昔ながらのヒロイン
鷹司茉莉紗は都内の名門高校に通う高校一年生である。
シミひとつない白く艶やかな肌、高級なガラス細工のような深くそして澄んだ瞳。
その大きな瞳をより魅力的にしている長いまつ毛と整った鼻筋。
自然なウェーブのかかった艶やかな髪は光沢を放っている。
すれ違う人が老若男女問わず思わず見とれてしまうような超絶美少女である。
一見、白人の血が混ざっているようにも見えるがれっきとした日本人である。
成績も優秀で試験においても、常に学年トップ10位に入る。
そして誰に対して礼儀正しく温厚で親切な性格である。
まあいってみれば・・・
非のうちどころのない美少女であって、
典型的で、ステレオタイプで
古典的で、昔ながらの
癖のないヒロインである。
一見そういう感じであっても、実は裏では全然違う性格を隠しているとか、
え?っと思わず目を疑うような変な趣味みたいのを持っていたりとか、
なんであいつ?って言うようなクラスで全くいけてない男子との恋愛に走ってしまうとか、
昨今、そういう落差を作って萌えを誘導するパターンも少なくないが、
しかし茉莉紗については、いまのところそういう事実はない。
もちろん女子の中でもその見た目の可愛らしさと性格の温厚さからか絶大な人気を誇っている。
すでにいくつかのファンクラブもできている。
クラスの女子に突然、抱き着かれたり、あちこち触られたり、盗撮されることは日常茶飯事だ。
ただそういった事への反応が薄いのだ。
もちろん、茉莉紗が、自分からいちゃいちゃしにくような事はない。
まるでお人形なのだ。
こんな茉莉紗だからさぞかし男性にモテるのだろうと思われがちなのだが。。
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「まりまりっ、一緒に駅まで帰りましょ」
クラスメイトの安藤薫は、いきなり茉莉紗の肩に腕を回してくる。
「はい、安藤さん。そういたします。」
「おーお、まりまり、いつもの通り従順でよろし、じゃあいこか」
安藤薫。
快活で、ものおじしない明るい性格の女の子だ。
茉莉紗ほどではないが、よく見れば整った顔立ちの美少女である。
運動が得意なせいか引き締まった体つきで、制服のスカートを短く上げて積極的に脚を出していくスタイルである。
当然、男子の中での人気は高い。
告白されることも断トツで多いのだ。
「まりまり、今日も男子から告白されちゃったわよ。木村くんに」
「安藤さん。それはおめでとうございます。木村さんとお付き合いされるのですか?」
「まさか!するわけないじゃん。おめでたくないわよ。そもそも私、告白するにハードル低い系女子なのよ。あと、今は、私、まりまり一筋だから」
「ありがとうございます。」
「ねぇ、まりまりは、男の子から告白されたりしてんの?」
「私ですか。告白はされたこともしたこともございません。」
「ぇっうそおおお」
そう反応しつつも、薫は少し考える。
「まあ、そうよねえ、まりまりの近くにはあんな素敵な人たちがいる事を知れば
並みの男なら、その時点で諦めちゃうわよね、敵前逃亡よねえ」
「そういうものなのですか?」
「そういうものなのよ、ところで、まりまり、こっち、こっち近道して行きましょう」
「安藤さん、そちらの道は、先日、女子生徒が危険な目にあったいう注意がございましたが。。。」
「大丈夫よ!まりまり、何かあったら私が守ってあげるから安心して」
「わかりました。安藤さん、お願いします」
そういって二人の女子高生は人通りの少ない裏道の中に入っていった。
しばらくすると、二人の前方に怪しげな人影があった。
季節は初夏であるのに黒いコートを羽織っている男、見るからに怪しい男がしゃがみこんでいたのだ。
(薫の心の中での独白)
・・・うわああ。まじでいたあ。あれ変質者だあああ・・・
・・・走って通りすぎるか、引き返すか・・・
・・・なんか変な汗出てきた・・・
・・・どうしよう、どうしよう・・・
「な、な、なんか変な人がいるわね、なんかね」
薫は必死で動揺を隠そうとしている。
「ご病気でしょうか?」
・・・ああ、まりまりはお嬢様だから、この状況が分かっていないんだわ・・
・・・ごめん、まりまり、きっとすごいトラウマになっちゃうかも・・・
・・・私が、なんとか、まりまりの目を塞いであげて・・・
その怪しげな男は、立ち上がって私たちの前に立ちふさがった。
そして・・・
想像していた通り・・・
ガバッ!!!
コートの前を開けたのだ!!!
もちろん中には何も着ていない!!!
まっぱである!
男性の大事な部分が丸見えなのである
「いやああああああああ!!!」
薫は絶叫して、顔に手を当て自分の目を塞ぐ。
・・・ごめん。無理だった。私、まりまりを助けることができない・・
衝撃のあまり立ちすくむ薫。
「あのう」
えっ?
茉莉紗のいつも声が聞こえる。
淡々としたおっとりしたしゃべり方。
「室内ならともかく、外でそのような姿なのは、どうなのでしょうか?」
この子、何言っての?
やっぱり超鈍感なの?
「それとすいませんが、私たちはそこを通っていきたいので道をあけて頂けませんか?」
男性は道をあけたようだった。
「ありがとうございます。では、安藤さん、行きましょうか」
2人の女子高生は裏道を出て、人通りの多い道に出た。
「ねえ、まりまり?平気なの?」
ようやく平常心を取り戻した薫は茉莉紗に問いかける。
「えっ、安藤さん、何がですか?」
茉莉紗はきょとんとした表情である。
二人は、駅で別れを告げて、それぞれの自宅に向かった。