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元勇者は安らかに眠りたかった  作者: てけと
闘技大会編
12/30

近接部門決勝戦

 控室にてストレッチを始める。相棒である大剣は、刃は落としてあるものの、しっかり手入れしてある。

 コンディションは上々。テンションは最高潮。人族で最強を決める戦いだ。上がらない訳がない。


 大歓声が、控室からでも聞こえる。係員が扉を開ける。


 

 さて・・・行こうか!!








『紳士淑女の皆様!これより始まりますは、世界最強の人を決める戦いです。近接魔法なしと言う縛りはありますが、逆に言えばそれこそ技巧の極致。ここに立ち会えたことを、私は感謝しております。

 それでは選手入場だ!!まずはこの方。

 二刀の刀を変幻自在に操り、その美しき剣はまさに芸術!彼女の舞うような剣技には、誰もが魅了されてしまうでしょう!今日はどんな美しい剣を魅せてくれるのでしょうか!!

 剣姫!メルティィィィー!アルバァァァトス!!!』


 割れる様な歓声と共に、メリーが姿を現す。

 凛とした目に、緊張などとは無縁かのように足取り軽く。舞台の上に立つ。



『続いて選手の入場だ!!ある意味一番有名で、そしてこの世界の救世主!

 歴史上、召喚されて1年で、ここまで戦える勇者がいただろうか!豪快な剣捌き、あの大きな剣を易々と振る腕力。まさに剛健!自らを剣の神と称するだけの事はある!!今日も相手を寄せ付けず、一刀両断してしまうのでしょうか!!

 剣豪!勇ウウウウ者ケンンンンンンンシン!!』


「剣の神なんか自称してねぇし、一刀両断もしてねえ・・・」


 文句を言いつつも、片手をあげ、歓声にこたえるケンシン。

 その顔には笑みを浮かべ、相手を見据える。


「ようやく相まみえましたね・・・一年前の屈辱、晴らさせていただきます!」

「よく一年でここまで強くなったな!おしゃべりはいらねぇ。剣で語りな」


 背中から大剣を抜き、正眼に構えるケンシン。

 両刀を腰から抜き、だらりと両腕を降ろし構えるメリー。


「二天一流・・・宮本武蔵かよ」

「その大きな剣、構え、まるで伝承で聞いた、かの勇者様・・・」


 先手はケンシンだった。正眼に構えた大剣を持ち上げ、一気に振り下ろす。

 メリーは左手に持った小刀の方で大剣を側面から弾き、右手に持った大刀をケンシンの喉に向かって突きを放つ。

 それを首をひねってよけるケンシン。

 ケンシンは大剣を振り下ろした勢いで、大剣を棒高跳びさながら、大剣を使って前方に飛ぶ。

 着地するや否や、メリーに肉薄する。

 右片手に大剣を持ち、左手を沿え、左手で右手を弾くようにし、剣を横薙ぎをする。

 突如ありえない速度で迫る剣を、背面飛びをするように飛んで躱すメリー。

 躱すだけでなく、右手に持った大刀をケンシンの首に向けて振るう。


「あぶねぇ!」


 ケンシンはその剣をスウェーして躱す。


 クルっと後転し、再び構えるメリー。その目は何処かに焦点を当てることはなく、ぼーっとケンシンの全体を見ているように見える。

 ケンシンは攻撃の手を緩めることなく、剣を振るう。ありえない速度で振るわれる大剣を、メリーは躱し、弾き、反撃する。

 お互い決定打に欠け、戦闘は膠着状態に移行する。

 数十分もの間、息も詰まる攻防が続く。


 お互い初期位置で向き合うと・・・。


「そろそろウォーミングアップも終わったか?小手調べは終わりだ。本気で行くぞ」

「・・・・」


 度々反撃され、ぎりぎり躱して、押されている様にに見えたケンシンは余裕綽々の顔で、メリーは汗を垂らし、息も若干乱れていた。


 ドンッ!っと大きな踏む込み音。踏み抜かれた石畳は砕け、ケンシンの姿が消える。


「くっ!」


 胴体に放たれた斬撃を、辛うじて二刀で防ぐメリー。しかしそのまま後ろに吹き飛ばされる。

 両足を踏ん張り、舞台から弾き飛ばされないように耐える。しかし、今しがた攻撃を放っていたケンシンの姿が見えない。


「上だぞー!」


 上を見上げると、上空に剣を振り下ろそうとしているケンシンを目視、即座に前方に転がり、剣を避ける。

 しかし、再びドンッという踏み込み音と共に姿を見失う。


「後ろだぞー」


 聞こえた声を反応し、即座にメリーは刀を後ろに向かって振るう。

 しかし腕だけで振るった刀は、ケンシンに弾かれ、手から離れて舞台外に飛んでいく。


「・・・殺せ・・・」


 メリーがそう呟く。


「いやいや!殺さねぇよ!負けを認めるか?」

「何で勝てない・・・頑張ったのに・・・この一年必死に・・・」


 グスッっと鼻をすする音が聞こえる。

 悔しさで涙の止まらない彼女の頭を撫でながら、ケンシン・・・いや、カイは言う。


「そりゃー儂は40年も鍛え続けて、さらに全盛期の体まで手に入れたんじゃ。まだ18そこらの子に負けるわけないじゃろ?」


 メリーにだけ聞こえる様にボソッとそう言う。

 メリーはハッとした顔で、カイの顔を見る。


「やっぱり・・・」


 カイに手を引っ張られ、立ち上がるや否や、即座にカイに抱き着くメリー。


「やっぱりカイ様だったのですね・・・。良かった・・・」



『おーっと!メルティーが降参!!勝負は決したあああああ!近接部門優勝はーーー!

 勇者!ケンシン!!!!

 そして戦いが終わった後に熱い抱擁だああああああああああああ!うらやまけしからんぞケンシン!!

 結婚式にはぜひ!司会進行を俺に任せろ!!!皆様!盛大な拍手を――――――なんだ君は!っあっちょっやめ――――――――』


 どことなく爆発音が聞こえる。そんな爆発を気にすることなく、ギュッとカイを抱きしめるメリー。もう決して離さないという意志と共に。

 苦笑いで空をあえぎ見るカイ。


「魔王倒したら、またひっそり隠居しようかな・・・」


 そう呟き、大歓声の中、離れないメリーを抱きかかえ、舞台を後にするのだった。


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