第6話 最後
「うわあぁ──!」
俺の街コンボウリングが、あっけなく終わってしまった──
最終フレームで俺はスペアを取れなかった。一ミリも動くことなく残る右端の一本のピン。倒すの難しすぎるだろ、あそこのピン……
結局しずかさんとはハイタッチできなかった。両手を床についてうなだれる。佐々木さんが隣にかがんで声を掛けて来た。
「平、悲しいのはよくわかった。でも時間がない、立てるか」
「はい……」
返事をして何とか立ち上がった。佐々木さんは俺にだけ聞こえるくらいの小さな声で、
「しっかりしろ、最後のアピールチャンスだぞ」
と、言った。
「最後のアピールチャンス、ですか……?」
「そうだ、これからが勝負どころだ。あと少し時間があるからな」
佐々木さんに促されて周りに目を向けると、一ゲーム目が終っていないチームがパラパラいるのが見えた。二ゲーム目が始まるまで確かにもう少し時間がある。一ゲーム目はまだ終わってない……!
ハイタッチができなかったくらいで落ち込んでる場合か俺は!? て言うか、いつから俺はハイタッチ(邪念)で頭の中がいっぱいになってたんだ!?
「平、この街コンで、しずかちゃんの他に興味のある子はいないよな」
「あ、はい!」
迷いなく答えた俺に、佐々木さんは言った。
「俺はありさちゃんにしか興味がない!」
「え、はい!」
唐突な佐々木さんの宣言に何て返せばよかったのか。ありささんとボウリングしてる佐々木さん、楽しそうだったもんな。
「それでだ、今から俺はありさちゃんをボウリングデートに誘う。平も何か考えとけよ。さっきも言ったけど、最後のアピールチャンスだぞ」
「最後……あっ!」
佐々木さんの言う最後の意味がやっとわかった。何の根拠もなく俺は街コンが終わったあとも、またどこかでしずかさんと偶然再会できると、なぜかそう思っていた。でも偶然再会できなかったら──しずかさんと話せるのがこの街コンが最後だとしたら──今が最後だとしたら──
「佐々木さん、俺はどうしたら……?」
「それは自分で考えろ」
「ええっ!?」
「ほら行くぞ、早くしないと二ゲーム目が始まるからな、せーの」
「は、はい!」
掛け声とともに、後ろを振り返った佐々木さんと同じように、俺も後ろを振り返った。面と向かう形でありささんとしずかさんが立って俺たちを待っていた。
「ははは、変なところをお見せしてすみません」
佐々木さんがわざとらしく照れつつ切り出した。
「今日、ありさちゃんとしずかちゃんとボウリングできて本当に楽しかったです──」
そこまで言って佐々木さんは、ありささんに向き直った。佐々木さんとありささんの視線が合った。
「ありさちゃん、本当に良ければなんだけど、俺と今度ボウリングデートに行きませんか?」
「はい!」
「ありささん!?」
即答するありささんにびっくりするしずかさん──
「え、ほんとに!?」
大喜びの佐々木さん──
ここか!? 俺の番はここですか!? まだ心の準備が整っていないけども!
「し、しずかさん!」
チャンスを逃すまい、と名前を呼んだ。こっちを向いてくれた。
最後のアピールチャンス──しずかさんと話せるのがこれが最後だとしたら、しずかさんに俺の想いを伝えたい。
「俺、あの俺! 今日、またしずかさんに会えて、一緒にボウリングして最高に楽しかったです! 好きです、俺とまたボウリングしてください!」
しっかり言えた。気づいたら下げていた頭をばっと上げた。俺の目に映ったしずかさんの表情は、とても冷静なものだった。ここ、この表情は……!
「ご──」
フラれた、そう思ったとき──
「あ~~! あとにしよ! ね!? しずかちゃん、返事はもうちょっとあとにしよ!?」
ありささんが助けに入って来てくれたおかげで、しずかさんの返事がうやむやな感じに!
「あのっ! えっと! 俺も今すぐ返事をもらえるなんて思ってないです! 返事は後回しにしてもらっても、いや後回しにしてください!」
必死にありささんに続く。
「……」
しずかさんは少し考える素振りを見せた。そして、
「申し訳──」
万事休す、と諦めかけたとき──
「そうだ、しずかちゃん! 街コンボウリングの最後にね、メインイベントのカップリングがあるの! 返事はそのときでどうかな!?」
「……」
しずかさんは少し悩んで、
「はいはいわかりました、あとにします」
「うんうん、そうしよ」
必死に説得するありささんに、ため息まじりに了承した。
あ、危なかった、何とか首の皮一枚繋がった……
「ありさちゃん俺、カップリングでありさちゃんのこと選ぶから」
「ありがとう、私も佐々木さんを選ぶよ」
いやもう佐々木さんとありささんは付き合ってるだろこれ……!
『あーあー、司会の鈴木幸子です! すべてのレーンのゲームが終わりましたので二ゲーム目に参りたいと思います、男性の皆様は女性の皆様が待つお次のレーンの前への移動をお願いします』
司会の鈴木さんから参加者全員に、二ゲーム目への移行の指示が出された。
「ありがとうございました、それではまた」
「ありがとうございました!」
「またね~」
「ありがとうございます」
そんな感じで佐々木さんと俺は、ありささんとしずかさんと挨拶を交わして、一レーンをあとにした。
「佐々木さん!」
隣の隣のレーンへ向かう途中、俺はウキウキな佐々木さんに話し掛けた。向かう途中とか言ってもすぐそこなんだけども。ありささんとうまく行った佐々木さんに、おめでとうを言おうと思う。
「おめでとうごさいます! 佐々木さんとありささん、もうカップルにしか見えなかったです!」
「おう、ありがとな! 平も案外しずかちゃんといい感じだったから最後のカップリングが楽しみだな」
「へっ!?」
どこをどう見ていい感じに見えたんですか、詳しく教えてください!
と、聞きたかったけど聞く前に隣の隣のレーン前に到着。
『あーあー、男性の皆様の移動が終わったようですね、それでは一ゲーム目と同じように──
そんなこんなで二ゲーム目が始まった。




