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元勇者は安らかに眠りたかった  作者: てけと
元勇者はもう一度勇者に戻る
7/30

手合わせとお別れ

 映像魔石放送を終え、スタジオからメイと共に出る。


「しっかしテレビなんかあるとはな。いつの間に作ったんだ?」


 電波塔があるわけでもなく、電気もない。魔法で色々代用しているのか?


「勇者様方の世界の技術を模倣してるのよ。昔から研究はされてるのです。勇者様方が滞在する間になるべく不便のないように」

「へー。俺が冒険してた時はそんなもんなかったけど・・・」

「映像魔石が一般普及し始めたのは前魔王討伐後2年くらいですね。生活回りは、既に勇者様の世界に引けを取らないレベルになってるかと思いますよ?魔法で代用してるから、仕組みは全然違うけどね」

「マジかよ・・・魔法はんぱねぇな・・・」


 俺が冒険してた頃は、トイレはボットンだし、紙は葉っぱだったし、風呂もシャワーもないし、飯もうまくないし、冬になると寝るときに凍え死にそうになるし、散々だった。まあ半年もしたら慣れたけど・・・。


「優秀な魔道具職人がいてね、彼が日々いろいろ開発してるのです」


 中世ヨーロッパ風の街並みには異例な、真っ白いコンクリートでできた四角い建物から出る。

 ラジオもやっているのか、透明なガラス越しにスタジオが見えるところもある。

 

「俺はそろそろ帰っていいのか?待たせてるエルが心配なんだが・・・」

「・・・別に自由にして構いませんが、もうカイ様はいないのですよ?あなたはケンシン様ですからね」

「あ・・・そう言えばそうか」


 俺はケンシン。この世界に来たばかりの勇者だ。そう言う動きをしないと行けない。

 冒険者カードも作りなおしか・・・。結構頑張ったのになぁ・・・。




 とりあえず今日は王城でお世話になることにし、その夕食時のことだった。


「カイ様はいないのですか?」


 そうメリーちゃん聞かれ、少し場が凍る。

 メイに目配せすると、スッと目を逸らす。おい!


「カイ様?そんな奴がいたのか。俺は知らんな」


 シラを切っておこう。そうすればあとは王様とかが何とかすんだろ。


「そっか~。カイ様ともっとお話ししたかったなぁ~。次いつ会えるのかな~」

「メリーちゃんはカイ様の事が好きなんだな」

「メリーでいいです。同い年くらいの男の子にちゃん付けされるのは恥ずかしいので。カイ様の事を嫌いな人はこの世界に居ませんよ!」

「へ・・へ~。前任の勇者はそんなにすごかったんだ」

「そりゃあもう!とうとう世界の終わりかと言うほどの強大な魔王が出現して、この世界の強者は軒並み倒され、世界の全ての人が絶望したときに、彼は現れるんです!定例通り魔王を無力化しようとしたら、あまりの強さに返り討ちにされ、それだけでなく、かの魔王は敵の力を吸収するという規格外の力を持っていました。編成された討伐軍は軒並み吸収され、どんどん力を強大にしていく魔王。戦力の差は圧倒的でした。カイ様は戦いますが、もちろんズタボロにやられます。幾度も体を刺され、吹き飛ばされる。なんども致命傷を浴び、常人なら数百回死んでいるはずなのに、カイ様は諦めませんでした。体に無事な部分はなく、血まみれで、それでもその目は死ななかった。何週間という壮絶な戦いを経て、ついに魔王と討伐します。魔王とやり合えるカイ様の強さもそうですが、自分の世界でもない、この世界の為に体を張ってくれた優しさも素敵ですよね。その後優しいカイ様は、魔王による虐殺を止められなかった自分を許せなくなるのです。自責の念で心が壊れたカイ様・・・その時に私がいれば優しく介抱し、一生涯を共に過ごしたというのに・・・。でもそんなところも好ポイントですよね。弱ったカイ様も可愛くて愛おしい・・・。この間初めてお会いしましたが、目が合った瞬間心が締め付けられるようで、自分を抑えるのが必死でした。今すぐ抱き着いて――」

 

「はいはい。メリー。少し落ち着きなさい。ケンシン様が呆然としてるでしょ」


「・・・はっ!?失礼。お恥ずかしいところを見せました」

「ははは・・・すごかったんだな。前任の勇者様は・・・」


 いやいや。怖えぇよ!?この子に作った設定話したら殺されそうなんだが・・・。


「カイ様は元の世界にお帰りになったんだ。本人ももう死期を感じていてね。この世界のことを案じ、最期に神様にお願いをした。そして召喚されたのがケンシン様だ」


 言うのね。言っちゃうのねジーク。あっけらかんと。マジか。


 カラーン。とメリーの持っていたフォークが床に落ちる。彼女はポカーンとしている。


「カイ様が・・・もうこの世界にいない・・・?」

「うむ。カイ様は御歳を召されていたわけだし、それは仕方ないだろう。ケンシン様の強さはカイ様に匹敵する。この世界にとっては有り難い事だ」

「カイ様に匹敵する?そんなはずないです。どう見ても弱そうですし、いつもの止めを刺すだけの勇者の一人でしょう」


 キッっとこちらを睨み、体を震わせるメリー。普通に怖い。暗殺されたりしないよな?


「そう思うなら戦ってみるといい。一年後の大会にメリーも出るんだろ?ここでケンシン様の強さを知っておけばいい」

「望むところです」

「それでは明日の朝に訓練所にて、ケンシン様にはお手を煩わせるかもしれませんが、よろしくお願いします」

「わ・・わかった」


 メリーに終始にらまれつつ、その日の夕食会は終わった。

 









 翌日、訓練場でメリーと相対する。見物人に、メイとジーク。それにハルちゃんもいた。

 メリーは少し長めの木剣を素振りして待っていた。俺は適当な木剣を持ち、訓練場の真ん中に立ち尽くしていた。


「ふぅ・・・では始めましょうか」


 ウォーミングアップを終え、そう言うメリー。心なしか目が赤くなっている。


「俺はいつでもいいぞ」

「ふん!平和な世界から来た剣も握ったことのない人に私が負けるはずもない!ボコボコにしてあげるから、降参は早めにすることね!」

「はいよ」


 お互い距離を取り、構える。メリーは剣を上段に構える。一撃必殺。そう言う気迫がビシビシと伝わる。

 彼女とは気が合いそうだ。同じく俺も上段に構える。弐の太刀いらず。一刀両断の構えだ。

 ついつい口元が緩む。いくつになっても、この戦闘前の緊張感は好きだ。


「それでは双方!始め!!」


 ジーク王の声が響く。メリーが即座に動く。


「はああああああああああああああ!!」


 裂ぱくの気合と共に、一足で間合いを詰めてくる。目にもとまらぬ上段からの斬り降ろし。

 それを横に移動して避ける。剣はそのまま床を叩く・・・と思ったが、そこから跳ね上がり俺の腹部めがけて剣が向かってくる。

 ほう、ちゃんと次を考えて剣を振るってるんだな。

 俺は円を描くように剣を振り、腹部に迫っていた剣を跳ね上げる。

 

 カァン!とこ気味いい音を立て、剣が弾かれ、上段に戻した剣を、メリーの頭部に振り下ろし、当たる寸前で止める。


「いい腕だ。上段を使いこなすなら、もう少し腕力がいるな」

「・・・うそ・・・っ!まぐれよ!!もう一度!」

「いいぞ。もっとやろう」


 彼女は上段よりも、中段の構えで、臨機応変に剣を振るう方があってるとは思うけどな。


 結局昼頃までメリーと模擬戦をし、俺の持ってる木剣が折れたことで終了することになった。

 戦歴は50戦50勝。伊達に死に物狂いで修行してきたわけではない。


「なんで・・・勝てないのよ・・・」


 俯き、体を震わせ、悔しそうにつぶやくメリー。


「悔しいと思えるなら成長できる。一年後を楽しみにしてるよメリー」


 悔しがるメリーの頭をポンポンとはたき、訓練場を後にする。

 メリーなら一年あればさらに上達するだろう。それに俺も・・・なまった体を動かさないといけない。

 魔王討伐時に比べると、まだ思うように動かない所もあった。それを知れたという点では、この手合わせは大変有意義なものだった。


 早速旅に出たいところだが・・・。一つだけやらないといけないことがある。


「はぁ・・・まさかこんな形でこれが役に立つとはな・・・」


 イベントリから一つの手紙を取り出す。

 イベントリ内にあるアイテムは、死ぬとその中身は近くにドロップする。その為・・・俺はイベントリに遺書を常に入れていた。


 主にエルに宛てた手紙だったが・・・。

 カイは死んだのだから、エルもちゃんと解放してやらないとな・・・。





~~~~~~エル視点~~~~~~


 カイ様がいなくなって一週間が経ってしまった・・・。と言うか、『ちょっと出かけてくる』と書いてある置手紙で一週間もいなくなるとか!

 あぁ‥心配です。情報がなさすぎる・・・。こんなことなら追跡魔石を体に埋め込んでおけばっ!


 カイ様の全てを管理して4年。私が傍に居ればあと25年は健康に生きられたはずなのに・・・。

 あぁ・・・。心配ですカイ様。無事に帰ってきてください・・・。


 カイ様がいなくなってから、毎日朝から晩まで両手を合わせ、天に祈る。


「すいませーん。エルさんいませんか?」


 そんな声が外から聞こえる。祈りを中断し、珍しいお客様に対応しに行く。


「はい。どちら様――」


 扉を開くと、真っ白な髪短い髪で、特に特徴のない顔をした、中肉中背の少年が立っていた。









 と言うかカイ様だった。


「カイ様!!」


 即座に飛びつき胸元に抱き着く。この匂い、纏う魔力、骨格すべてがカイ様だった。


「カイ様カイ様カイ様カイ様。心配したんですよ!!どこかに行くなら私も連れて行ってくれないと!!」

「ああ~・・・エルさん?人・・違いだ。俺はケンシン。カイと言う前勇者から手紙を預かってきた。ちょ・・・離れて・・・エルさん?」


 そう頼まれては仕方ありません。ケンシン?どう感じてもカイ様なのですが・・・?

 離れるや否や、手紙を渡される。


「カイという前勇者が命を賭して召喚したのが俺だ。名はケンシンだ」

「ケンシン様・・・はぁ・・・そうおっしゃるなら・・・」


 カイ様がそうおっしゃるなら、カイ様改めケンシン様とお呼びすることにしましょう。


「と言うわけで、俺はこの辺でお暇するよ」

「え?」


 ガシッとケンシン様の手を掴む。どこに行こうというのでしょうか?ここが貴方の家ですよ?


「あの・・・エルさん?」

「エルでいいです。どこへ行くというのでしょうか?」

「えーっと・・・魔王が数年くらいで出現するらしいからさ。俺も強くなるために旅をしようかと?」

「そうですか・・・私も同行します」

「え?それは困るんですが・・・」

「なんでですか?私はケンシン様の奴隷なのに」


 私はカイ様の愛の奴隷なのに。常にお傍に居たいのに。


「こ・・・この世界に来たばっかりで、ど・・奴隷とか買った覚えはないんだけど・・・」

「ひどいです。あんなに毎日愛し合ったのに・・・」

「マジで覚えねぇからな!?つーか童貞のままだからな!?」

 

 やっぱりカイ様なのですね。


「とりあえず!俺も勇者という立場だからな。誰かに肩入れをするわけにはならないんだよ。一年後に俺は魔王討伐に向かう。その仲間は俺を含めて5人しか選べない。その5人を俺の気に入ったやつで固めたら不公平だろ?俺は誰にも肩入れしないために、この一年は一人で活動する事にしたんだよ」

「一年も・・・カイ様が横にいない・・・」


 ガクッっと膝を落とし、手をつく。


「そう言う事だから・・・そんじゃあな!」


 ダダダッッと走っていき、ある一定の所で気配が完全に消えた。転移魔法士と共に転移したのだろう。


「カイ様・・・」


 ひとまず私とカイ様の愛の巣に戻る。そして預かった手紙を開く。でかでかと遺書という文字が書いてあり・・・。


『愛しのエルへ


 この手紙は儂が死んだときにイベントリから吐き出される手紙じゃ。つまりこれを読んでいるという事は、儂は死んでるという事じゃろう。儂は後悔なく、禍根なく、清々しい気持ちで死んだのじゃろう。この世界を救えたことだけで満足じゃったが・・・エル。お主が来てから、毎日が輝くように煌きだした。なんだかんだ言ってもやっぱり儂は寂しかったのだろう。本当は使命感だけで来ているだろうエリーに、儂なんかの世話をさせるべきではなかった。突っぱねるべきだった。しかし儂は断らなかった。自分の為だけにエルを縛ってしまった。

 それだけが儂の唯一悔いるべき点じゃった。しかしこれだけは言っておこう。


 ありがとうエル。愛しておったよ


 この家はエルの好きにしてくれ。実は儂のベットの下にまあまあの数の金貨を隠しておる。それがあれば数年は裕福な暮らしが出来るじゃろう。

 これからは誰からも縛られず、好きに生きて、いつか結婚して、子供を産んで、誰よりも幸せに生きるんじゃよ。儂は空の上で、エルの幸せを願っておる。

                  

                                         ナジリ カイ』



「うふふ・・・愛しのだなんて・・・照れますね・・・」


 カイ様・・・改めケンシン様は、来年から魔王討伐に行くそうだ。どうにかしてそれに同行できないものでしょうか・・・。

 情報を得るために一度お母様の所に帰りましょうか・・・。


 そう決めるや否や、私は故郷、エルフの森に向かことにしました。

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