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僕は茶道部部長に弄ばれる  作者: 夜狩仁志
第三章 秋、色づく日々、深まる仲
131/229

第131話 本屋に行こう ~春山くん編~

ご無沙汰しております。大変お待たせいたしました。

不十分ですが、とりあえず投稿して、後ほど更正するかもです。


前回のあらすじ

春山くん一行は、本を買いに書店へ

「ねえ? 春山くんは、どんな本、探しに来たの?」

「えっ……僕ですか? 僕は……」


 僕と秋芳あきよし部長と深谷先輩は、学校帰りに書店に来ていた。

 そして部長はお目当ての本を無事に見つけて、それを購入するらしい。

『利休無双』という、まさかのライトノベル。

 部長も、そんなの本を読むんだな~と思っていたのも束の間。

 その本を探し終え手に抱える部長は、今度は僕の探している本について尋ねてくる。


 僕が読んでる本……

 なんか……恥ずかしいな。教えるのが。

 部長に答えられるほど、立派な本を僕は愛読しているわけではない。

 かといって、別にいかがわしい本を読んでいるわけでもないけれど。


「ねえ? いつもどんなの読んでるのかな?」

「……いやぁ~ そんなたいしたもの、読んでいるわけでは……」


「ねぇねぇねぇ、どんな本? 小説? 漫画? 写真集? 専門書?」

「いや、まあ、そうですねぇ……」


 なんでこんなに問い詰めてくるの?

 そんなに知りたいの? 僕が読んでいる本のこと。


 すごく興味ありげな顔を押し付けてくるように、質問してくる部長。


 近づきすぎですってば!


「そ、そうですね、マンガとかよく読んでましたけど。昔ですけど、読んでたのはね」

「どんなの? かっこいい系? 可愛いの? 切ないの? ファンタジーとか?」


 これは……教えるまで終らないな……


 怒涛の質問攻撃を浴びせる部長を背にして、僕は仕方なくマンガコーナーまで部長を連れてくる。


 恥ずかしいんだよね、女の子に……というか部長に知られるのが。

 こんな趣味してるんだね、って思われるのが。

 なんか、変な目で見られそうで。幻滅されるのが怖いというか、なんだか軽蔑されそうで……


「その……これとか……昔読んでました」


 部長に押しきられるかたちで、しぶしぶ僕は昔好きでよく読んでいた本を、一冊棚から抜き出して、部長に見せる。


 人が乗って戦うロボット兵器が描かれた表紙。

 タイトルは『沈黙の大戦』


「これは……ロボットものと言いますか……事の発端は、日本がアメリカと戦っていた太平洋戦争の時代から始まるんですが……」

「うんうん」


 いや、そんなにうなづきながら真剣に聞かれても、恥ずかしいだけなんで。聞き流す程度で、お願いします。


「えーと、日本の科学者で、蛇腹じゃばら博士っていうのがいるんですけど、レーダーを反射したり吸収したりする成分の塗料、というか物質? 粒子? を発見しまして、ですね……」

「うんうん」


 あ――

 部長がその本を手にとって、読み始めてる……


「……で、史実通りに日本がアメリカに負けそうになるんですけど、その博士が発見した通称ジャバラスキー粒子のお陰でなんとかなるんですよね」

「あっ、本当だ。ミッドウェー海戦で日本が負けてないね」

「え? ええ、そんなんですよ」


 マンガの最初のほうに書かれてある、あらすじと作品内の年表を見て、部長がそんなことを口にしてくる。


「無線とか使えないんで、今までの兵器とか戦い方が変わっちゃうんですよ」

山口多聞やまぐちたもんとか山本五十六やまもといそろくとか、生き残ってるんだね」

「え? ええ、まあ……」


 なんでこの人、詳しいの?

 あっ、そうか。部長、日本史の成績もいいんだっけ?


「で、結局、日本とアメリカは講和するんですけど、その後の世界はレーダーとか無線が使えない戦い方が中心となって。そこで、有視界戦闘のための、白兵戦ロボットが開発されて、って話ですけど……」


 そんな世界観でのロボット物の話。

 小さかったころは、ストーリーもよく分からずに、ただロボットがカッコよくてプラモデルとか作って遊んでいた。


「面白そうだね。春山くんはこの本、持ってるの?」

「いや、全部はないですけど」


「今度、借りてもいい?」

「え? 別にかまわないですけど……」


 部長も興味あるの?

 こういうマンガに?

 本当に? そんなこと思ってるの?


「ねえ、春山くん。たしか、クマの形したロボット、出てきたよね?」

「え? クマ……ですか?」


 そんなのいたっけ……

 あっ! いたかも!?


「クマっぽいの、あったような……」


 どこかに載ってなかったかな……あった! これだ!


 僕は本棚から6巻を取り出す。


「これのことですかね?」


 その本の表紙には、こげ茶色の丸っこいクマのような格好をしたロボットが、水に潜っているところが描かれている。


 たしか、名前は『クマッグB』

 水陸両用型のロボットで、全体が流線型の形をしていて両手には鋭い爪が4本備わっている。

 クマをモチーフにしたような容姿だけど、何故か水中用のロボットという。


「そう、これ! かわいいのよね!」

「そ、そうですか?」


 可愛い……のかな? 普通のロボットに見えるんだけど?

 部長の可愛いの基準が分からない。

 クマに見えれば何でもいいの?

 というか、なんでこんなマンガに出てくる脇役ロボットのこと知ってるの?


「プラモデルとかあるの? このクマロボ?」

「く、くまロボ? え、ええ、たぶんあると思いますけど……」


「いいなー 欲しなー」

「……」


「ねえ、春山くん、今度一緒に作ろうよ、プラモデル」

「え、え? えぇ……まぁ」


「私、作ったことないから教えてね」

「あー はい」


「約束だよ」

「はい……」


 なんだか変な話になっちゃったぞ?

 本を探しに来て、部長と一緒にプラモデル作ることになるなんて。


 また部長も妙に乗り気で、そんな嬉しそうにされましても……困るんですけど……


「じゃあ、この本買うのかな?」

「え? いや、これは……買わないです」


「買わないの?」

「はい……別のを……」


「別の?」

「はあ、まあ」


「どんなの買うの? マンガ? 小説? コメディ? アクション? 恋愛?」

「ん~ えっと~」


 な、なんでこんなに僕の趣味について、いろいろと聞いてくるんだろう? 


 部長もしつこく聞いてくるので、僕はもう一冊のマンガを取り出して、それを部長に見せる。


「これとか、よく、読んでましたけど」


 タイトルは『ワン・マジ・ガール』

 黒いローブに身を包んだ少女と、男の子が並んだ表紙。


「へー これ、読んでるんだ。どんなお話なの?」

「まあ、なんといいますか、一撃必殺最強の魔法少女のお話です」


 もともと小説だったのが、マンガ化された作品。


「剣と魔法の世界で、16歳にして世界最強の魔法使いとなった少女と、その弟子の男の子が主人公のファンタジーコメディー作品……とでも、いうのでしょうか」

「16歳の女の子って、私と同い年だねっ」


「……その女の子が可愛いのに最強の魔法使いで、どんな敵でも、たった一つの魔法で一撃のうちに倒してしまう。そんなストーリーです」


「この女の子って可愛いの?」

「え? まあ、可愛いというか……」


 ストーリーや内容より、女の子のこと?

 なんでそんなこと聞いてくるの?


「どんな子なの? 髪型は? 服装は? 性格は?」


 そこ? 気になるところなの?


 口で説明するより見てもらったほうが早いので、マンガを部長に開いて見せる。


「どんな子って……最強の魔法使いで、可愛いけど、すごく怠け者で、めんどくさがり屋で、寝てばかりで」


「寝てばかり? 私もよく寝てるよ!」

「……別に部長のことじゃないですよ」


 なんでそこで反応してるんですか?


「とにかく、全てにおいて、やる気がないんです。服装もパジャマのままだったり、髪の毛はボサボサで、伸ばしっぱなし。手入れもしない。せっかくの美少女も台無し」

「そうなんだー」


「でも実力はすごくて。数々の問題や災害、国の危機や人々を救ってきたため、国で唯一認められた、王国専属の魔導士なんです」

「すごいんだね」


「ただ、めんどくさがり屋で、とにかく動かない、喋らない、外に出ない」


「歩くのが嫌で、魔法で空を飛ぶ。物を運んだり、作ったりするのが嫌だから、使い魔や魔法を使って物を取らせたり作らせたり」


「話すのも嫌ですし、呪文の詠唱も面倒なので、一切しないで、そのままいきなり魔法で攻撃したりとか。

 そんなことを幼い頃からしているうちに、魔法のスキルがレベルアップしてしまって、いつの間にか大魔法使いと世間から言われるようになって」


「なにをするのにも、めんどくさくて、全てを魔法と使い魔によって解決していき、そして気がついたら一つの魔法で全てを解決する少女。ワン・マジック・ガールって呼ばれるようになって」


「へー そういう子が好きなの? 春山くんは?」

「いや、別にその子が好きとかの問題じゃなくて、ですね。ストーリーが面白くて」


 そんな上目遣いで、そういう子が好きなの?とか、質問されましても……

 なんだか、やたらと変なところに食いついてくるな――


「私も、この子みたいな格好したら、春山くん喜ぶ?」

「えっ?」


 なにを言ってるんですか?

 コスプレでもするんですか?

 なんでマンガの登場人物と張り合おうとするんですか?


「別にその……可愛いというのかいいんではなくて、ギャップの差といいますか。凄く可愛い女の子だけど、最強で。それでいて怠け者でという……例えばですね、このシーンとか……」


 本棚から3巻目を取り出してペラペラとページを捲り、問題の部分を広げて部長に見せてあげる。


「森の中で弟子が独りになっちゃって、そんな時に大勢のモンスターに囲まれてピンチになって。そこに魔法使いの女の子が助けに来てくれるんですけど。空飛ぶ魔法の絨毯に寝たままやって来たちゃって。しかもパジャマのままで」


「いーな、欲しいなー 空飛ぶ絨毯」

「…………で、それで女の子が人差し指の先に、魔法で大きな火の玉を作り出しまして。スッゴい大きな火の玉で、3メートルくらいの。それをそのまま投げつけて、モンスターを一撃で全滅させちゃったり」


 たしかそのシーンは3巻の、このページ辺りだったような……あったあった。


「これこれ、ここです」


 パジャマ姿の寝ぼけた女の子が、指先一つで敵を全滅させるという迫力のシーン。

 そして、山ごと吹き飛ばした荒れ地をバックに、唖然とした弟子が師匠である女の子に尋ねるのだ。

『師匠……今の魔法は何の魔法ですか?』

『……………ただの…………火…………』

 女の子にとっての、ただの火の魔法が、一般の世界のレベルでは最上級の魔法だったと……


「へー すごい強いんだね」

「まー こんな感じで話が続いていくんです」


 女の子が可愛いというよりか、単純に爽快感というか、そんな弟子と師匠の駆け引きが面白いというのか……そんな感じて、昔はよく読んでいたなぁ~と。


「ねぇ、春山くん?」

「なんですか?」


 本から目を離した部長の瞳は、こちらを真っ直ぐ見つめ、その表情は何かを企んでいるような不適な笑いを浮かべていた。


「実はね、私も魔法、使えるんだよ」

「は?」


 なにを言い出すのかと思えば?


「火の魔法。使えるんだよ」

「まさかライターとか、出すんじゃないよね」


「ちがうよー」


 そして、意地悪そうに笑いながら、

「人差し指から火を出して、春山くんのこと、燃やしちゃうよ」

 と、そんな物騒なことを言ってくる。


「へー そうですか。それは凄いですねー」

「信じてないでしょ? じゃあ、今、見せてあげるから」


 そう言うと部長は静かに目を閉じて、右手の人差し指を唇に当てて、なにやら口の中で呪文のようなものを唱え始めた。


 僕はそんな様子を呆れながらも、黙って目の前で眺める。


 まったく……なにを始めようとしているのやら……


 ……

 …………

 ……そして……しばらくすると、部長は目を開けて微笑むと……


「えい!」


「!!??」



 唇に触れていた人差し指を!



 いきなり僕の口に!!



 押し当ててきたー!!!



 しっとりとした柔らかな人差し指の腹で!


 僕の唇の弾力性を確かめるかのように!


 有無も言わさないよう!


 唐突に!


 優しくなでるように!


 触れてきた!!!


「ちょっ!!! なにしてるんですかー!!!」


 ここが書店の中だということも忘れて、声を荒げながら部長の手を払いのけた。


「どう? 私の魔法は?」


 動じる様子を微塵も見せず、澄ました顔でそんなことを聞いてくる。


「こんなの! 魔法でもなんでもないですって!」


 こんなの魔法じゃなくて、単なる間接……

 何考えてるんだよ、この人は?


 おもいっきし制服の袖で唇を何度も拭う。

 そんな僕の様子を、面白そうに笑いながら眺めている部長。


「私の炎の魔法はどうだった? もえたかな?」

「なにが炎の魔法ですか!? 自分がなにしたか分かってるんですか!?


「でも熱いでしょ? 顔、真っ赤だよ」

「っ……」


 くうぅ~~~


 なんなんだよ! もう!

 すっごく恥ずかしくて……本当に燃えるように体が熱いのは、自分でも確かに分かるし。


「ちょっと、ほかの所、見てきます!」


 あまりのことで、これ以上この場に……部長の前にいれる自信がないので、僕は逃げるようにしてその場から脱する。


 どうせ僕にこんな悪戯して、楽しんでいるんだろう。

 裏で笑いを堪えている部長の姿が容易に想像できる。


 冷静さを取り戻すため、人のいない専門書のコーナーまでやって来ては、何度も、何度も、袖で口を拭う。


 まったく部長ときたら!

 魔法使いというよりも、これじゃあ、魔性の魔女だよ!

部長によるフィンガーキスという魔法攻撃により、春山くんは会心の一撃を食らいました。


次回は、深谷先輩の物理攻撃により、春山くん痛恨のダメージを負います。

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