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元勇者は安らかに眠りたかった  作者: てけと
闘技大会編
17/30

総合格闘大会決勝

 いよいよ大会も最終日。王都で行われていた大々的な祭りも今日で最後。

 少し寂しいような気もするが、盛り上がりは今大会最高潮であろう。


 なんでもありの格闘戦。こう言ってはなんだが、ただのケンカだ。ルールーもクソもない。立ってる奴が勝ち。それだけだ。


 荒々しいこの大会の決勝に残っているのは、予想通り竜人の二人だ。

 魔法なしの近接なら、他の種族でも勝てるだろう。魔法有りの遠距離縛りならエルフが有利だろう。

 しかし・・・こと総合戦闘力においては、竜人と言う種族が抜きんでている。

 高い身体能力、魔力量もエルフと大差ない。しかし・・・不器用なのだ。

 生まれ持った竜人と言うスペックを最大限に使い、ただただ相手を圧倒するのが竜人なのだ。


「最後に相応しいな。竜人の一位と二位の戦いか」

「派手好きだもんねリュウコ」

「派手と言うか・・・あれは竜人と言う名の暴力ですよ・・・」


 膝の上にいるエルがボソッとそういう。


「レイちゃんとエルが戦ったらどっちが強いんだ?」

「今なら多分勝てます。カイ様の元に行く前でしたら、10回戦って1回勝てるかどうかでしょうか」

「リュウコとレイならどっちが強いんだ?リディならなんとなくわかるんじゃね?」

「そうね・・・リュウコはこの決勝であの腕を開放するでしょうし・・・ちょっとレイじゃ実力が足りないかも?」

「ほー。あの腕もなんか秘密があるのか」

「もちろん。正直リュウコはまだ現役だし、レイはまだ成長途中。能力的にはリュウコの方が上ってとこね」

「レイちゃんが勝つにはなんかしら秘策がないといけない訳か」


 ただただ蹂躙されて終わるのか、竜人の可能性を見せてくれるのか、とても面白い戦いになりそうだ。


「と言うわけで・・・俺は試合観戦に集中したいんだが・・・ルリエさん?俺の後頭部に当たっているそれを何とかしていただけると・・・」

「お気になさらず」


 俺の後ろから抱き着いているルリエ。その胸が後頭部に当たりふよふよした感触が気になってしまう。


「あとエルさん?あんまり膝の上でもぞもぞしないでいただけると・・・」

「すいません。私の下にカイ様のアレがあると思うとつい興奮して・・・」

「はぁ・・・」


 前後エルフサンドイッチをされつつ、俺は遠い目で決勝の舞台を見ることにした。




『長らく続いた闘技大会も今日で最後。数々の名勝負を見てきました・・・そして今日!その最高の大会を締めくくるにふさわしい戦いを、私達は目にするでしょう。

 何でもありの戦い、強い者が勝ち上がるこの大会で勝ち上がってきたのはやはりというべきかこの二人!

 先に入場してくるのは、蒼い髪をなびかせて、颯爽と入場する小さな女の子。しかし侮ることなかれ、圧倒的な膂力でここまでの対戦相手を全て一撃KO。まだ彼女の実力の底は見えませんが、この決勝戦では存分に暴れてくれるでしょう!

 幼龍レエエェェェイいいい!!』


「誰が幼龍。私はもう大人」

 

 そう言ってレイはアナウンサーの男をギラリとにらむ。


『ひぃ・・・。ご・・ゴホン。さて、相対するは竜人最強のあのお方だ!前魔王討伐軍であり、戦闘力だけなら、かの勇者カイ様をも凌ぐまさに最強。強者たる実力を示せるのか!!

 赤龍!リュゥゥゥゥコォォォォ!!』


「おいアナウンサー!!俺はリュウコにだって負けはしねぇぞ!!」

「上等だてめぇ!!あとでボコボコにしてやる!!」

「望むところだコラァ!!」


『あー・・・場外で喧嘩しようとしないでください。さっさと入場お願いします』


 観客席のカイを睨みつつ舞台の上に立つリュウコ。


「で?お前は強くなったのか?一年前と変わらないようなら、一瞬で捻り潰すぞ?」


 ギラリっと射貫くような目線でレイを見据える。


「心配いらない。むしろ叩き潰す」

「ほう。良い目をするじゃねえか・・・行くぞオラァ!!」


 両者にあった間合を一瞬で詰め、拳をレイに向かって振るう。

 レイはその拳を避け、リュウコにカウンターを決める。

 ボグッっと重い打撃音が響く。しかし・・・。


「そんなよわっちい攻撃なんざ効かねえよ!!」


 レイの攻撃を意に介せず、ひたすら攻撃を続けるリュウコ。

 そのすべての攻撃にカウンターを当て続けるレイ。傍から見ると攻撃を当て続けているレイが有利に見える。


「オラオラオラオラ!!」


 すべての攻撃に一撃必殺の力を込めるリュウコ。それを捌くのに集中力をすり減らすレイ。


「フッ――」


 レイはリュウコの腕を取り、懐に潜り込むと、肘を鳩尾に入れる。


「チッ!」


 肘打ちの衝撃で数メートル後ろに吹き飛ばされる。いくら竜人の体が丈夫とは言え、少しづつダメージは蓄積されていた。

 なにせ相手もまだ成長途中とは言え、竜人の膂力を持っているのだから。


「なるほどなぁ。真っ向から戦ったんじゃあ勝てねえから、小手先の技を覚えたってわけか?」

「小手先じゃない。前から思ってた、竜人の力に人の技術。合わせたらもっと強い」

「ハッ!まだまだ未熟もんだな。竜人が人の技術?なら教えてやるよ。そんなちんけなもんは俺たちを逆に弱くする」


 リュウコの体の周囲が揺らめく。丸かった瞳孔は縦に細くなり、口からはチリチリと炎が見え隠れする。

 グッと足に力を入れたかと思うと、レイの前に突如現れ、拳を振るう。

 レイも竜人だけあって、リュウコを見失うこともない。自分の顔に向けて振られる拳を見据え、タイミングを計りカウンターを打つ。今までとおんなじ流れだ。自分がミスらない限り、時間はかかるが勝てるとおもっているレイ。

 しかし――。


「ガアアァァァァァ!!!」

「くっ!」


 獣のような咆哮をあげながら突撃するリュウコ。スピードがどんどん上がっていく。カウンターを狙えず、レイは躱すので精一杯になっていく。

 突如義腕が赤く輝く。キィィィンと甲高い音が鳴り・・・。


 リュウコの後方で爆発が起き、有り得ない速さでレイの腹部をまっすぐ貫いた。


「がっ!?」


 常人ならそのまま腹部に穴をあけていただろうが、さすがは強靭な体を持っている竜人と言ったところだろうか、腹部に穴をあけることはなく、十数名後方に吹き飛ぶ。

 舞台上を転がり、落ちるギリギリで止まる。

 

「人の技術は人が使って初めて本領を発揮する。もともと強いお前たちが使う必要はない。エルに触発されたんだろうが・・・エルとレイちゃんは違う。大丈夫。レイちゃんなら勝てるさ。自分の本能に委ねろ。勝って俺と共に魔王討伐の旅行にしゃれ込もうぜ?な?」


 そんな声がレイの後ろから聞こえる。

 レイは少しだけ笑みを浮かべ、立ち上がる。


「ふー・・・」


 レイは目を閉じ体の力を抜く。体の周りに白い冷気が纏わりつく。

 静かに開いた眼は、丸かった瞳孔が縦に細長くなっていた。体をまとっていた冷気は、みるみる床に広がり続け、舞台上を凍らせていく。


 舞台の中央に歩いて行くレイ。それに向き合うリュウコ。


 舞台の半分は凍り、もう半分は灼熱の炎で熱されていた。


 両者が動く――。そこからは正に人外の戦いであった。

 振り切った拳の先には炎が燃え盛り、蹴りを放った軌道に霜が舞い散り、時折水蒸気爆発の様なものも起こっていた。


 しかしその戦いは美しかった。空中には炎が踊り、氷が煌く。幻想的な空間の中、ただただ相手を倒すためだけに攻撃を続ける。

 やはり膂力はリュウコの方が上、さらに爆発により加速する義腕。互角に見える戦いは、徐々にリュウコが押し始めていた。


「「スゥ――」」


 と二人が息を大きく吸い込む。そして―――。


 リュウコの口から炎のブレスが、レイからは氷のブレスが吐きだされる。

 ゴッォォォォっと炎が吹き荒れ、パキパキパキとすべてを凍らせる冷気が辺りを凍らせる。

 お互いブレスの衝撃で再び間合が開く。


 レイは再び目を閉じる。自分の中の龍の存在を確かめる様に、ずっと嫌いだったこの龍人族の血を感じるために・・・。


「シャッラアアアアアアア!!」


 ブレスで出来た氷の壁を、リュウコが突進して破壊する。そのままレイに向かって突っ込む――。


 ガッ!っと片手で拳を掴まれ、返す刀でレイ殴り返され、リュウコは氷の壁に激突する。


「てめぇ・・・!そうか・・・ついに至ったか!」


 目を開いたレイの姿がさっきとは変わっていた。

 龍燐は顎の下までびっしりと生えており、角は若干伸びており、何より背中に青い翼が生えていた。

 

「フシュー・・・」


 冷気を纏った息を吐き、リュウコを見据えるレイ。


「グァァァァァァァァァァ!!!!!!!」


 ツバサをはためかせ、宙を這うように、獣のような咆哮をあげつつリュウコに迫る。


「いいぞレイ!!来いやぁ!!」


 リュウコはレイを迎撃するために構え、レイはそのまま突進する。

 二人が激突する。

 しかしそこからは一方的だった。三次元的な動きで攻撃を繰り広げるレイに対して、防戦一方のリュウコ。


「ガアアアアアァァァァ!!」


 リュウコはレイの後ろ蹴りをもろに胴体に食らい吹き飛ぶ。

 舞台上を転がり、何とか踏みとどまるリュウコ。


「チッ!やっぱりきついか・・・。あーあーカイともう一回旅に出たかったなぁ・・・」


 リュウコは既に体力が残ってなく、ぎりぎり立っている状態だった。義腕は性能はいいが、魔力を余計に喰らう。騙し騙し何とか押し切れると思っていたのだが・・・。土壇場でレイが覚醒した。


 先祖返り。龍人族は炎を基本とするが、稀に違う属性を持ったものが生まれるときがある。それが先祖返り。かつて龍だった頃は全ての属性を操る神龍だった。しかし神龍は人と恋に落ちた。そして生まれたのが龍人族。血が薄くなるたびに、一番強かった炎の属性だけを残していった。だからこそ、他の属性を纏う龍人の子は先祖返りと恐れられていた。


 先祖返りでも、覚醒する子は長い龍人族の中でもほんの一握りだった。

 そしてレイはそこに至った。環境に恵まれたのだろう。特にカイとエルが彼女にとっていい刺激になったのだろう。


 レイは爪をとがらせ、リュウコに突っ込む。既に理性は飛んでおり、目の前の敵を殺す事しか考えていないのだろう。


「レイ。お前が龍人族最強だよ」


 リュウコはそう言って頬を緩める。腕を広げ、レイを迎える。


「ガアアアアアアァァァァァ!!」


 そして、レイの爪がリュウコの心臓をつらぬ・・・かなかった。


 ギィィィンと大きな金属音が鳴り響く。背後に背負ったまま大剣でレイの爪を防ぎ、リュウコの前に降りたつカイ。


「なんだリュウコ?そんな腕を広げて・・・抱きしめてほしいのか?」

「あ?まあカイになら抱きしめてもらいてぇが、試合中だぞ?」

「死人を出すわけにもいかねえから・・なっ!」


 カァン!と迫っていたレイの爪を大剣で弾き・・・。サバ折りの如くレイをガシッとつかむカイ。


「落ち着け―レイちゃん。飲み込まれんなよ。頑張れ」

「ウガアアアァァァ!!」


 レイの爪がカイの皮膚を貫き、レイの牙が、カイの首筋に牙を立てる。

 血がだらだらと垂れるが、カイはレイを抱きしめる手は外さない。


 そして数分後、レイの力が抜け、元の姿に戻る。気を失っているのか、疲れて寝ているのか。


 静かだった会場がどっと沸き、大歓声と拍手の中、リュウコとレイを抱きかかえたカイは、舞台上から退場していったのだった。

 

 

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