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僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第一章 春、出逢いと始まりの季節
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第16話 お昼ご飯

 なんてことだ……

 ちょっとトイレに行っている間に……


 昼休み前の、午前の最後の授業が終わり、僕はトイレ行きたかったので、すぐにトイレに向かった。

 で、戻ってきてみれば……


 僕の席を中心に8席くらいがくっ付けられて、巨大なテーブルに。

 それを前に女子生徒6人が囲むように昼食を取っていた。


 僕のお昼ごはんのパンが、席の中に……

 財布もカバンの中に入れっぱなしだ……


 もう、みんなで話が盛り上がっているので、水を差すわけにもいかず、僕は何も言わず教室を後にした。


 まー そのうち退くだろうから、その時に食べればいいや。



 僕は当てもなく中庭をぶらぶらする。

 今日は天気がいい。絶好のランチ日和。

 ただ、僕には食べ物がない。お金もない……


「春山くんー」


 一人ベンチでボケーとしていると聞きなれた声が……


「どうしたの一人で」

 秋芳あきよし部長と深谷先輩だった。


「いや、別に何も」

「ご飯食べたの?」

「いや、それが……」

「お弁当忘れたの?」

「忘れたというより……」


 そういいながら僕の隣に座る部長。それに続いて深谷先輩が。


「いやー ちょっと席を離れた隙に、ですね……」

「席を取られていたわけね」

 深谷先輩が冷静に語る。


「でも、少ししたら……」

「きっと、どかないわよ」

「え?」

「どうせ、女の子が座ってて、話せなかったんでしょ」

「まあ……」

「女子は話、長いから、どかないわよ」


 そんな非情なことを、当然のように話す深谷先輩。


 じゃあ、僕のお昼はどうなるの……


 そんな僕部長が微笑みながら話す。

「春山くん、優しいから」

「いや、優しいかどうかは、分からないですけど……」

「良かったら、私の食べる?」


 部長が自分で持ってきてた、お弁当箱を差し出してくれる。

 それはとても嬉しい。嬉しいのだが……

 あまり恩を受けると後々面倒なので、すごくお腹は空いてはいるが遠慮することにした。



    ぐぐおぐぉ    ぐゅぐゅお

「せっかくですが、ごごっぉ大丈夫なんごごろぉ」

            ぐるおぉぉお


 ……


 ………… 


 ……非情にも僕の胃袋は主を裏切って、悪魔のようなうめき声をあげた……


 そして、お腹の音が収まると同時に笑い声が……


「今の春山くんの? なに? お腹に動物でも飼ってるの?」 

 

 部長は申し訳程度に口に手を当てるが、声を出して大笑いしてる。


 今の僕は空腹より羞恥心のほうが勝っている。


「ペットに餌でもあげないと、死んじゃうんじゃない」

 さらにショックなのは、あの深谷先輩に鼻で笑われてしまったことだ。


 もう死んでしまいたい。そのまま飢えで死んでしまいたい。



「もう…… 春山くん。我慢しないで、これ食べなよ」


「はい。ありがとう、ございます」

 僕には部長からのそれを、拒む理由はなかった。


「でも、そしたら部長のが……」

「私、今そんなにお腹空いてないし、お菓子あるから」

「そうですか」

「その代わりあとで、春山くんのお昼ごはん、少しちょうだい」

「いいですけど、パンですよ」


 そして僕は部長から可愛らしい二段の箱になったお弁当箱を受け取る。。


「いただきます」

「どうぞ」


 部長は僕がご飯を食べているのよ、横で微笑みながら見ている。

  

 なんか、ペットが餌を食べているのを見ている飼い主みたいで、恥ずかしい……


「どう?」

「美味しいです」

「よかったー」


 部長のお弁当はご飯におかずと、普通に美味しいかった。


「部長は毎朝、お弁当作ってくるんですか?」

「え? んー まぁ、そうかな……」


 ん? いつもの部長にしては、歯切れが悪い答え。


「作ってないでしょ、香奈衣は」


 え? まさかの、衝撃の事実。


「お弁当も夕飯の残り物。朝はギリギリまで寝てるんですから」

「寝てないよ。準備に時間がかかるだけで」

 

 またこの話か。もうよく分かった。部長が朝、弱いということは。


「でも、春山くんのためにお弁当作るっていうのなら、早起きしちゃうかも」

「えっ?」

「ぜひ、そうしてもらいなさい、春山君」


 毎日、部長からの手作り弁当を、こうやって食べるの?

 恥ずかしいよ。


「いえ、大丈夫です」


 ちっ


 なんか舌打ちする音が聞こえたが、気のせいだろう。


「でも、誰かのために料理を作るって、いいことだよね」

「そう……ですか?」

 自分ではあまり料理をしないので、よくわからないが。


「茶道もおもてなし。料理もおもてなし」

「……」

「相手のことを思う気持ちは一緒だよ」

「……」

「春山くんは、誰か料理を作ってあげたいって人、いる?」


 そんなこと聞かれましても……

 

 しかもさっき、僕のためにお弁当作ろうかって…………

  

 部長は僕の返事を期待するわけでもなく、ただニコニコしながら僕のことを見ているだけだった。



 そうこうしているうちに昼休みの時間も残りわずかとなってきた。


「香奈衣、そろそろ行かないと、次の授業の準備が」

「うん、そうだね」

「ありがとうございます。助かりました」


 2人が立ち上がって戻ろうとした時、


「あっ、そうだ、春山くん」

「はい?」

「あとでパンもらいに行くね」

「分かりました」

「またねー」


 僕はしばらくベンチに座りながら、暖かい日の光を堪能していた。

 思えば学校の昼休みに、誰かと一緒に青空の下でお昼を食べるなんて、久しぶりだな。

 高校に入ってからは、一人薄暗い教室の自分の席で、持ってきたパンをモソモソ食べるだけだった。


 たまには……いいかもしれない。

 こういうのも……

 この陽気のせいか、なんだか心もお腹も、いっぱいになった気がした。




 ~その日のホームルーム後~


 起立!

 礼!

 着席!


 

 ふー 今日も一日が無事に終わった。



「春山くん!」

「ちょっ、なんで部長が?」

「パンもらいに来たよ」

「なんで今!」


「もう、お腹空いちゃって。外で終わるの待ってたんだよ」

「もう少し待てないんですか。まだみんないるし……」


「って、勝手にカバン、開けないでください!」

「これ、食べてもいい?」

「いいですけど、なんでここで食べようとするんですか!?」


「いただきまーす」

「部長、聞いてます?」

「ここ座っていい?」

「ここって、僕の膝の上ですよ」

「だって、どこも席あいてないし」

「そりゃそうでしょ、今終わったばかりなんですから」


 あー もうみんな見てるし……

 恥ずかしいわ……

今日も、ありがとうございました!

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