俺が戦闘狂になった訳
決勝戦が終わり、控室で一息つく。
「あのーメルティーさん?そろそろ離してくれると・・・」
俺の首にずっと抱き着いたままのメリー。いわゆるお姫さま抱っこをして、控室に入り、椅子に座り手を離したが、メリーは首に抱き着いたまま、俺の太ももに座っている。
「そんな余所余所しい。メリーとお呼び下さい」
「それじゃあメリー。そろそろ離すんだ」
「嫌です。このままベットに行くまで離すつもりはありません」
うへぇ・・・汗をかいたから水浴びがしたいのに・・・。あんなに汗をかいたのに、メリーからは甘い香りがするし・・・。
どうしようかと悩んでいると、バンッ!と大きな音を立て、扉が開く。
「その手を離して下さい・・・メルティー様」
と鬼の形相で現れるエル。若干髪の毛が浮き上がっているのは湧きだす魔力の影響だと思いたい。
・・・殺意じゃないよな?
「あれ?エルじゃない。いいでしょ?エルは数年もカイ様を独り占めしたんですから」
「だめです。カイ様は既に私の愛しのダーリンなのです。浮気はだめです」
「けち臭いこと言わないの」
「二人は知り合いなのか?」
「ええまぁ・・・リーディア様にいろいろ連れ回されていたので・・・メイ様の所にもよく連れて行っていただいておりました」
「エルったら可愛いのよ。基本人見知りなの。ルリエ様の陰に隠れて少しだけ顔を出して様子をうかがうエル・・・目茶目茶可愛かったなぁ・・・」
へぇ~。俺は凛としたエルしか知らないから少し新鮮だな。
「昔の話です。それよりいいんですかメルティー様?」
「ん?なにが?」
「メルティー様あんなに動き回って汗をかいて、めっちゃ汗臭いと思いますよ今」
「っ!?」
バッっとメリーが離れる。スンスンっと自分の体の匂いを嗅ぐ。
「確かに・・・すいませんカイ様。つい感極まって汗臭いまま抱き着いてしまって・・・幻滅しないでいただけると・・・」
「いやそんなこ――」
「カイ様は幻滅しておられますね。まったく。お優しいカイ様はそんなこと言えませんけどね」
「普通にいい香り――」
「とりあえず汗を流して、金輪際カイ様には半径5メートル以内に近づかないようにお願いします。汗臭いので」
「エル。ちょっと黙りなさい」
「はい・・・」
今にも泣きそうなメリーにそんなことで幻滅するわけないだろ?と言って頭を撫でる。
「そう言えば話は変わるのですが・・・カイ様はどうしてそんなにお強いのですか?」
「んー好きこそ物の上手なれってやつだな。要は好きな事は一生懸命になるし、試行錯誤もする。好きな事っていうのは自然と上達するもんだ」
「つまりカイ様は戦いが好きだから強くなったと?」
キョトンとするメリー。たったそれだけで?と言った顔だろうか。
「俺が召喚されて、旅に出たのは知ってるよな?」
「もちろんです!」「耳にタコができるほど子供のころ聞かされましたし」
「この世界の事を知らなきゃっと思ったんだよ。実は読書が好きでさ、昔から本を読むことが唯一の楽しみだった。
SF、恋愛、時代物、推理にファンタジー。あらゆるジャンルを読んだものさ。その場にいながら、全く違う世界に飛べる、そんな感覚が大好きだった。
それでさ、こんなふうに勇者として召喚させられる物語もあったんだよ」
「現実は小説より奇なりってやつですか」
「そうそう。そう言う物語にはさ、召喚した側が悪で、魔王側が善だったり、救う価値もない世界だったり、実は戦う必要がなかったりするんだよな」
「それを見極めるために旅に?」
「そうだったんだけど・・・。今まで平和な世界で生きてきた読書好きのひょろいガキが、文化の劣るこの世界で一人で旅なんかしたらどうなるかなんて、考えたらわかるもんなんだがな・・・。
町に着くたびに満身創痍で、いろんな人の善意に助けられながら、何とか旅を続けていた。
毎回くたくたで、疲れるんだけどさ、ワクワクの方が強くって、まさに俺が読み続けていた冒険譚そのものだった。俺は旅を続けていくうちに憧れたんだよ。
物語でいつも活躍する英雄に・・・。
それからは早かったな。冒険者ギルドに登録してさ、持っているだけで重くて大変なショートソードを何とか振り回して、スライムを倒すんだよ。腰を抜かしながらな。でもなんか達成感すごくてな。
それから、娯楽もないこの世界で、俺はひたすら戦闘って言うものに没頭した。ちょっとづつ倒せる敵が多くなって、たまに死にかけたりしながらな。
そして気付いた時には、俺に倒せない魔物はいなくなっていた。
ひょろひょろだった体は一回り大きくなり、剣も大きな魔物を倒すために、いつしかこんな大きな大剣になってしまっていた」
「無我夢中で・・・」
「強くなりたくてなった訳じゃない。楽しく戦っていたら、いつの間にか強くなっていた。それが正しい」
「だからカイ様は純粋なんですね。戦いに邪念がない。見るものを惹きつけてしまう。だからすぐに浮気に走る・・・・」
フッっとエルの目の色の光が消える。
「浮気って・・・俺からすれば皆子供みたいなもんなんだが・・・」
「なにを言ってるんですか、私はもう20歳。メルティー様も21さいです。子供も産めますし、いっぱしの大人です」
「そうは言われてもな・・・エルなんて生まれたての時から知ってるし・・・」
「むぅ・・・この戦闘馬鹿を振り向かせるにはどうすればいいんでしょうね・・・」
「とりあえず・・・風呂入って飯食いたい!と言うわけで」
目にもとまらぬ速度で控室から去る。
「ちょっと!」
「あっ!待ってくださいカイ様!!」
小さくたたんでイベントリに入れていた外套を取り出し、フードを深く被り、颯爽と街に飛び出した。
後は大会が終わるまで、一目のつかない様にしておこう。
昨日から予約していた古びた宿に向かう。今日はのんびり風呂に入り、うまいもんでも食って寝よう!
宿に入り、受付のおかみさんと挨拶をする。最近の宿は何処も公衆浴場がついている。
早速男湯に入り、体を洗い、お湯につかる。
「ふあぁぁぁぁ!!行き返る・・・!お風呂は命の洗濯だよなー!」
昼過ぎで誰もいない浴場だったからか、大きな声をあげてしまう。
「この声は・・・カイ様ですか!!」
「んあ?」
壁の向こう側・・・。女性側の浴場から声が聞こえる。
「私です!ルリエです!」
「ちょっ!いきなり何言ってるのよ・・・勇者がこんな安宿に泊まってるわけないじゃない・・・」
「私が聞き間違えるはずありません!」
「落ち着けよルリエ、リーディア。おーい。カイ!そこにいるのかー?」
聞き覚えのある声がする。懐かしい声だ。
「いるぞー。久しぶりだなー」
「マジでいるのかよ!」「!?」
「わぁ!これはきっと運命ですね!あとでお部屋にお伺いしますねー!」
「おーう」
お湯で体も頭もゆるゆるになっている俺は、特に何も考えずに返事する。
「あーなんだ・・・。もう大丈夫なのか?」
壁の向こう側から、誰かが気まずそうにそう言う。なんとなく彼女の言いたいことはわかる。
「もう40年ほど前の話だぞ?さすがにもう大丈夫だ。あとすまんかったな。逃げるように消えちまって・・・」
「気にしてねえよ!ただ・・・俺等を見てお前につらい思いはしてほしくなくてな・・・リディもそうだろ?」
「わわ・・・私は20年前には知ってたわよ?ただちょっと覚悟がなかったというか・・・恥ずかしかったというか・・・ってなんでもないいわよ!」
「ははは、なんか懐かしいなこの感じ」
「だな!ははは!それじゃあ後でな」
「おう。部屋で待ってるよ」
部屋に戻り、しばし本を読んでいると・・・ドアがノックされる。
「どうぞ」
そう言うと部屋のドアが開き、一目散に胸に飛び込んでくる。20年前あった時から容姿の変わらないルリエだ。
「ようやくお会い出来ましたねカイ様!お久しぶりです!」
「ああ。久しぶりだなルリエ。元気だったか?」
「はい!カイ様とリーディア様のおかげで、私は元気です!」
「そうか・・・ありがとうなリディ」
「ルリエは優秀よ?むしろ私の方がお礼を言いたい所ね」
扉の所にリディとリュウコが立っていた。40前の時と変わらず美しいままだった。
「ルリエ。いつまでも抱き着いてたらカイが話しにくいだろ?」
「も・・・もう少しこのまま・・・」
「ダメよルリエ!離れなさい!」
離すまいと力を入れていたルリエだが、リディに引っぺがさられる。
「あれ?リディは両目があるし、リュウコもなんだその腕?」
リディはもともとあった金色の目と、蒼い瞳のオッドアイになってるし、リュウコはもともとある右腕には赤い竜燐が生えているが、左手は真っ白い腕になっていた。
「お?これは魔法で作った義腕だ。片手じゃどうしても戦いにくくてな。神経も通ってるから、一応ちゃんと動くんだぜ?」
ぐっぐっと白い方の腕を握ったり開いたりする。
「私のも魔法で作った義眼ね。元の目より性能がいいくらいよ」
「へー・・・ってことはもしかしてお前らも?」
「もちろん出るぞ。またカイと旅できるとか楽しそうだしな!」
「死にかけた割に懲りないなー」
「あなたもでしょう・・・どうやったのか知らないけど、若返ってまで魔王討伐するなんて、よっぽど物好きじゃない」
「はははは!違いねぇ」
しばし懐かしいメンツと歓談した。結構な時間が過ぎ、そろそろ夕食の時間間近という事で解散する流れになったかと思うと、突如ルリエが爆弾を落とす。
「それでは今晩から夜伽に来ますね」
そう言いにっこり笑うルリエ。
「「は?」」
「はい?」
「?私はカイ様の奴隷ですし。夜伽も仕事の内ですし。何か問題でも?」
「ももも・・問題しかないわよ!突然何を言ってるのよ!」
「奴隷ってそう言うもんなのか?なんなら俺が面倒見てやってもいいぞカイ」
「あなたも何言ってるのよリュウコ!ここ小づくりなんてまだ早いわよ!」
「100歳にもなって何言ってんだよリディ。別に子供を作る為じゃなくても、性欲を満たすためにするだろ?」
「そそそそうかもしれなないけど!」
「初心ですね」「初心だな」
「んー・・・まあ実のことを言うとだな。ルリエを買いに言った理由ってさ、あの辺境の山奥で、一緒に暮らしてくれる嫁を買いに行ったんだよな」
「まぁまぁ!でしたら是非!喜んでカイ様の妻になりましょう。今夜は私とカイさまの初夜になりますね。ふふふ」
「まあ俺としてはルリエなら別にいいけど・・・俺は初めてだから・・・優しくしてくれるとありがたいんだが」
「っ!?まあまあまあ!可愛いですねカイ様!なんなら今からでも!!」
言うや否や、即座に服をぜんぶ脱ぎ捨てるルリエ。美しい芸術ともいえる裸体が目の前にさらされる。
奴隷商館で人気の娼婦だっただけある。
「カイ様に初めては差し上げられませんでしたが、殿方の喜ぶ技術は知っておりますので。さぁさぁべっとに横になってください。私に任せていただければ、カイ様を気持ちよくしますので・・・・」
「待て待て!何を勝手に二人で盛り上がってやがる。俺も混ぜろ!」
「ええええ!?急すぎない!?なんでいきなりそんな展開に!?しんみり少しシリアスに昔話に花を咲かせてたじゃない!?」
リュウコも来ている服を脱ぎだす。豊満な胸がぶるんと零れ落ちる。あれ?マジでいまからやんの?
「カイが立ち直って、尚且つ性欲旺盛な若い姿になってんだ。今しかねえだろ!」
「そそそそうなの!?じ・・じゃあわたしももも」
「待て待て落ち着けお前ら。初めてが4Pとか特殊すぎんだろ」
「いいじゃないですかカイ様――」
裸のルリエにベットに押し倒される。
「欲望のままに乱れましょう?」
三人の好きにさせたほうがいいか・・・と半ばあきらめていると、パリーンと窓からなにかが飛び込んでくる。
「させません…させませんよお母様!!」
「あらあら。エルも混ざりますか?」
乱入者はエルだった。あとからメリーも窓から入ってくるが、状況が呑み込めずに目を丸くする。
「カイ様の初めては私のものです!」
「えー。お母様に譲ってくれない?」
「だめです!!それは譲れません!」
軽い親子げんかに、そう言う空気ではなくなってしまい、ひとまず夕食でも食べに行こうかなーと考え――。
「ひとまず保留でさ、みんなで飯でも―――」
「んっ・・・」
テンパって、目がグルグルしているリディが俺の唇をふさぐ。
「んん!?」
「あむっ・・んちゅ・・・」
舌を入れられる。ディープキスって気持ちいいんだな・・・。
って違う違う!!
「ちょ・・!リディ!落ち着け!」
「「「あー――――――――――――!!!ずるい!!」」」
「くっ!」
ベットの上でぐるりと回転し、拘束を解くと、すぐさま窓から飛び出す。
「勘弁してくれ・・・また違う宿を探さないとな・・・」
彼女たちの好意は嬉しいが・・・修羅場は勘弁してほしい・・・。誰か一人を好きになればいいのだろうが・・・みんな好きだしなぁ・・・。
「まぁ・・・保留でいいや・・・なるようになるだろう」
祭りの真っ最中である王都で、空いてる宿を探すのは大変なのになぁ・・・。
ため息をつきつつ、しかしどこか満足げに、町を歩きだした。