恋する乙女は無敵
『皆様こんばんわ。今宵もニュースをお届けします』
部屋に有る映像魔石からいつものニュースが流れる。
「あら?今日はメイがキャスターなのね。珍しい」
「引退したんじゃなかったでしたっけ?それも20年前ほどに・・・」
メイロスという言葉がはやったほどだ。たくさんの人に惜しまれて引退した。年を取ってもなお美しい彼女は男女問わず熱烈なファンが沢山いた。
「すっかり歳をとっちゃったわね~」
「カイ様も同じくらいの歳ですよね。そろそろまとまったお休みでも頂いて、エルと共にお傍に居たいものですが・・・」
チラッとリーディア様を見る。しかし彼女はさっと目を逸らす。
「だだだ・・大丈夫よカイは。あと20年は生きるわよ。今ルリエに消えられるとどれだけ大変か・・・」
「もう!少しでいいから人を雇いましょうよ・・・もしくは少し自重してください」
「困ってる民を助けるのは私の仕事よ!それは譲れないわ」
リーディア様はとてもお優しい。エルフの森に住むすべての民の困りごとを毎日のように聞きいれ、それを解決している。
民からの信頼も厚く、町に出ると人がわらわらと集り、いろんなものをもらったり、お礼を言われたりしている。
「それはわかりますが・・・リーディア様に会いたいが為だけの依頼とか、もうそれ冒険者ギルドに頼めば?という依頼とか、小さな依頼まで受けなくていいんですよ・・・と言うかそれをさせられるの私ですし・・・」
「いいじゃない。そのおかげでルリエも元気になったし。人との交流と言うのは大事なのよ?」
「そう言ってからもう30年ほど経つんですが・・・エルにもさせるし・・・」
リーディア様には感謝してるし、この仕事は嫌いではないけど、カイ様の最後くらいは看取りたい。もしくは数年は一緒に生活して、イチャイチャしたいのに・・・。
「風呂ごっそうさん!お?何の話してんだ?」
額に赤黒い角を二本生やした竜人のリュウコ様だ。赤い髪は手入れしない主義なのかぼさぼさで、釣り目で最初にあったころはひたすら怖かった。
話してみるととても気さくな方で、根はとてもやさしい方だった。
「リュウコ様。きちんと髪を梳かして」
「やだよめんどくせぇ!いいんだよ。どうせ俺は身なりなんか整えても結婚も出来ねぇんだからな」
「むぅ・・・」
後を追ってきたのはレイちゃん。片腕がないリュウコ様のお世話役にして一番弟子。
薄い青色の髪に、額に青黒い角が一本だけ生えている。
見た目は小さな子供のようだが、龍族は成長が遅い。あれで歳は30歳だそうだ。
「で?何の話をしてたんだよ」
「な・・・なんでもないわよ」
「そろそろ私もカイ様のお傍に行きたいと言ってるんですが・・・」
「なに?カイの元に?ダメだぞルリエ。抜け駆けは禁止だ!」
「え?抜け駆け?何の話でしょう」
「ちょっとリュウコ!!」
「おっと・・・なんでもねぇ。まあ大丈夫だ。エルもいるし、あと20年くらいは生きるだろう。焦んなよルリエ」
『番組の後半は、予定を変えまして、重大発表をしたいと思います。いったんCMです』
「お?今日はメイのやつがメインはってんのか!」
「メイおば様いつまでたっても綺麗」
「だな。そりゃモテるわ。その割に結婚したのは遅かったけどな」
リュウコ様はちょくちょくリーディア様の所に遊びにいらっしゃる。本人曰く、毎日決闘を申し込まれてめんどいらしい。
隻腕なのに、いまだ彼女に勝てる龍族の男が存在しない。顔は綺麗だし、巨乳だし、引き締まってるし、本人が定めた自分よりも強いものという制約が、婚期を遅らせている。
「それより重大発表ってなんでしょうか。わざわざメイがキャスターやってるのも気になるし・・・」
「そうですね。なんでしょうねー」
4人でソファーに座り、映像魔石の前に座る。
『実は先日、魔物の活性化を各地で確認しました。詳しく調べたところ・・・魔王発生の予兆だと確認されました』
「「「え!?」」」
『今から約1~2年後に復活すると思われます。それに今回は勇者様が神様のお告げを聞いたらしいのですが、5人で魔王討伐をしないといけません』
「いやいや。毎回最低100人は編成されるでしょ?5人?なんで?」
『その為、この国最強の4人を勇者様に同行させたいのです。その為の武闘大会を一年後に開催したいと思います。詳細は後日発表したいと思います。それでは最後に、先日召喚された勇者様にご挨拶を頂きたいと思います』
「ふーん。楽しそうだけど俺はパスだなぁ。隻腕だし、満足に戦えないからな。それに今ならレイの方が強いし」
「私もパスかな。エルの方が強いし」
前魔王討伐パーティーのお二人は出ないようだ。リーディア様は片目だし、リュウコ様は片腕がない。ここまで熾烈な戦いを終えた方々に、無理に戦えという人はいないだろう。
『あ~ご紹介に預かった勇者のケンシンと言う。今回4人選抜するという話だが、もしかしたら死ぬかもしれない魔王との戦いを強制したくない。別に誰も来なくても俺は責めない。俺一人でも魔王討伐に向かうだろう。だからこの大会はお祭りだと思おう。もちろん俺も参加する。
魔王討伐に行くとか行かないとかは置いといて、誰が一番強いか決めようぜ!一年後お前らに会えるのを楽しみにしている』
ガタッ!っと席を立つ。私とリーディア様とリュウコ様が同時に・・・。
「え?カイ様?面影があるのですけど・・・」
「どこからどう見てもアイツだな。なんだ?若返り?髪の毛は白くなってるが・・・」
「カイの孫?息子?でもここまでそっくりになる?」
「ど・・どうしたの?あのケンシンと言う勇者様に何か?」
レイだけが状況が分からず狼狽えてる。
「・・・一年後か。気が変わった。俺は出るぞあの大会」
「私も出ようかしらね。たまにはいいよね」
「一年か・・・今から間に合うかしら・・・」
正攻法だと勝てないが、策を弄せば・・・リュウコ様もリーディア様も猪突猛進型だし。
それから私は戦闘訓練に没頭する。リーディア様も昔の勘を取り戻すためにいろいろやっているようだ。
魔王が怖くないのか。死ぬのが怖くないのか。
恋をする乙女はいくつになっても無敵なのです。カイ様と共にいられるなら私は・・・何も怖くありませんね!