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元勇者は安らかに眠りたかった  作者: てけと
闘技大会編
14/30

東国の巫女と魔法戦準決勝

 今日は遠距離部門の準決勝。予選と一日目?知らん!


 魔法戦って言うのは持久戦になりがちだし、俺自身、遠距離からちまちまやるのは性に合わないし、興味はあんまりない。

 正直、あとは総合格闘部門の決勝を見るくらいかなぁと思い、久々の王都で食べ歩きに興じていたわけなんだが・・・。


「見つけた!ケンシン!」

「ん?」


 呼びかけられたので振り向くと、真っ黒い髪を腰まで伸ばした、赤い瞳をした少女がいた。頭には狐耳を生やしており、服装は着物の様なものを着ていた。身長は俺の胸くらいまでしかなく、ぱっと見子供のように見えなくもないが、実はれっきとした大人だ。年は確か・・・おっと、女性の年齢なんて言うべきじゃないな。


「おお!確か東国の巫女の・・・シノ!」

「覚えてくれてたんだね!嬉しい!」


 東国。元々はただ獣人たちが暮らす町だった。しかし、頭のおかし・・・ゲフンゲフン。俺のような変わり者の勇者が、人生をかけて日本を再現した。時代は江戸あたりだろうか?食事も米食で、醤油も味噌もあるような、元の世界の人間にとっては懐かしい場所になる?のか・・?

 住人は全て獣人。巫女と言うのは、勇者の血を引くものに代々つけられる役職で、特に意味はない。

 

 なんにせ、あの街を造った勇者は、嫁を30人ほど囲い、子供は百人前後いたとか・・・。

 まあ端的に言えば、あの街はほとんど巫女(役職)だらけだ。とりあえず巫女と言っとけば大体当たる。

 特に黒髪は勇者の特徴だ。遺伝子が濃いいほど、髪は黒く、目も黒くなる。


「それにしても・・・珍しいな。巫女は東国から出たらダメなんじゃなかったか?」


 あの街では勇者を神格化しており、神の血を宿す巫女は保護されている。

 別に勇者の子供だからって強いわけでも、特別な力を宿しているわけでもないんだけどな。


「実はこっそり抜けてきたの。エルのおかげでね!」

「ええ・・・大丈夫かよそれ・・・」

「どうしても回復職の大会に出たくてね」

「まぁ発破をかけたのは俺だけどな・・・それで?なんで俺を探してたんだ?」

「リーディアとエルに頼まれてね。ほら、私は鼻が利くし。明日の遠距離戦を見に来て欲しいんだって」

「ふむ・・・まあ別にいいけど、それだけか?」

「うん。それだけ~。私の大会はまだ続いてるから、終わったらまた会おうね!」

「おう。その時はゆっくり酒でも飲もうぜ」

「約束だからね!じゃぁねー」









 と言うわけで準決勝を見に来ているわけだ。


 今しがたエルと対戦相手の賢者風の男の試合が終わったとこだった。

 対戦時間は一分。賢者風の男の魔法を完封し、エルが攻撃するまでもなく降参した。


 途中から対戦相手が可哀想だった・・・。魔法発動に大声をあげていたのだが、魔法が発動した瞬間にエルが逆属性で打ち消すという。普通の人から見たら、まるで男が奇声を上げているだけにしか見えなかっただろう・・・。


 笑顔でこっちに手を振らないで・・・対戦相手の人にめっちゃ睨まれてるからね?俺が・・・。


 

「次が見ものだよな。ルリエ対リーディアだぞ」


 俺の右横に座るリュウコが興奮したように言う。


「普通に戦えばリーディア様が有利。でもルリエさんは頭がいいから・・・展開が読めない」


 となぜか俺の膝の上に座っているレイがそう言う。


「遠距離魔法戦ってつまんないと思ってたけど、この対戦は面白そうよね~」

 

 俺の左横に座るメリーがワクワクした様子でそう言う。


「あのー・・・なんで俺の所に集まってんの?レイとか今日会ったばっかじゃん。なんで膝の上に乗ってんの?」

「あっ出てきたわよ!リーディア様ー!頑張れー!ルリエさんも頑張れー!!」

「あの・・・」

「まぁこまけぇことは気にすんなよ!!試合に集中しようぜ!」

「はぁ・・・まあいいけど」



 





 ルリエとリーディアが向き合う。片方はエルフの森の姫、片方は元奴隷。

 しかし、カイの紡いだ奇妙な縁が、本来会うはずのない二人を引き寄せ、今やお互い一番信用を置ける人物となっていた。


 しかし・・・ルリエはどうしても許せないことがあって怒っていた。


「リーディア様・・・なぜ私が怒っているかわかりますか?」

「え?ルリエ怒ってるの?なんで?私なんかした?謝るから怒らないでよ」


 あたふたとするリーディア。ルリエと出会ってから、一度も彼女が怒っているところを見たことがないからだ。 


「私たちはおあずけを食らっているのに。リーディア様だけが気持ちよくなっちゃって・・・ずるいです!!」

「ええ!?」

「せっかくカイ様がヤる気だったのに・・・許せません!」

「それはあなた達が下の方に気を取られてたからでしょ!私は悪くない!!」

「結果はリーディア様だけ気持ちよくなったことは変わりません!・・・お仕置きを開始します」

「ルリエ。私に勝てると思って?返り討ちよ!」


「アクアバレッド!」「フレアウォール!」


 ルリエが水で出来た弾丸を大量に飛ばす。それに応じて、リーディアは炎の壁でそれを防ぐ。

 魔法戦は、どれほど魔法を早く展開できるかにかかっている。敵の攻撃を逆属性で打ち消しつつ、攻撃する。またそれを逆属性で防ぎつつ攻撃する。これの繰り返しだ。

 

「ファイヤーアロー!」「アクアウォール!」


 リーディアが炎でできた矢を放ち、ルリエは水で出来た壁でそれを防ぐ。

 お互いが得意な水と炎で魔法を打ち合う。


「やるじゃないルリエ!ここまで魔力操作が上達してるとは・・・フレアストーム!」

「誰の代わりに冒険者まがいの事をしてきたと思ってるんですか・・・アクアストーム!」


 炎と風の複合魔法のフレアストームと、水と風の複合魔法のアクアストームがぶつかり合い、水蒸気を出しつつ消える。魔法の威力、発動速度はお互い互角。


 しかし・・・


「このままだと私の勝ちよルリエ!フレアバースト!」

「わかってます!アクアバースト!」


 大きな炎の玉と、大きな水の玉がぶつかり合い、水蒸気を吐き出して消える。

 持久戦は確実にリーディアが勝つ。なぜなら、持っている魔力の総量は、リーディアが圧倒的に多いからだ。ルリエはリーディアの三分の一ほどの魔力保有量しかない。

 

 元魔王討伐軍の生き残りと言うのは、伊達ではないのだ。


「ほらほら。私にお仕置きをするんでしょ!フレアレイン!」

「調子に乗れるのも今の内です。アクアレイン!」


 上空で火の雨が降る。しかし、同じく降っている大粒の雨が、その火を水蒸気をまき散らしながら消していく。


「視界が悪いわね・・・」


 いつの間にかリング上は霧に包まれていた。すでにお互いの姿は見えず、リーディアは一旦魔法を打つのをやめる。


「霧を吹き飛ばしますか・・・ウィンドウストーム」


 ゴゥっと竜巻が起こり、キリが晴れて―――いかない。


「あれ?・・・これがルリエの秘策かしら?でも残念ね、私の魔眼は魔力を通せばすべてを見通すわ」


 リーディアは魔眼を起動する。この目は魔力を通すことで、相手の魔力を感知し、居場所を見ることが出来る。

 障害物があろうが関係はない。まさにすべてを見通せる目。魔力消費が多少多いのが玉に瑕だが・・・。

 しかし・・・魔眼で見た光景は異様そのもので・・・。


「これは・・!?まずい!」

「遅いですね。凍れ」


 ピシッと顔が凍り、リーディアの口が動かなくなる。


「最初から魔眼を起動されていたら負けてましたが・・・。消費魔力の多い魔眼を起動してしまうと、私との消耗戦で勝てるかどうかわからない。だから確実に勝てる様に魔眼を使用せず、大きな魔法を連発して、私の消費を誘った。それが私の策だとも気付かずに・・・


 私は最初から短期決戦でしたよ?相殺していると見せかけて、本当は少しだけ大きくなるように魔力を練って、水蒸気を残し、私の魔力を込めたまま漂わせていた。十二分に空気中に充満すれば私の勝ちです。まあおかげで、私の魔力はもうほぼ残ってなくて、全身を凍らせるほどの力はありませんが・・・



 お仕置きをする時間くらいはありますね。魔力残量から言って、30分程度でしょうか?

 あ・・・安心してくださいね?痛いことはしません。とってもとーっても気持ちいい事ですので。

 これでも私、娼婦時代は男性のお客様より、女性のお客様の方が多かったくらいですし?



 なので安心して気持ちよくなってくださいね?」


「んーー!んー!ン―――――――――――っ!!」







 30分後、霧が張れると、涙を流しながらぐったりとしたリーディアと、なぜかとてもつやつやしているルリエが現れる。

 霧のせいか、二人はびちょびちょに濡れており、舞台上も水たまりができていた。





「で?なんも見えなかったんだが、どっちの勝ちなんだこれ?」


 カイの疑問の声が、妙に静かな闘技場に空しく響いた。








 因みに意識を取り戻したリーディアが敗北を認め、無事ルリエが決勝に進出した。

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