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僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第四章 冬、人肌恋しく募る想い
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第189話 茶室で百人一首 ~前編~

 放課後になり、久し振りの茶道の稽古へと向かう。


 今年に入って最初の部活ということもあって、僕は部室に意気込んでやって来たのだが、そこで待っていたのはいつもと様子の違う、秋芳あきよし部長ら4人の先輩方の姿。


「おはようございます……で、なにしてるんですか?」

「あっ、春山くん、おはよう!」


 和室に入ってきた僕に、いち早く気付いてくれた部長が笑顔で挨拶してくれるのだが、その部長の後ろに広がった風景がいつもと違っていた。


 和室の畳にカルタのような札を並べて、南先輩と遠野先輩とが正座し向き合いながら、札を食い入るように見つめている。

 その間に深谷先輩が静かに座って、2人の様子を眺めていた。


「百人一首だよ」

「百人一首……ですか?」


 百人一首って、あの、和歌とかの?百人一首?


「あの~~ おはようございます」


 なにかに集中しているところ悪いのだけれども、いちおう他の先輩方にも挨拶の声をかけておく。


「おう! 春山か!」

「おはよー 春くーん」


 2人の先輩は顔だけ向けて簡単に挨拶すると、またすぐ畳の上へと顔を垂らしてしまった。


「あの~」

「今、いいところなんだから邪魔すんな!」


 と、南先輩に叱られる。

 邪魔って……これから稽古しようって時に、茶室で百人一首やってる方が邪魔なんですけど……


「春山くんも、一緒にやる?」

「え? 僕もですか?」


 部長は数枚の札を扇状に持ち、扇子のようにパタパタさせながら、僕に近寄ってくる。


 部長までそんなこと言って。一緒にもなにも、僕は茶道の稽古しに来たのに……


「なんでこんな時に、こんなことしてるんですか?」


 僕の当然の疑問に、南先輩が呆れたように言葉を返す。


「春山~ お前、知らないのか?」

「え? なにがです?」

「百人一首のカルタ大会のこと」


 カルタ大会……?


「あなた、古典の授業で先生から何も聞いてないの?」

「え? え~っと……」


 深谷先輩もため息まじりに呆れたような感じの言葉が吐き出され、そんな話あったかかな~と、思い出そうとしてみる。


「春山くん、うちの学校ではね、この時期になると百人一首大会が開かれるんだよ。まずはクラスの古典の授業で百人一首をやって、クラス代表を決めるの。その代表が全校学年別の決勝に出場すると、古典の成績が無条件で4以上になるのよ」

「え? そうなんですか?」


 そんな話……聞いたっけ……?

 あっ、そういえば……去年の最後の授業で話したような。

 しかも、古典のテストは和歌を一つ憶えれば1点で、合計100首を全部暗記すれば100点とかも言ってたような。


 あ――なるほどね。

 だから必死になって練習してるんだ。

 南先輩や遠野先輩は、こういう方法で点数稼がないと成績が危ういんだもんね。


「春山くんのクラスでもやるでしょ?」

「ええ、確かそんな話を先生がしていたような」


「クラス代表になって学年別で勝ち進めば、さらに全学年での決勝で他学年の人と対決だよ」

「そうですね」


「もしかしたら、春山くんと私が一緒に出れるかもしれないね!」

「……そうですね」


「一緒に百人一首、出来るね!!」

「…………そう……ですね」


 なんでそんなに、一緒にやりたがるんだろう?

 嬉しそうに話してくれるのはいいけれど……でも、僕がクラス代表になるのは無理があるかも。

 部長とか深谷先輩なら、頭いいから学年別でも残れるかもしれないけど。

 僕の学力では、クラス代表にすらなれないかもしれない。


 ……確かに、学年が違う僕たちが一緒に何かをする機会なんてほとんどないだろうから、部長がそんなことを期待するのは分かる気もするけど、きっとそれは無理だろう。


「なんだ春山は? 自信ないのかぁ?」

「それともー よっぽど期末テストにー 自信があるのかなー?」


「…………」


 2人の先輩の馬鹿にしたようなセリフと笑い声に、ちょっと僕もカチンときてしまう。


 ようするにカルタでしょ?

 百人一首の和歌の読み札を聞いて、その該当する下の句の札を取ればいいんでしょ?



 簡単じゃん!!



 ようは瞬発力と暗記力の勝負でしょ?

 これなら運とか妨害とかチームプレイとか関係ないし、負ける要素が少ない純粋に個人の能力がものをいうゲーム。

 これなら僕にだって先輩方に負けたりはしないはず。それに、僕も10個くらいの和歌なら、覚えてるし。


「百人一首ですよね。これくらいなら僕にでも出来ますよ」

「お? じゃあ、勝負するか?」

「まあ、いいですけど」


「で、負けたらどうするんだ?」

「負け……たら……?」


「取り札の数が一番少なかった人が、罰ゲーム!!」


 あ―― でたでた!!

 みんな大好き、罰ゲーム!!


「ちなみに、どんな罰なんですか?」

「そうだなぁ…… 負けたやつは、この札から一枚引いた人物になるってのはどうよ?」

「引いた人物?」


「和歌を詠んだ人物を、大きく分けると3つ。男である殿と、女性の姫。あとは僧侶」


 そう言って深谷先輩が手にしていた読み札を畳の上に広げて解説する。


 札には絵柄が描かれてあり、その和歌を詠った人物が表されている。

 殿と……姫と……坊主……


「…………と? いうことは?」


「負けた人は、伏せてある札から一枚選んで、その札が姫なら女装する。殿なら男装。僧侶なら坊主になる!!」


 そんなことを、まるで面白い玩具を見つけた子どものように、すごく楽しそうに叫ぶ部長。


 あ――

 部長がこうなってしまっては、これはもう引き返せないな――

 まあ、僕はなんとなく2人の先輩には負ける気はしないから、別にいいんですけど。


「いいんですか? そんなこと言っても? 先輩方、負けたら男装か坊主にする可能性があるんですよ?」

「それはお前だってそうだろ? 坊主か女装だぞ!」


「僕はかまいませんよ。負けなければいいんですから」

「おお――!! 春くんカッコいい――!!」


 南先輩も遠野先輩も、自分が負けるとは思わず、まるで僕が罰ゲームを受けるのが分かっているかのような口調。


 今日こそは……

 今日こそは、散々酷い目にあわされてきた僕が、仕返しをする日!

 今までの連敗記録を止めて、今日こそは先輩たちを負かしたい。

 そうすれば、新年早々、縁起がいいことこのうえない。


「いいの?春山君? 始めて」

「はい。大丈夫です」

「私は読み手をやるから、参加しないわよ」


 引き留めようとする深谷先輩の心配も無用。


 深谷先輩は、読み手……札を読む担当に人?

 審判みたいなものかな?


 ということは、僕と部長と南先輩、遠野先輩の4人で勝負するということ。

 ようはビリに、4位にさえならなければいいこと。


「春山君、ルールは分かっているわよね?」

「まあ、なんとなく……」


「今回は学校の百人一首大会のルールと同じ形式でやるから。4人1組での対決。札は100枚。一番多く取った者の勝ち」

「はい……」


「私が読む札に対応している取札を取る。カルタと同じね。私は上の句から下の句まで一度読み上げて、もう一度下の句を読むから。その間に、分かったと思った時点で取る。お手つきは一回休み」

「はい……」


「で、最下位、の人が罰ゲーム。この札の中から一枚引いて、その絵柄が姫なら女装、殿なら男装、僧侶なら坊主にする……でいいのかしら?」


 みんな、無言でうなずく。

 僕もそれにならう。


「じゃあ、準備ができ次第、始めるわよ」


 畳の上に札をきれいに並べなおして、その前にそれぞれ座る。


 並んだ札を挟んで、正面に南先輩。向かい斜め右に遠野先輩。僕の右隣に部長が座った。

 左には読み手である深谷先輩がスタンバる。


 僕は心のどこかで、2人の先輩を甘く見ていた。

 勉強できないし、百人一首なんて覚えてないだろうと。

 だから僕は今回こそは罰ゲームから逃れられ、2人のどちらかが罰ゲームを受けるもんだと……


「じゃあ、始めるわよ」


 静まり返る和室。

 4人が耳を澄まし、目を尖らせる。

 張り詰めた緊張の中、深谷先輩が和歌を詠み始める。


「いにしえの~~」


「ハイ!!」


 え?

 深谷先輩が読み始めた瞬間に部長の声と、畳を叩く音が!?

 振り向くとそこには、すでに札を手にして笑みを浮かべている部長の姿が?

 他の2人は、それを見て悔しがる?


「あ、あの、部長、早くないですか?」

「そうかな? 『いにしえの~』から始まる句は、これしかないよ」


 部長の札には『けふここのへに にほひぬるかな』と書かれてある。


「あの、ちょっと見せてもらえますか?」


 僕は深谷先輩の読み札を見せてもらうと……


『いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に にほひぬるかな』


 と確かに書かれてあった。


 ……合ってる。


「おい! 春山! なに疑ってんだよ!」

「春く――ん。いにしえはー 九重ってー 常識だよ――」


 ……


 …………


 まあ、部長ならしょうがないよね。

 勝てないよ。

 でもこの二人なら……



「ほととぎす~」

「は――い!! とった――!!」


 ……


「淡路島~」

「ハイ!!」


 …………


「む…」

「よっしゃー! 取ったー!!」


 ……!?


「あ~ 取られちゃった~」

「あたしー 狙ってたのになぁ――」


「ちょっと、南先輩! まだ一文字しか言ってないのに、なんで分かるんですか!?」

「あ? だって、“む”で始まるのは“村雨の~”の、これしかないんだから、分かるだろーが」


「…………」

「春くん、これ、百人一首の常識だよー じょうしき――」


 ……


 ……もしかして、


 みんな100首全部暗記してるの?

 そりゃー数学の問題解くよりか、和歌を暗記した方が単純で簡単で100点取れるけど……

 だからって全部覚えるわけ?


「あ、あの……これって、練習ですよね? 本番じゃないですよね?」

「あ? 本番は大会だろ?」


「そ、そうで……」

「罰ゲームはやるからな」

「……」


 こうして僕の無謀な挑戦は、僕の浅はかな考えのもと、終わりをむかえたのだった……



「結果発表――!!」

「イエーイ!!」


 ……


「私は48枚!!」

「さすが秋芳さん!!」


 ……


「うちは22枚!」


 …………


「あたしは― 20まい―」


 ……………… 


「で、春山は何枚なんだよ! ええ!?」

「…………じゅう……まい、です……」


「イェーイ!! 春山罰ゲーム決定!!」

「春くんは女装かな――? 丸坊主かな――!?」


 くっそぉぉぉ…………

 なんで負けるんだよぉぉ…………


 甘く見ていた。

 この2人の執念と底力を……

 まさか全部覚えているなんて。


「じゃあ、春山くん。この100枚の中から1枚引いてみてね」


 !?


 そうだ、まだ坊主決定と言うわけではない!

 この中から引いた札の絵柄によって決まるんだ。

 だから普通に男を引けば、なんにも変わらないんだ!


「春山君、ちなみに言っておくけど、100のうち男性は79名、女性は21名だから」


 ……!?

 助かる確率、約8割?

 これはいける!

 いくら、くじ運がない僕でも8割は引ける!


「さらに僧侶は12名よ」


 これなら勝てる!

 ……いや、もうこの時点で試合には負けてるんだけどね。


「早くしろよ! 春山!」

「早く早く――」


 僕は散らばった札の中から……よーく目を凝らし……1枚を……取り出し、そして表に返す!


 全員の視線がそこに集中する。


 果たしてそこには!!




今来いまこむと 言ひしばかりに 長月ながつきの 有明の月を 待ちでつるかな』



 ……


 …………


 そこには男の姿の……




 頭の禿げた僧侶の姿が!!



「これは素性法師そせいほうしの歌ね。見ての通り僧侶よ。お疲れ様、春山君」




 ああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ


 なんで……


 坊主なんだよぉぉぉおぉぉぉおぉっぉぉぉ



「春山くんらしいね、この歌は、男性の僧侶が女性の気持ちを詠んだ歌だよ」


「気持ちわりーな! 春山! 頭丸めて女装しろよ!」


「すいません。本当にすみません。坊主は勘弁してください……」


 こうなったら恥もなにもない。

 土下座して頭を畳に擦り付ける。


「はぁ? ふざけんなよ!」

「今回は……女装で勘弁してください……すみません」



「チッ、しょうがねーなぁ」


 ふぅ~

 なんとか坊主は避けられた。

 正直、もう女装には慣れてしまった。

 坊主にするくらいなら、進んで女装くらいしてみせる。


「じゃあー 春くんはちゃんと、おしろい、塗らないとね――」

「えっ?」


「平安美人にならって、お歯黒と、ふと眉かいてさ!!」

「ええ!?」


「せっかくだから春山くん、着物着てみようか? 十二単?」

「ええ――!?」


「それで百人一首大会出ればいいんじゃないの?」

「そ、それは……」


 ここの先輩たちは普通じゃないってことを、すっかり忘れていた。

 女装くらいなら別に……とか思ってしまったけど、そんなことで済むことはなかったのだ……

時間がかかってしまいました。しかも、うまく書ききることもできませんでした。

そのうち加筆修正します(そう言っていつもできてない……)。

次回は後編、いつもの3人での茶室。深谷先輩がいる目の前で、部長と二人でイチャイチャ、しんみり百人一首します。

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