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元勇者は安らかに眠りたかった  作者: てけと
闘技大会編
10/30

近接戦闘大会予選

 半径200メートルほどの円形の闘技場。そこに直径100メートルほどの石畳がひかれている。

 そこに佇む数十名の人。各々武器を抜き、臨戦態勢。


 殺気でピリピリした空気の中に、一人緩い空気を醸し出した男がいた。


 大きな大剣を背負い、屈伸しつつ、その顔は緩み、笑みを浮かべていた。


『それではっ!魔法禁止の近接部門の予選を始める!ルールーは簡単。その舞台から落ちると失格。降参する際は素早く舞台から降りる事!大多数の回復職が控えている。思う存分己の力を示すがいい!予選を突破できるのは最後まで立っていた一人のみ!準備はいいか?・・・それではっ!始め!!』


 号令がかかり、怒号が会場を埋め尽くす。


 カァンカァン!と金属がぶつかり合う音。ある物は斧を振り回し、ある物は盾で敵を場外に飛ばす。

 怪我をしたり、場外に出たものは、即座に係員に引きづられ、回復魔法士の所に連れていかれる。



「弱い!弱すぎるぞお前らぁぁ!!」


 ロングソードを振り回し、迫ってくる男を一蹴する妙齢の男性。Aランク冒険者のラングと言う男だ。

 突き出される槍をギリギリで躱し、懐に入るや否や即座に斬り捨てる。


「この程度で魔王討伐など片腹痛いぞ!」


「なら俺の相手でもしてもらおうかな」


 かすかに笑みを浮かべた大剣を背負った男が話しかける。

 フードを深く被り、顔はよく見えない。しかし纏っている空気は歴戦のそれだった。


「ほう・・・なかなかやるようだな。獲物はそのデカい大剣か」

「おう!男はでっかく無粋なくらいがちょうどいい。だろ?」

「いや・・・俺はそうは思わんが」

「・・・そこは同意しとけよ・・・」


 大剣を正面に構えるフードの男。ロングソードを下段に構えるラング。双方少しの間睨み合う。

 

 最初に動いたのは大剣の男。即座に間合いを詰め、大きく振りかぶり、振り下ろす。

 半身ですれすれを避けようとした男は目を見開き、即座に横に飛ぶ。


 振り下ろされた大剣は石畳を砕き、その衝撃波で砕けた石畳が四方八方に飛ぶ。


「チッ・・・馬鹿力だけが自慢か」

「よく避けたじゃねえか。一撃で倒せなかったのは久々だ」

「抜かせっ!」


 ラングがフードの男の懐に飛び込む。あの大きな大剣のデメリットは超接近戦だと見抜いたからだ。

 腕と体を極限まで引き絞り、必殺の突きを鳩尾に放つ。


 しかしその剣は刺さらず、大剣を器用にクルっと回し、その突きを弾く。

 その隙を逃さず、即座にフードの男は膝蹴りをラングの鳩尾に放つ。


「ぐぁっ!」


 直撃を食らい、少し宙に浮いたラングを回し蹴りで飛ばし、即座にそれを追い、大剣を横になぐ。

 ガンッ!と大きな音を立て、ラングの体に大剣の側面が叩き込まれ、その勢いのまま、ラングは舞台の上から弾き飛ばされてしまった。


「くっそ・・・ツええ・・・最後のチャンスが予選落ちか・・・さすがに隠居すっかなぁ・・・」


 ラングは悔しそうに舞台の上を注視する。自分を運びにきた係員を下がらせ、観戦することにする。

 前回の討伐軍の時は若すぎた。今回は逆に年老い過ぎた。

 悔しかった。自分もこの世界の為に戦いたかった。その為に老いた体に鞭を打ち、ひたすら技術を磨いた。


「しっかし何者なんだあのフードの男は・・・底が見えん」


 大剣の男は苦も無くどんどん参加者を、舞台の上から叩きだしている。

 片手で軽々と振るわれる大きすぎる剣。しかしその動きは鈍重でなく軽やか。


 そうして間もなくして、彼以外の人はいなくなり、予選突破を果たした。

 ふぅ。と一息つくと、彼はフードをとる。


 それと同時になぜか安心してしまった。あぁ・・・この世界はもう大丈夫だなっと。


「あれが今回の勇者様かよ。強すぎんだろ・・・」


 ワアアアアアアアと上がる歓声に、勇者は片手をあげて応え、二カッと笑うのだった。












「あぁ~楽しかった」


 歓声を浴びつつ、舞台から降り、出口に向かう。出口には次の予選出場者が待っており、彼らから拍手を受ける。


 流石勇者様!とかやりますね!本選で是非一戦ご教授を!とかやんややんや言われる。

 しかし最後尾あたりで一人、俺の事をじっと睨んでいる人がいた。


 メリーだ。


「首を洗って待ってなさい。調子に乗れるのもあと数日よ」


 そう言われ、俺は気分をよくする。強くなったんだろうなー!


「おう!頑張れよ。先に本選で待たせてもらうぜ!」


 そう言ってメリーの頭をくしゃくしゃと撫でる。


「・・・っ!気やすく触らないでっ!」


 少し呆然として、すぐに手を払われる。なぜか顔が真っ赤になっている。


「悪い。癖なんだよ」


 そう言ってその場を後にする。

 



 次の予選を観戦するために、フードを深く被りなおし、観戦席に向かって歩き、適当な席に座る。


「お疲れ様ですカ・・・ケシン様」

「ケンシンだ。ってなんでここにエルが?」

「たまたまです。偶然です」

「そ・・・そうか。そこで倒れてるおじさんは?」


 エルの横に気絶して倒れている中年の男性がいた。まるでさっきまでここに座っていたかのようだが・・・。


「興奮しすぎて倒れたのでしょう。確かにあのようなカッコいい雄姿を見てしまっては、興奮して倒れてしまいますよね」


 そして倒れていたおじさんは、係員の方にそそくさと運ばれていった。

 自然と腕を絡め、頭を俺の方に預けるエル。


「あの~エルさん?」

「なんでしょうか。あ な た」

「この際俺がカイだと何でばれてるのかは問わないけど・・・エルも出場するのか?」

「もちろんです。一年カイ様と会えないのを我慢しました。もう一日たりとも我慢できません。その為なら有象無象を塵にするくらいやりしょう」

「塵にしたら駄目だからな!?ってことは総合戦闘の部門か?」


 エルはオールレンジで戦える。リーディアの弓術と魔法技術。リュウコの超近接の拳闘術。そして俺の剣術の全てを受け継いだ、いわば超エリート戦士だ。


 正直俺が本気で戦ってもいい勝負をするだろう。


「いえ、魔法有の遠距離戦闘戦にでます」

「ほう・・・意外だな」

「総合戦闘はレイちゃんに譲りました。どうしてもっていうので・・・リーディア様とお母様は嫌そうな顔をしていましたが・・・」

「レイちゃん?」

「リュウコ様の一番弟子で、現在龍人族で一・二を争う人ですよ」

「ほー!そりゃ強そうだな。戦闘を見るのが楽しみだな」

「浮気ですか?浮気ですね。レイちゃん・・・ごめんね・・・仲良くなったけど・・・カイ様を誘惑するメスは消さないといけないの・・・」


 ブワッと殺気が充満する。周りにいた人がまるで窒息しそうなほど顔を青くして息を止める。

 

「ストップストップ!・・・エルは可愛いな~俺にとってエルが一番かわいいよ」


 彼女を引き寄せ、ギュッと抱きしめる。すると荒々しかった殺気はスッと消える。


「えへへ~・・・カイ様の匂い・・・」


 舞台の修繕が終わったようで、予選第二組目の闘士たちが入場する。

 エルはいつの間にか俺の膝の上に座り、俺の背に手を回しぎゅっと抱き着いていた。


 寂しかったのかなぁ。。。なんだかんだ俺が父親の代わりの様なもんだったし・・・まあ爺だったけど・・・。 

 エルの好きにさせておこうと、臭いものに蓋をしつつ、開始された予選を見る。


 メリーはロングソードをやめ、二刀流の剣士になっていた。この世界にも勇者の知恵により刀を言う概念はある。

 それを打つ刀匠はかなり少ない。なにせ普通の武器を造るより、手間も素材もかかるからな・・・。

 

 メリーは危なげなく、敵の攻撃を弾き、躱し、切り刻む。どちらかと言うと速度に特化した剣士になっていた。二刀流を使いこなすだけの腕力と、理論がしっかりとしている。

 

 それに刀もかなりの業物だろう。今はかなり力を抜いているにもかかわらず、敵の武器をたまに切り飛ばしている。これは本選で当たるのが楽しみだな。それに・・・。


「まるで舞いだな。洗練された動作は美しいものだな」

「そんな・・・カイ様・・・私が美しいだなんて・・・」

「ああ~はいはい。エルは美しいし可愛いし、自慢の娘だよ」


 よしよしと頭を撫でる。


「娘?もう同い年くらいですよ?こ い び と ですよね?」

「え?」

「え?」


 はははは・・・エルは冗談がうまいなぁ~。もうお父さんと結婚する!とかいう年でもないだろうに・・・。


「失礼しました。間違えました」

「だよな!?あー焦った。危うくペド警察に連行されるところだったぜ」


 歳の差40はやばい。40歳のおじさんが生まれたての赤ん坊を愛するとか。さすがにダメでしょ。


「ふ う ふ でしたね!数年も毎日寝床を同じにした男女は既に夫婦ですよねー」

「あは・・・ははは・・・」


 俺が苦笑いをしている間に、無事メリーは予選を通過しているのであった。

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