プロローグ
お待たせしました! 新作です!
「My only desire」を先に読まれると、さらに作品を楽しむことができますよ!
一か月程度の連載ですが、よろしくお願いします!
君は歌が大好きだった。そして僕も、歌う君が好きだった。
桃色を宿した桜の花びらが、多くその身を中空に晒して、通学路の地面に舞い散っている。まるでその光景は、どこか映画のワンシーンを切り取ったかのように幻想的で、現実味というものに欠いていた。花弁は通学路を華やかに彩って、その道が続く限り延々と長く、先の方まで広がっているように思える。ふと風が吹き、また桜の樹木があおられて、身についていた花弁から手を離していく。その風景がずっと続いていて、僕に永遠という言葉を抱かせるけれど、しかし桜と言うものの開花は長くて二週間ほどであって、そこまで長くこの美しい景観を眺められるわけではない。綺麗なものには、寿命がある。どんなに心を揺さぶる蠱惑的なものであっても、永遠には続かない。世界に絶対という言葉がないように、万物には終わりがある。それは時間にも同じことが言えて、このように幸せな空間というのは、やはりずっと終わりなく続くものではないのだ。僕はそんな当たり前のことを十分に理解していながらも、それでもこの時間がずっと先の未来まで続くと良いなと、そう思った。
桜の舞に包まれていると、ふと何かが耳に入る。もちろんそれは物理的なものではない。僕の耳に届いたのは、歌だった。女の子の歌う、喜びの歌。その旋律はどこか嬉しさに満ちていて、聞いている僕までなんだか楽しくなってくる。歌っているのは、もしかしなくても彼女だろう。僕の隣にいる彼女。とても歌うことが大好きで、僕にとっては唯一の友達。僕の今いる彼女の隣は、歌を聞くには最高の特等席だ。だから僕はこうやって、通学中や下校中にこうして彼女の隣にいるのが、とても好きだった。
不意に、彼女が僕の隣から離れて、先の方に早足で進んだ。それと同時に歌の旋律も止まってしまう。僕は少し驚いてしまうけれど、慌てずに彼女の方を見据える。綺麗な長い金髪を下ろした彼女は、僕の前に出ると、その青い瞳で僕を捉えた。
「ねぇ。どうして人は、争うんだと思う?」
僕はその問いに関して、すぐに適切な解答を返すことができなかった。しかし彼女の質問が見当違いということはない。人の争う理由と言うのは、今のこの世界を解決するうえで、とても大切なものだと思うから。
僕は少し考えて、そういう生き物だから、という解答を返した。少し野暮な返答だったかなと思ったけれど、彼女は顎に指をあててうーんと考えて、そうかもねと笑ってくれる。
彼女は、僕から目を離して、通学路の先、ずっと遠くの方を見つめた。きっとそこに何かがあるわけではないけれど、恐らく彼女にとっては未来を見据えるという意味が込められているのだろう。僕は黙ってその様子を眺めていたが、彼女が静かに口を開く。
「みんな、歌えばいいのに。銃なんか捨てて、手を握り合って、仲良く平和を歌えばいいのに。なんでそんな簡単なことができないんだろう?」
彼女はそう、哀しそうに告げた。
僕がその言葉に対して何か返すことはなかったけれど、きっと世の中には、そういった彼女の歌だけではどうにもならないことがたくさんあるんだろうなと思った。
僕だって、彼女の歌が聞けるだけでもう十分なのに。
どうして人は両手に武器を持って、互いを傷つけあうんだろう。
ばあっと、急に風が吹いて、桜の花弁が大きく宙を舞った。その風の勢いで、彼女は花びらの中に包まれて、一瞬僕の視界から消えてしまう。
その時、僕の心臓が跳ねた。ドクンと、とても陰鬱な呻きを上げる。
僕はその瞬間、気が付いてしまう。どうして人が争うのか。どうして人が互いを傷つけあうのか。
それはきっと、大切なものを喪ったから。自分よりも大切に思えるものを喪って、人はその悲しみを他人にぶつける。行き場のない思いを、どこかに投げつけなければ、自分がおかしくなってしまうから。
風が止んで、花びらが地面に落ちていく。しかし彼女が立っていた場所には、もう誰もいなかった。
僕はあの日、彼女を喪った。
その悲しみを背負って、これから生きなければならない。
しかし僕はその行き場のない思いを、どこかへ発散しなければ気が済まなかった。
だから僕はこうして今、武器を手に取って戦っている。彼女が言うように平和を歌うのではなく、憎しみに手のひらを血で染めて。
間違っていることは、自分でもわかっている。しかし僕はこの赤黒い感情を、誰でもいいから投げつけなければおかしくなりそうだった。
僕は戦い続けるだろう。この胸の、引き裂かれるような痛みが消えるまで。それが彼女にとって悪だったとしても。
僕はそれでも武器を手に取って、人を殺し続けるだろう――
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