が痛いですって。

 女の子とはいえ一人分の体重が乗っかっているのだ。

 足首がねじ切れそうに痛い。


「痛いですから、やめてください、って」


 顔に部長の髪がかかってしゃべりにくい。

 さりげなくシャンプーのさわやかな匂いが鼻をくすぐるが、そんなことを感じる余裕もなく、ただただ足が痛い。


「ちょっと、部長! どいてください。重いですって」

「おもい?」


 その言葉に反応してお尻に体重をかけ、をぐりぐり押し付けてくる。


「すみません、重くないです。でも、おも……痛いです……」


 なんなんだよ、この人。この部活。


「いたたた……痛いです、痛いですってば」



「もう! また何やってんのよ、あなたたち!」


 助かったー 深谷先輩が戻ってきてくれた!

 僕の足を苦しめていた部長は、その言葉を聞いて飛び降りた。


 そして、なぜかまた被害者の僕も怒られた。


「正座の練習を手伝ってるんだよ」


 何言ってるんだよ、この人。

 部長は平然と恐ろしいことを、笑顔でさらっと言い放った。


「香奈衣……それ江戸時代の拷問よ」


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