表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元勇者は安らかに眠りたかった  作者: てけと
元勇者はもう一度勇者に戻る
4/30

俺が何とかするよ

 勇者が召喚されるのは、ランダムではない。神様が見繕い、魔王に見合った勇者を召喚する。

 この異世界の歴史は約5000年。その歴史上では女性が召喚された例も多数ある。


 しかし召喚された勇者たちは、例外なく勇敢であった。召喚された当初から、異世界にまだ見ぬ冒険を求めるものが多い。平凡な日常を過ごす儂の世界では、この世界の様な非日常がとても眩しく見えるものだからだ。


 そして、結局不便なのだ。だからほとんどの勇者は、魔王を討伐したら元の世界に帰る。便利で、平和で安心安全な、元の世界に帰って行くのだ。


 しかし・・・。


「・・・・」


 目の前の少女は死んだ目をしていて、まるで世界に絶望したかのような感じがした。


「勇者様。こちらが元勇者様のナジリ カイ様です。ではよろしくお願いしますねカイ様」


 そう言ってそそくさと部屋を去るメイ。

 謀りやがったのぉ・・・あいつはいい奴なんじゃが、たまに面倒ごとを他人に丸捨てすることがあるからの・・・。


「ふむ・・・。ハルコちゃんだっけか?ハルちゃんと読んでもよいかね?」

「・・・」


 コクリと首だけで頷く。


「ハルちゃんには申し訳ないがのぉ・・・ちょっとだけこの世界の為に手伝ってくれんかのぉ・・・。なに目を瞑ってても終わる仕事じゃ。戦うのは怖いのかの?」

 

 コクリとうなずくハルちゃん。


「ふむ・・・しかし困ったのぉ・・・勇者様の協力がないと、魔王は倒せないからのぉ・・・それにハルちゃんも元の世界に帰れんぞ?それでもいいのかの?」


 コクリと頷く。

 元の世界に帰らなくてもいいっと・・・。弱ったな・・・。攻めどころはそこだと思ったんじゃがの・・・。


「しかし魔王を放置していると、この世界が終わってしまうかもしれんの・・・そうなったらハルちゃんも死んでしまうぞ?まだ死にたくないじゃろ?」

「・・・いいんです・・・私なんか死んでも・・・魔王さん?っていうのを殺さないといけない世界なんて、滅んでもいいと思うんです。誰かを犠牲にしないといけない世界なんて・・・」

「ほほう・・・なるほどなるほど。こりゃ目から鱗じゃわ。ふぁふぁふぁふぁふぁ!」


「・・・何がおかしいんですか?」

「いやな。優しい子なんじゃな。誰かを殺すくらいなら自分が死ぬなんて、言葉にはできても、実際こんな状況で誰とも知らない奴を殺したくないとは。言えんよ普通なら」

「別にそんな・・・私は逃げてるだけです」

「あんな平和な世界から来たんじゃ。仕方ないと思うがの。逃げてもええんじゃよ。ハルちゃんが嫌ならやらんでよい」


「え・・・?」


「まぁこの世界に住む数億の人は死ぬかもしれんがの~。そんなのは些細な事じゃ。いつかはこんなことが来ることはわかっていたことじゃろう。勇者が戦えないという日がのぉ」


「・・・私がやらないと・・・数億もの人が・・・」


「あぁ。脅しとるわけじゃないぞ?知らない世界を無理してハルちゃんが救う必要なんてなんじゃよ。それに実は儂にはハルちゃんを元の世界に戻す術もある。それを見越して儂に相談したのじゃろう」


「・・・」


「どうするかの?まあ儂も勇者の端くれじゃ。あと十年は生きれるじゃろうし、代わりを務めれると思うんじゃ」


「ナジリさんでしたよね・・・私は元の世界になんて帰りたくないんです・・・」


 初めて儂の目を見て話し始めたハルちゃん。その目には涙で潤っていて・・・。


「私は死んだはずだったんです・・・。あの日、いじめがエスカレートして、学校の屋上から突き落とされて・・・気づいたらここにいて・・・わけがわかんなくって・・・」


 いじめか・・・。死ぬ直前に転移したという感じか。こんな優しい子が・・・命からがら転移した異世界で戦いを強要されて・・・。


「ふむ・・・優しい子じゃなハルちゃんは・・・わかった。儂が何とかしよう。ハルちゃんはこの世界でのんびり暮らすといい。やりたいことをやって、好きに生きればいい。その為の援助はしてくれるはずじゃ」


 ハルちゃんの頭を優しく撫で、微笑みかける。


「え・・・でも・・・」

「ふぉっふぉっふぉ!なーに。こんな老骨一人の苦労で、こんな可愛くて優しい子を救えるんじゃ。男として漲るってもんじゃよ!それじゃあ儂は用事があるからこの辺で」

「あっ・・・」


 部屋を出ると、メイが待っていた。そしてメイの後ろに灰色の髪をポニーテールにした少女も。


「どうでしたか?カイ様」

「んーダメじゃった。テヘッ」


「はぁ・・・まあ無理でしょうね・・・元の世界に帰してあげるのですか?」

「彼女はそれを望んどらんからの・・・まあ手はあるから安心していいぞ。儂が彼女の代わりをしよう」

「歳を考えてください・・・もうあなたに無理をさせたくはないのです・・・」

「しかしワシがやらねば誰がやるよ」

「次の勇者様が来るまで耐えしのげば・・・」

「それまでに何人死ぬことか・・・。まあ儂に考えがある。任せとけばよい。それよりその子は?」


 ビクッ!と後ろの子が反応する。


「私の孫娘よ。挨拶しなさいメリー」


 メイの後ろから出てきて、おずおずと頭を下げる。


「め・・・メルティーといいます!」

「メルティーちゃんか。昔のメイにそっくりで美人さんじゃなぁ」

「憧れの勇者様を目の前にして緊張してるのよ。いつもはやんちゃな暴れん坊なんですから」

「ほうほう。憧れるほどの人物じゃないんじゃよ儂なんて、史上最も魔王討伐で死者を出した、愚者だからのぉ・・・」

「そんなことありません!!勇者カイは誰よりも勇敢で・・・どの歴代勇者様よりかっこよくて・・・」

「ありがとうメルティーちゃん。儂も少しは報われるわい」


 メルティーの頭を撫でる。彼女は嬉しそうに目を細めていた。


「お婆様!カイ様に撫でられました!!」

「ええそうね。よかったわね~」

「はい!!」

「そうだメルティーちゃんや。一つ頼まれてくれんかの?」

「はい!なんでしょうか!」


「ハルちゃんと友達になってくれないかの?彼女は元の世界でひどい目にあったみたいでの・・・」

「え!?そうなんですか?勇者様の世界は平和な世界なのでは?」

「平和な世界だからこそじゃな。秩序に抑制された人はの、どこかでストレスを発散するんじゃ。その方法は様々じゃが、ハルちゃんはそのストレス発散の標的になったんじゃ」

「はぁ・・・剣でも振ってれば頭のもやもやなんてなくなるのに・・・」

「気が弱い子や争いが苦手な優しい子を、言い返してこないことをいい事に大勢でいたぶるんじゃ。最悪矛先を向けられた子は自ら死を選んだりする。ハルちゃんはその最悪の結果の一歩手前まで言ったんじゃ。

 この世界では辛い目に会ってほしくないのじゃ・・・だからメルティーちゃん。ハルちゃんを勇者としてでなく、一人の友人として接してほしいんじゃよ」

「そんなひどい目に・・・失礼します!勇者様!」


 メルティーちゃんは一目散にハルちゃんの部屋のドアを開け、部屋に入っていった。

 ハルちゃんは彼女に任せておけばいいだろう。


「で?どうするんですかカイ様?」

「神様に会う。儂はその権利を保留にしておったからのぉ・・・わしの寿命を少し伸ばすくらいできるじゃろ」

「・・・そうですか。そう言う人でしたよね貴方は・・・。今回の魔王こそ、あなたの手を煩わせないよう努めます」

「そうしてくれるとありがたいわい」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ