元勇者と現勇者
昔を懐かしみながら畑をいじる。種類は豊富ではないが、家では希少な野菜と香辛料だ。
ふと後ろから人の気配を感じた。エルがもう帰って来たのだろうか・・・?
「なんじゃ?えらく早く帰って来たの?なんか異変でも――」
「勇者様・・・お久しぶりですね」
振り返ると、そこには長髪の白髪に綺麗な顔立ちの老年の女性が立っていた。
「ん~?・・・もしかしてメティール・アルバトスかの?」
「昔の様にメイでかまいませんよ。カイ様」
「おお!お主には何度命を救われたことか・・・」
魔王討伐軍の回復部隊の長だった女性だ。この世界の回復魔法は欠損をなおしたり、死者を蘇生したりはできない。細胞を活性させ、傷をふさぐ。大きな傷はふさぐのに時間がかかる為普通に糸で縫ったりする。
要は衛生兵の様なものだった。何がファンタジーだよ!?と当時は憤ったこともあった。
「ふふふ・・・私たちの勇者様は無茶ばっかりしてましたからね。それにしても・・・お互い老けましたねぇ・・・」
「そりゃぁの~。なにせ40年ほどかの?お互い老けるわい。しかし・・・老いてなお美しいの~メイは」
「もう。口説くなら40年遅いですよ。しかし安心しました。あの時の勇者はひどく焦燥してらっしゃいましたから・・・どこかで死んだのかと・・・元気な姿を見られてうれしい限りです」
「もうじき迎えは来るじゃろうがな~ふぉふぉふぉふぉ・・・で?どうしてここに?顔を見に来たってわけではなさそうじゃの?」
庭にもう一人気配を感じる。多分転移魔法の使える側近か何かだろう。
メイは確か結構偉い貴族だった気がするし、魔王討伐を生き残った聖女様だ。そんなVIP中のVIPがこんな辺境くんだりまで気やすく来れるはずがない。
「リディに話を聞いて顔を見に来たというのもありますが、お察しの通り勇者様にお願いをしに来ました」
「ふむ・・・。儂も歳じゃし、何も出来んと思うが・・・ひとまず話を聞こうかの」
「・・・魔王復活の兆しが各地で現れ始めました」
「なんじゃと!?」
魔王は死なない。たとえ殺しても、数百年後に復活する。それは知っていた。しかし・・・いくらなんでも早すぎる。
「間違いじゃないのかの?まだ40年ぞ?」
「間違いだと思いたかったのですが・・・。各地の魔物が若干ではありますが活性化しております。観測士の予測だと、今から数年以内に復活すると」
「・・・勇者召喚は行ったのかの?」
「はい。しかしそれがですね・・・」
「何か問題があるったのかの・・・?」
「元勇者様としてお会いしていただけないでしょうか・・・。会えばわかると思いますので」
「ふむ・・・わかった」
「ありがとうございます!!同じ異世界から来た勇者様なら、説得できると思いましたので・・・」
まさか同郷に会うことになるとは・・・。勇者としての引継ぎ。これがワシの最後の仕事になりそうじゃの・・・。
「ワシもこの世界が好きなんじゃよ。その為には協力は惜しまんよ」
「久々じゃのう王城は、昔とさほど変わっておらん」
「40年程度では何も変わりませんよ。それより良かったんですか?たしかエルさんが一緒にお住まいだったように聞いておりますが・・・」
「大丈夫じゃよ。置手紙はしておいたしの」
城門の前にいる兵士がこちらに敬礼し、手をあげ応える。
城の中の煌びやかな赤いカーペットを踏みしめ、城内を歩く。
「勇者様にはちゃんと説明したのかの?」
「もちろんです。前勇者様がパニックになっていたこともあり、きちんと時間をおいて、落ち着いたときにお話しさせていただきました」
「・・・悪かったの・・・」
「いえいえ。そりゃ混乱もしますよね・・・王様が無駄に威圧するし、あの後夫人様にどなされてましたしね」
「あ・・・そうだったんじゃな・・・王様尻に敷かれてたんじゃな。驚愕の真実なんじゃが・・・」
この世界には魔王が存在する。そしてそれを倒すには、異世界から召喚された者の力がいる。この世界では異世界人の事を、勇者と呼ぶ。
しかし、勇者という強大な力がいるわけではない。魔王を倒すために、ほんの一押しの助力が必要なのだ。
基本的には、この世界の住人が魔王討伐軍を編成し、魔王討伐に向かう。そして瀕死の魔王にとどめを刺すだけなのが勇者の仕事だ。
魔王の核となっている魔石は、神様に会うために必要になる。そして神様に元の世界に帰してもらえるらしい。転生された時間軸に戻されるらしいので、本人はまるで夢でも見ていたかのような感じになるらしい。
要は、ほんのちょっとだけこの世界を守るために協力してほしい。最高級のもてなしを受けるし、剣術もしっかりと教えてもらえる。
元の世界に帰っても、覚えた剣術は体が覚えているじゃろうしな。
ワシの場合はちょっと事情が違ったがの・・・。あれは完全にイレギュラーで史上最悪の状況だったらしい。
「ここが勇者様のいるお部屋です」
「ふむ・・・さて、鬼が出るか蛇がでるか・・・」
「そんなことはないんですけどね」
高慢勘違い系主人公とか、わがままハーレム志向のろくでなし主人公とか、ざまぁされる未来しか見えない奴じゃったらどうしよう・・・。
「勇者様?失礼しますね」
メイがドアをノックし、声をかける。返答はないようだ。
「ええい!ままよ!」
そう言いワシはドアを開く。
「ん?いないようじゃが・・・?」
「いらっしゃいますよ。ほら・・あちらにいらっしゃるのが今代の勇者様です」
ベットの隅に、膝を抱えて座っている。黒髪を腰まで伸ばしたメガネの女の子だった。
「名はタカナシ ハルコさんです。どうか彼女をお願いしますカイ様」
「へ?女の子なの!?」