第5話:転生錬金術師はギルドに行く
◇
冒険者にはなんの資格もいらないと思っていたのだが、リリミア曰く——
「冒険者は、試験に合格しないとなれないのです」
「そうなのか」
「はい、冒険者ギルドで毎日やってますよ」
「難しかったりするのか?」
「私は三回目でやっと合格できました。けど一般的にはそれほど……だと思います」
そういえば、リリミアは鍛冶師が弱いとか言ってたっけ。
「鍛冶師も錬金術師みたいに冒険者には向いてないジョブなのか?」
「そうですね……武器や防具を作るスキルばかりで強いスキルがなかなか覚えられないので、冒険者としてはハズレジョブです」
なるほど、ジョブの種類に応じて覚えられるスキルとそうでないスキルがあるということか。
確か、スキルツリーにも『(習得可能)』なんて表記があったな。
覚えられないスキルもあるということだろう。
俺の場合は謎だが、錬金術もやはりその名の通り、ポーション作りみたいな生産系のスキルに偏るのだろう。
そしてさっき森の中で出会った冒険者によれば『魔導具師』というジョブの下位互換らしいから、相対的にどんな扱いになるかは想像できる。
最弱扱いされるのも不思議ではない——か。
「よし、とりあえず受けてみるよ。試験を突破しないことには冒険者にはなれないみたいだしな」
「はい、それがいいと思います! 何度でも受け直せますし……。じゃあ、ギルドまで案内しますね!」
「助かる、ありがとう」
リリミアの後ろをついていく形で、冒険者ギルドに向かう。
ギルドはさっきの場所から近い場所だった。移動時間は十分ほど。
扉をあけて、中に入る。
「なるほど、想像通り……だな」
ギルドの中は、全体的に木目調に統一されていた。
左側には依頼書が貼られた掲示板。
右側には冒険者パーティが使うであろう酒場。
ファンタジー系のゲームによく出てくるギルドのような感じだった。
中には十数人の冒険者がおり、依頼を物色したり酒場でくつろいでいたりといった感じだった。
「奥の受付に行けば、受付嬢さんが試験の手続きをしてくれますよ」
「なるほど」
リリミアに言われた通り、俺は入口から真っ直ぐ進んで受付に向かった。
「冒険者になりたいんだが……試験の手続きをお願いできるか?」
「もちろんです」
受付嬢は後ろの棚からギルドの入会試験用紙を取り出し、カウンターの上に置いた。
「試験を受けられるのは初めてですか?」
「ああ」
「冒険者ギルドでは、王国共通の試験を志望者に課しています。これは、冒険者に安全に冒険をしてもらうためでもあります」
「まあ、そうだろうな」
この世界に転生して間もない俺でも、ギルドにとって冒険者が大事なパートナーだということはわかる。
依頼者はギルドを信頼して依頼を出すのだから、ギルドもそれに応えなければならない。
依頼を発注した冒険者が失敗を繰り返すのは当然に損失だが、ギルドにとって発注先である冒険者に死なれたりすればギルドにとって大きな損失になる。
だから仕組みとして必要だ——という理屈だ。
会社間の元請、下請けと大して変わらない関係だな。
「そして試験内容なのですが、三回の試験があります。一つ目は魔力試験、二つ目は実技試験、三つ目は、実戦形式の実技試験です」
「二つ目と三つ目でどんな違いがあるんだ?」
「動かない対象への攻撃力を測るものと、実践形式で試験官と戦うという違いがあります。二つ目の試験までをクリアできれば、多くの方は合格できますけどね」
「なるほど、ありがとう。この用紙を出したらすぐに試験を受けられるのか?」
「その通りです」
俺はペンでサラサラっと名前やジョブなどの必要事項を書いていく。
話し言葉だけでなく、書き言葉も日本語ではないようだが、こちらも問題ないようだ。
特に意識することなく、日本語と同じような感覚で書ける。
「よし、これで頼む」
俺は、書き上がった入会試験用紙を受付嬢に手渡した。
その用紙を確認した受付嬢が、俺を二度見した。
「あ、あの……ジョブの欄を間違えていませんか?」
俺はもう一度ステータスを確認し、ジョブの欄を見る。
しっかりと『錬金術師』と書かれている。
「間違いなく錬金術師だよ。それが何か問題か?」
「い、いえ……どんなジョブの方でも試験に合格すれば冒険者にはなれますが……」
「錬金術師が弱いって思われてるのはわかってるよ。冷やかしで来たわけじゃない」
「そうですよ! シンヤはめちゃくちゃ強いんです……!」
リリミアも一緒になって説明してくれるが、受付嬢は困ったような顔を続けている。
信じてもらえていないようだ。
しかし試験を受けないことには冒険者になれないのだが……。
どうしていいかわからず俺たちも困っていたその時。
「おいおい、にーちゃんよ。ここは遊びで来るところじゃねえぜ? なーにが錬金術師だよ。バカにしてんのか? んなもん現代にいるわけねえだろ!」
後ろから、ガタイの良い男の冒険者に肩を掴まれた。
どうやら、俺が嘘をついて受付嬢を困らせている風に見られているようだった。
「シンヤ、ステータスを見せてみてはどうですか?」
「ん、あれって人に見せられるのか?」
「他の人から見るとほとんど見られませんけど……こんな感じでジョブくらいは分かります」
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◆ステータス
名前:リリミア・セルヴィアーナ
ジョブ:鍛治師
レベル:4
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本当に最小限の情報だけに限られるようだが、本当にリリミアのステータスを見ることができた。
ほとんど何もわからないが、ジョブ名はこれで証明できる。
「なるほど……じゃあ、俺もステータスを見せるよ。これでいいか?」
受付嬢と、絡んできた冒険者に見えやすいように表示した。
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◆ステータス
名前:佐藤慎也
ジョブ:錬金術師
レベル:1
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「本当に錬金術師じゃねえか⁉︎」
「まさか、本当に錬金術師だなんて……」
冒険者と受付嬢の両方が驚いていた。
「けっ、でも本当に『錬金術師』だってんならこりゃ珍しい。てめえが三つ目の試験まで合格したら、俺が試験相手になってやんよ」
「いや、俺は別に誰でもいいんだが……?」
そんなに恩着せがましく言われてもなあという感じである。俺から頼んだわけでもないんだし。
「ああ? 俺じゃ不服だってのかよ」
「いや別に……」
「なら決まりだな! 受付嬢、そういうことで頼むわ。ま、こいつが三つ目の試験までたどりつければの話だがな!」
カカカカカ——と嗤う冒険者。
なんか嫌味だなぁと思っていると、リリミアが耳打ちしてくる。
「あの人、エルビオという有名な冒険者なんです……。すごく嫌味な人ですけど、今のこの村のギルドではエルビオさんが一番の実力者なので、誰も逆らえなくて……」
「そうなのか……」
さっきのカールといい、エルビオといい、なぜこうも実力のある冒険者というのはこういう癖のあるやつばかりなんだろうな……。
「シンヤなら二つ目の試験まで問題なくクリアできると思います。でも、三つ目の試験は注意してください。嫌がらせをしてくるかもしれません……」
「というとどんな感じにだ?」
「例えばですが、難癖をつけて普通なら余裕で合格のところを不合格にしたり……。それでも、力のある冒険者にはよほどのことがないとギルドも文句を言えませんから」
試験に関してはよほどなことな気がするが、まだ冒険者ですらないペーペーは守る対象ではない——ということか。
まあいい。
「でも、勝てばいいんだろ? 完膚なきにまで叩きのめせば、いくらなんでも合格にせざるを得ないんじゃないか?」
「そ、それはそうですが……」
なおも心配そうな顔をするリリミアだったが、既に俺は勝ちを確信していた。
カールと一戦を交えたことで、意識していないような些細な動きからであっても、大体の強さは分かるようになった。
あんなやつに負けるはずがない。




