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元勇者は安らかに眠りたかった  作者: てけと
闘技大会編
15/30

遠距離魔法戦決勝

 遠距離魔法戦決勝戦。対戦カードはエル対ルリエの親子対決。


 俺の予想はエルの圧勝だ。分かりやすくするとすれば、


 エル                   ルリエ


 魔力量 S                 魔力量 C


 魔力操作 S                魔力操作 B


 使用魔法数 約40            使用魔法数 約20


 筋力 B                  筋力 D


 技量 A                  技量 B


 速力 A                  速力 D


 知力 B                  知力 B 


 総合 A+                 総合 C


 こんな感じか、エルが劣っている部分はほぼないな。俺ですら割と手こずるとおもう。

 実際戦いの幅がかなり広いエルは、俺と互角に戦えるくらい強い。

 遠距離と言う制限はあるにせよ、エルが負けるのは想像できないかな。


 

「と俺は思うんだが、実際戦ったリディはどう思う?」

「そうね・・・。正直私も負けるとは思ってなかったわ。多分ルリエはエルにもなんかしらの作戦はあると思う・・・割といい勝負するんじゃないかしら」

「エルはつえぇが、ルリエも弱くはねぇからな。勝負は水物、どっちが勝つかなんてやってみねぇとわからねぇよ」


 まあ確かにな。ルリエがどうやってリディに勝ったかも教えてくんねぇし。


「私もエルを相手に勝てるかは微妙」

「レイが言うなら相当ね。私ももっと精進しないと・・・」

「メリーは気負い過ぎだぞ?そもそも種族的に不利なんだから、これから強くなっていけばいいさ」


 竜人はそもそも基礎身体能力がずば抜けてるし、エルフは魔力が生まれた時から多い。獣人は五感が優れているし、ドワーフは体が頑丈だ。

 故に人は平凡だ。全てが平均値。体を鍛えても竜人には劣り、魔力操作を極めてもエルフには劣る。五感は獣人に到底及ばず、ドワーフほど頑強になれない。


 なればこそ技術に特化した。劣る故に、知恵を駆使し、相手を欺き裏をかく。そうして人は、他種族に引けを取らない種族となった。


 俺に技術はあるのかだって?


 ・・・・・・。あるよあるよ?めっちゃあるよ?技巧の勇者とは俺の事だよ?


「そうですね・・・。相打ち覚悟で突っ込んでいく勇者様のようになるわけにはいかないですし・・」

「そうだぞメリー。どこぞの勇者みたいに猪突猛進はだめだからな。フォローが大変なんだよあれ」

「そうですよメリー。バトルハイになって、笑いながら敵に突っ込んでいく馬鹿勇者みたいになってはだめよ。見てて冷や冷やするからね」

「・・・すいませんでした・・・。猪突猛進でバトルハイになってすいませんでした・・・」


 心をズタズタに引き裂かれた俺は、膝の上に座っているレイちゃんを軽く抱きしめ、目を虚ろに舞台上を見る。

 レイちゃんは体温が低く、少しひんやりとして、小さい体はぬいぐるみみたいで抱き心地がいい。一家に一台欲しいところだ。

 夏には重宝されるだろうな・・・。


 そんな馬鹿なことを考えていると、決勝戦が始まるところだった。






『大会第二部門、遠距離魔法戦決勝!!ルールーは近接武器を用いないだけ!!持久戦ななりがちなつまらない魔法戦?確かに常人はそうでしょう!しかしこの二人にはそんなことはありえない!!

 この大きな舞台で、決勝まで上がったのは、エルフとハーフエルフの二人!しかもこの二人は血を分けた親子だ!今宵皆様が目にするのは、魔法戦世界最強の親子喧嘩です!!


 まずはこの方の入場だ!準決勝で元魔王討伐軍であるリーディア様を下し、下馬評を覆した彼女。今日も妖艶な笑みを浮かべての入場だ!どんな策があるのかに期待だ!!

 

 怜悧な魔女!ルゥゥゥリエェェェ!!』


 おおよそこれから戦いをするかに見えない様な、穏やかな表情で舞台の上に立つルリエ。

 まるで、愛する愛娘の晴れ舞台を見るかのような・・・。


『続いて選手の入場です。予選、一戦め、準決勝と圧倒的な力の差を見せ続けるハーフエルフの少女!!

 歴史上最強の魔術師なのではないかとの声も高い彼女。魔力操作、魔力量、そして魔法適性の高さ、全てが最高峰のまさに千年に一人の逸材だ!またしても圧倒的な実力差を見せつけてしまうのか!!


 最強の魔術師!エェェェェルゥゥゥ!!』


 転移魔法でどことなく現れたエル。カイと接するとき以外は基本無表情の彼女。

 ルリエをまっすぐ見据えるエル。微かに、彼女には戸惑いが見える。

 

「流石私の愛娘ね。歴史上最強の魔術師だそうよ?」

「ええ。お母様には感謝しております。私がここまで強くなったのは、お母様の御助力があってこそでしょう」

「あのカイ様の元に侍るのですから、それくらいは力がないとね」

「・・・私は数年前まで、お母様に愛されてないのではないのか、道具として使われているのではないか?そう思っていました」


 幼少期より、地獄のような英才教育。体術を竜人の里で叩きこまれ、エルフの森ではひたすら魔力操作の練習。王都の学校で知識を詰め込み、東国にて戦闘技術を学び、ドワーフの街で武器防具の扱いを学ぶ。寝る以外の自由行動はなく、それが日常と化していたエルは、いつしか感情のない人形のようになっていたのだ。


「私はただ、この世界で最高の人物のお傍に、あなたを置きたかったの。それが長い時を生きるあなたの為になると信じてね」

「ええ。カイ様に数年お仕えして分かりました。私がお母様と同じ立場でも、娘に同じことをしたでしょう。たかが十数年地獄を見た程度、なんてことなかったです」

「うふふ・・・。久々にあなたを見た瞬間分かりました。良い時間を過ごしたのね」

「ええ。毎日カイ様と添い寝しました」


 ピクッとルリエのこめかみがひくつく。


「カイ様が寝ているときですが、何回もキスさせていただきました」

「へぇ?」

「毎日頭を撫でてくださいましたし、何度も可愛いと言ってくださいました」

「・・・なるほど。カイ様はあなたを()()()のように思っていらっしゃるのね」


 次はエルのこめかみがぴくりと動く。


「ちなみに私は嫁と思われているそうよ」

「へぇ?」

「先日夜伽の許可を頂いたわ」

「ほう?」

「可哀想なエル。数年も一緒に居て、女としてみてもらえないなんて・・・」

「・・・このビッチめ・・・」

「・・・小娘が思い上がらないほうがいいわよ?」







「「この(メスガキ)(ビッチ)が!殺す!!」」



 両者とも魔力?が体から噴き出て、髪が浮き上がる。殺意で満たされた目でお互いにらみ合う。

 






 なおこの親子喧嘩の原因である当人は・・・。


「おお!二人ともすごい闘気だな!!これはいい戦いになるな・・・」

「・・・言わないほうがいいのかしらね・・・」 

「知らん方がいいこともあるだろうさ」


 この調子である。二人が報われる時は来るのだろうか・・・。





 ルリエは背中に背負ってた弓を構え、矢筒に入っている矢を番える。


「お母様。そんなものが私の魔法を貫けるとでも?」

「やってみないとわからないでしょう?」

「はぁ・・・ウィンドウアーマー」


 エルは即座に魔法を紡ぐ。エルの体の周りに風の鎧が発動する。

 ルリエは弓を放つ――が、エルの体に当たる事はなく、風の鎧に矢を逸らされ、矢は床に刺さる。


「終わりですね。アイスラン―――」


 ドガンッ!!と刺さった矢が爆発し、エルはその爆風で吹き飛ばされ、魔法が中断される。


「ぐっ!!」


 間髪入れず、ルリエはひたすら矢を放つ。


「アースウォール!!」


 エルの前に土の壁が現れ、矢はそこに刺さる。しかし―――。


「上ですかっ!!」


 壁を越え、多数の矢が降り注ぐ。その間にも土の壁に刺さった矢が爆発し、壁を破壊する。

 

 魔法はどうしても魔法名を紡がなければならない。攻撃速度だけなら矢を放つ方が断然早い。


 

「着弾して爆発するならっ!!ウィンドウストーム!!」


 エルを中心に暴風が巻き起こる。この規模の竜巻を自分を巻き込まずに発動できるのは、まさに魔力操作の極致である。


「誰が・・・着弾が爆発のトリガーだと言ったの?」


 竜巻に巻き取られ、風と共に回っていた矢が、一斉に爆発する。


「なっんで!!」


 爆風に吹き飛ばされ、さらに自分で起こしていた魔法に巻き上げられ、舞台端まで吹き飛ばされる。

 仰向けに倒れているエルの目の前に、矢が刺さる。


「っ!?アースウォール!!」


 爆風をもろに食らい、自ら作った壁に叩きつけられるエル。


「アイスランス」


 地面から飛び出る氷の槍に、土で作った壁が吹き飛ばされる。

 その衝撃波で、エルも吹き飛ばされ、舞台中央まで転がる。


「くぅ・・っ」


「エル。降参しなさい。舞台上から叩きだすだけでいいなら、すでに私の勝ちは見えています」

「嫌ですっ!私は・・・カイ様と一緒に・・・」


 ヒュン!カッ!と矢が刺さると同時に、矢が爆発する。

 爆風に吹き飛ばされ、転がるエル。

 

 ルリエの矢は、矢じりが魔石で出来ており、ルリエの込める魔力量によって爆発までの時間が操作できる。

 精緻な魔力操作によって、コンマ数秒まで爆発のタイミングを合わせられるように、この一年で訓練したのだ。安くない魔石を買いあさり、製作に試行錯誤し、とうとう完成したのがこの爆発する矢。

 


 すべてはこの一戦の為だけに、ルリエが用意した秘策なのだ。


「エル。魔王討伐は甘くはない。5人で行って、5人とも生きて帰れることはないと思うの。だから・・・私が()()、カイ様だけは生きて帰すわ。私の命を懸けても。


 だから・・・あなたは魔王討伐が終わった後の、疲労困憊であろうカイ様の元に仕え、時間をかけて、愛を育みなさい。

 

 きっとカイ様は、無茶して傷つき、パーティーの死に心を痛め、ボロボロになって帰ってくる。それをあなたが癒すの。


 それが・・・あなたにとっても、カイ様にとっても、幸せに生きる道だと。そう信じています」 


 魔王討伐という危険を、娘にしてほしくない。なにせ前回は200名もの死者が出たのだ。

 まだ20年ほどしか生きていない愛娘を死なせるわけにはいかない。

 カイ様と幸せに生きてほしい。その為に・・・ルリエはエルの前に、強大な敵として立ち塞がったのだ。


「勝手ですよ・・・お母様・・・」


 爆発の光と音で、視界はゆがみ、頭がふらふらしつつ、エルは立ち上がる。


「エル。私の死と引き換えに、カイ様と一年旅をする権利をくれないかしら?その後は勝手にすればいいじゃない。とてもいい母親をしたとは言えないわ。なにせあんな特訓をさせてしまったのだから。ある意味奴隷として、男に抱かれているほうが、マシだったかもしれない」

「いいえ。いいえですお母様。私はお母様を尊敬しております。カイ様の次にですが・・・」


「そう・・・。だったら、ここは譲ってねエル。尊敬するあなたのお母様のお願いなの」


 ルリエは弓に矢を番える。エルに狙いを定める。


「いいえです。お母様。私は死なないし、カイ様も、パーティーメンバーの誰も死なせません。全員生きて帰ってきます。


 だから・・・お母様を見殺しにするわけにはいかないのです!!」


 ルリエは矢を放つ。エルの足元に矢が刺さる。


「ショックウェーブ」


 エルの周りの全てが、塵と化す。石畳も、刺さった矢も、全てが塵となり、サラサラと風に流されていく。


「!?何その魔法は・・・」


 ルリエは矢をエルに向かって放つ。しかし、エルに到達する前に、矢は塵と化していく。

 ならば手前で爆発させれば・・・!そう思い矢を放とうとするが・・・。


「グラビディゾーン」


 ズンッ!という重圧と共に、ルリエは地面に押し付けられる。


「な・・・に・・・どういう・・ことなの・・・」


「カイ様と一緒に考えた・・・新魔法です。まだ細かい操作が・・・出来ませんし、使用する魔力量が桁違いなのですが・・・」


 息も絶え絶えに、脂汗を流しながらエルは言う。


「ありがとう・・ございます・・・お母様。でも大丈夫です・・・あなたの娘を信じてください・・・必ず生きて帰ります・・・ので」


 エルはスッと腕をあげる。最後の魔法を使うための動作だ。


「ふふふ・・・仕方ないわね・・・あーあ。せっかくレイちゃんに頼んでまで策を練ったのに・・・私の愛娘は、私の想像より・・・はるかに強く・・・なってたのね・・・」



「サンダーボルト!!」


 バシンッと一条の光が灯り、その光はルリエに直撃する。

 攻撃を受けたルリエは気絶し、動かなくなる。


 試合は決したが、誰もが絶句していた。なんにせ・・・。



 5属性(火(炎)、水(氷)、土(岩)、風、聖(回復))しかないと思われていた魔法の歴史が、今この瞬間塗り替えられたのだから。



「勝者!!エル!!おめでとう!!!!!」


 呆然とする観客席から、大きな叫び声が聞こえ、我に返った観客たちが大きな歓声を上げる。


 エルも力尽きて倒れたため、ルリエと共に担架で運ばれていく。

 回復士いわく、満身創痍のはずの親子は、どこか満足げな顔をしていたとかしてないだとか。

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