表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元勇者は安らかに眠りたかった  作者: てけと
元勇者はもう一度勇者に戻る
1/30

元勇者は悔いなく眠りたかった

別の連載作品もありますが、何やら妄想がはかどってしまったので書いて投稿。

これで頭の中がすっきりすればいいんですけど・・・。

 のどかな山々。木々が生い茂り、小鳥がさえずる。人が通るような道もない。凶暴な獣たちが今日もどこかで弱肉強食をしている。

 人にとっては危険なこの山は、他の動植物にとっては楽園となっていた。


 しかしこの山々はとある人物の所有物であり、人が山に入らない理由の大きな一つであった。


 そんな人にとっては住みにくいこの山の奥に、一軒の家が建っていた。


「んん~・・・朝か・・・」


 カーテンの隙間から差す日の光で、目を覚ます男。

 皺だらけの手で目をこすり、ぐっと伸びをしてベットから降りる。


 寝間着を脱ぎ、普段着に着替えようとするが、歳のせいでどうもおぼつかない。


 この男こそ、この山々の所有者であり、この世界を救った元勇者。名を那海霧(なじり) (かい)。この世界ではカイと名乗っている。

 異世界からの来訪者で、魔王を討伐するために召喚された勇者であった。


 魔王が討伐されたのは今から40年前ほど。そして元勇者の年齢は現在64歳だ。


 しわがれた体に刻まれた数々の傷跡が、彼の魔王討伐がどれだけ厳しかったのかを物語っている。

 

「カイ様。おはようございます」

「おぉ。おはようエル」


 扉を開けて現れたのは、銀色の髪を後ろで束ねたメイド服を着たハーフエルフの少女だった。


「お着替え手伝いますね」 

「いつもすまんな」


 エルに手伝ってもらい、上着を羽織り、リビングに向かう。

 パンと野菜のスープが食卓に並んでいた。


「「いただきます」」


 そう言い手を合わせ、お互いに食事を始める。


「そろそろお肉の在庫がなくなりそうなので、私は少し狩りに行ってきますね」

「ふむ。気を付けるんじゃよ。わしは畑の世話でもしてようか」

「カイ様はおとなしくしていてください。もう歩くのもつらいでしょうし・・・」


 悲しそうな顔でエルがそう言う。


「はははっ・・はっゴホゴホ・・・わしはまだ元気じゃよ!」

「ダメです!今日はもうお休みに・・・」

「寝ていようが、動いてようが、死ぬときは死ぬもんじゃ。わしはもう十分生きた。こんな可愛い娘もいる。いつその時が来ても後悔なんかないわ」

「でも・・・」


 カイはエルの頭を撫でる。愛おしい娘を諭すように。


「あぁ・・・でも唯一心残りがあるのぉ。エルにパパかお爺ちゃんと呼ばれたかったのぉ」

「・・・嫌です。それを心残りにしぶとく生きてください!」

「はははっは!そうじゃの。ならば生きないとな」


 食事を終え、二人で外に出る。カイは杖を突き、エルは弓と短剣、ナイフを装備して。


「では行ってきます。お昼ごろには戻ると思います」

「あぁ」

「無理はしないでくださいね?魔物が現れたらすぐに魔道具を使って・・・」

「心配性じゃな~エルは。老いぼれていようが、この辺の魔物程度に後れは取らんよ・・・」

「もう若くないんですから、戦闘なんてしないでください!さっと行ってさっと帰ってきます」

 

 そう言うと走ってエルは山に入っていき、すぐに見えなくなってしまった。


「少し前まで小さな赤ん坊だったのに・・・時間が経つの早いのぉ・・・」


 カイはそう呟き、昔を懐かしむように、空を見上げた。


 


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ