第3話 イベント
五分後──
「俺、ここのラウンドテン来るの初めてです」
「ちょっと遠いもんなここ、俺は三回目ってとこか」
駐車場に車をとめて、佐々木さんと俺はラウンドテンに入店。初めて来たラウンドテンの店内にそわそわしながらエスカレーターで二階に上がると、何だか様子が違った。
エスカレーターを上がってすぐのところにド派手な立て看板があったのでタイトルを目で追う。えっと……
「まちこんぼうりんぐ? きみのはーとにすとらいく?」
声に出して読んでみたけども……サブタイトルどうなってるんだこれ? 違う違うサブタイトルとかどうでもいい、それより……!
「街コンボウリング!? それも開催日が今日!?」
びっくりして佐々木さんを見ると、どこか満足げな顔で俺を見ていた。そして俺の肩にポン、と手を置いた。
「そう言うことだから平、今日は街コンボウリング一緒に楽しもうな!」
「ちょっ! ちょっと待って下さい! ボウリングの前に付いてる街コンって何ですか?」
「街コンか、街コンは市が主催する健全な合コンだ」
「合コン!?」
佐々木さんが立て看板を見ながら言ったので俺も立て看板を見た。大きい字のタイトルとかに気を取られて気づかなかったけど、市が主催する健全な合コンって小さい字で書いてある。他にも二人一組で参加とかいろいろ説明が小さい字で書いてある。
いや合コンって、二人一組で参加って!?
「佐々木さん、合コンなんて俺聞いてないですよ! それに二人一組って何ですか?」
「んんー……そうだな、だいたい街コンは二人一組で募集してるからそういうもんなんだろうな」
「そういうもんなんですね」
「そうそう、それから今日の街コンボウリングは、男の二人一組と女の二人一組がペアになって、さらに男女でペアになって交互に投げるんだ、ちなみにハーフゲームな」
「……」
なるほど、何となくいろいろわかった、でも……
「佐々木さんすみません、俺、街コン、いや合コンは──」
「頼む平! この通り一緒に街コンに参加してくれないか」
手を合わせて頼んで来る佐々木さん。こう頼まれると、ムリですとは言えなかった。
佐々木さんと二人一組で参加する街コン(合コン)か……俺にやり遂げられるだろうか。学生時代、何回か誘われたけどびびって一回も合コンに参加できなかった俺に……! でも断れる状況でもないから、もう参加するしかない!
「……わかりました、参加します!」
「ありがとう、助かった!」
「佐々木さん、あの、すみません俺……合コン初めてで……足引っ張るかもしれないですけど、おおっ、おもっ、おもしろいこと一分に一回くらい言えるように頑張ります!」
「……いやもっと気楽な感じでいいからな」
「えっ!? 合コンって、おもしろいこと言って盛り上げ続けないと大変なことになる食事会って聞きましたけど、違うんですか……?」
「……まあ違わなくないか」
「……」
違わなくなかった、やっぱ合コンこえぇ……
「でもな平、今日の街コンは食事会じゃなくてボウリングがメインだから、メインって言うかほぼボウリングだからな」
「ほぼボウリング?」
「そうそう、ほぼボウリング、昼までに八ゲームもやるんだよ」
「八ゲームも!? ハーフゲームでも昼までほぼボウリングですね」
「な? ほぼボウリングだろ?」
確かにそんなにびびらなくていい気もして来た……!
「社会人になると出会いが少なくなるし、こういうのに参加しないと家と会社の往復で出会いなんて中々ないからな」
「それは俺も実感してます……」
社会人になって一ヶ月。出会いの場は職場くらいだけど職場の女性の皆さんは全員、彼氏がいるらしいです……
「参加したら良い出会いがあって、彼女ができるかもしれない、おまえも俺も」
彼女ができるかもしれない──俺にとってこの言葉は大きかった。街コンへのやる気が一気に跳ね上がった。
「……佐々木さん、俺、街コンボウリング頑張ります!」
「おっ、いい感じに気合い入ったな! よっし、受付に行くぞ!」
「はい!」
俺は社会人、学生時代とはひと味違うところ見せる! 佐々木さんと街コン(合コン)を完遂し、良い出会いを掴み取る! そして来年のゴールデンウィークは彼女と旅行へ!
受付に向かって歩き出した佐々木さんに意気揚々とついて行こうとしたとき、聞いたことがあるような、ないような声が聞こえて来て俺はふと足をとめた。
「ありささん、この看板はいったい何なんですか! 街コンボウリングってどう言うことですか? 説明して下さい!」
街コンと知らされずに連れて来られた人が俺以外にもいて驚く。
「それは、ええっと、しずかちゃんが一人暮らし始めて寂しいって言ってたからどうかなって……」
「寂しいとは確かに言いましたけど、街コンに来たいなんて言ってません」
「わかった一旦、街コンは置いとこう? ボウリングって楽しくない? ね? 一緒にボウリング楽しもう? 帰りにお昼ご飯奢るから~!」
「私、お昼ご飯くらいじゃつられません、帰ります」
めっちゃ怒ってる……
「そこを何とか、二人一組で参加なの~! あ、今度こそわかった! しずかちゃんが前に行きたいって言ってた焼き肉屋さんに行こう、もちろん私の奢り!」
「……え? あ、あの焼き肉屋さんに一緒に行ってくれるんですか?」
「うん、だから街コンボウリング一緒に参加しよう、ね?」
「……わかりました、約束忘れないで下さいね?」
「ありがと~しずかちゃん~!」
「ちょっ、ちょっと離して下さい、ありささん!」
や、焼き肉につられたー! 焼き肉好きなのって男だけじゃないんだな。いやそんなことより! しずかさんって俺があの歓迎会の日に告白した女性と同じ名前だよな、声も似てたような……まさかと思って後ろを振り返ると、ばっちり目があった。そして俺の感もばっちり的中した。見覚えどころかまだはっきり覚えていて忘れられない、あのとき告白した女性──しずかさんだった──
「……あ!」
と、声が出たものの何て声を掛けたらいいか全然わからない。やっぱかわいい。
「……あっ! あなた、あのときの不審者!?」
ふふ、ふ、不審者ー!?
「お、俺が不審者!? いやっ違います違います、俺は不審者ではないです──」
いや待て待て、俺は不審者ではないけど、あのときの不審者ではある。不審者としてだけど俺のこと覚えてくれてたのは嬉しい。だから──
「でも、あのときの不審者ではあります!」
「やっぱりそうだと思った!」
……あれ、これで良かったのか?
「あ、ほんとだ、あのときの新米サラリーマン君じゃん! 雰囲気だいぶ変わったね~! しずかちゃん、新米君ってよくわかったね」
しずかさんと一緒にいる女性──ありささんも俺に気づいた様子。俺ってそんなに新米サラリーマンっぽいのか。
「えっ!? えっと、何となくわかったって言うか、ちょっと覚えてただけです」
「そっか~新米君、前よりさっぱりして良い感じだよね?」
「……そうですね、前よりは良いんじゃないですか」
ツーブロック褒められました!
「ありがとうございます!」
「私、ありささんに同意しただけから」
「まあまあ、新米君も街コンボウリングに参加するんだ?」
ありささんに聞かれたので、すぐに答える。
「あ、はい! 会社の先輩と一緒に参加します、先輩は今受け付けに──」
言いながら、受付の方を見ると、佐々木さんがこっちに歩いて来ていた。
「おーい平、何やってんの?」
しずかさんとありささんに気づいた佐々木さんはぴたっと足をとめた。驚いたように見えたのは一瞬だった。
「その節はご迷惑をお掛けしました──」
さっとやって来るなり軽く頭を下げる佐々木さん。確かに最初に謝っておけばよかった、さすが佐々木さん……
「ウチの平が、また何かやらかしましたか?」
「ぜ~んぜん大丈夫です、何もやらかしてませんよ~、新米君、ええっと平君の教育係の方ですか?」
「まあそんなところです、申し遅れましたが佐々木と申します。お二人とも街コンに参加されるんですか?」
「そうです、そうです~」
「いえ、やっぱり私は参加しません」
「えっ!?」
ありささんと佐々木さんと俺の驚きの声が重なった。予想外の参加拒否。すぐに俺はしずかさんから向けられる冷たい視線に気づいた。忘れかけてたけど、不審者って思われてるんだった、俺……
「もう~そんなこと言う~~好きなお肉、好きなだけ頼んでいいから、特上でもいいから、ね? ね?」
「こ、今回だけですよ!」
「は~い、二人とも参加で~す!」
ピースサインと笑顔で何事もなかったように参加表明するありささん。焼き肉につられすぎて心配になるレベルです、しずかさん。
「はは、お二人とも参加するんですね、では後ほどよろしくお願いします~」
「は~い、新米君もよろしくね~」
佐々木さんはそこそこの営業スマイルで言葉を交わし、さっと踵を返した。俺も同じように踵を返した。すぐに、
「いやあ、びっくりしたな、偶然会うもんだな~」
「俺もマジでびっくりしました」
と、こそこそ話した。また会えるなんて思ってもみなかった。もしかして、この縁は運命の赤い糸的な縁だったりするのでは、なんて思うとちょっとテンション上がって来る。今は不審者と思われているけども。
「そうだ平、さっき急にいなくなっただろ」
「あ、すみません!」
「先に受付済ませとくぞ」
「はい!」
今度こそ佐々木さんについて受付に向かった。最後にちらっと振り返って見えたありささんと話すしずかさんの姿は最高にかわいかった。このとき、俺はこの街コンボウリングで最悪な印象(不審者)をどうにかすると誓った。




