第13話 本物
翌日──
「──ら」
「平!」
「は、はい!」
「ぼーっとして、大丈夫か?」
「大丈夫です!」
月曜の仕事を何とか終え、帰り支度を済ませた俺は、佐々木さんの仕事が終わるのを休憩所で待っていた。いろいろ考えごとをしていたら佐々木さんが休憩所に来ていたのすら気づかなかった。
「すまん、だいぶ待たせたな」
壁に掛かった時計を見ると七時半過ぎててびびる。知らない間にめっちゃ時間が経ってた。
「あ、いえ! 佐々木さん、もう飲みに行けるんですか?」
日曜日の件について居酒屋で飲みながら話すことになっている。
「それがまだなんだ、かなり遅くなりそうだから今日飲みに行くのはちょっとムリだわ」
「そうですか……」
「悪い、今から十分くらでいいなら話聞くから、しずかちゃんの誤解は解けなかったんだよな」
「はい──」
厚意に甘えて話を聞いてもらおう、佐々木さん忙しそうだから端的に話をまとめて、と──
「──俺がストーカーだって言う証拠があったんです」
「は? やっぱりストーカーは平だったのか?」
「いやっ違います違います! これを見てください!」
慌てて俺は握り締めていた五枚の手紙を佐々木さんに渡した。
「ああ、しずかちゃんに送りつけられた手紙だな」
一枚一枚、目を通す佐々木さん。たいら、と書かれた手紙をまじまじと見て言った。
「証拠って言うのはこれか……」
「そうです! でも俺、こんな手紙書いてないんです! それに!」
「それに?」
「俺の字はこんなに汚くないんです! 書道五段なんです!」
「そうだな、字だけはきれいだよな」
何かちょっと引っかかるけどもー!
「まあ字は汚く書こうと思えば汚く書けるし、平と書こうと思えば平じゃなくても書けるけどな──」
そこまで言って佐々木さんは眉間にしわを寄せた。
「それにしても困ったことになったな。実際に手紙を見ると、考えていたよりずっとしずかちゃんの状況が危なそうだ」
「どういうことですか?」
被せるように聞いた。
「手紙を読んだらわかるだろ、ストーカーがしずかちゃんに接触するのは時間の問題だ」
佐々木さんから手紙を受け取る。昨日今日と穴が開くくらい何度も読んだ手紙。
『──今度こそ声を掛けます』
ストーカーが書いた一文が頭をよぎった。
俺は本当にバカだ。どうしたらしずかさんに信じてもらえるかばかり考えて、大事なことを考えていなかった。目の前に本物のストーカーが現れたとき、しずかさんがどれだけ怖い思いをするのか──
「佐々木さん! 俺、今からしずかさんのところに行ってきます!」
急いで手紙をカバンにしまい、立ち上がる。
「おいおい行ってどうする気だ?」
「俺がしずかさんをストーカーから守ります!」
「守るって、危ないから警察に任せとけよ、ストーカーなんて何して来るかわからないぞ!」
「でも今日、しずかさんが帰り道でストーカーに襲われたら──俺、もう行きます!」
「いやちょっと待てっ!」
今まで聞いたことのない佐々木さんの大声に、足を止め振り返った。
「しずかちゃんの勤め先、知らないだろ」
「あっ……知らないです……」
どうしようもない……!
「はあ、ありさちゃんの話だと今日もしずかちゃんは仕事で遅くまで帰れないそうだし、警察に連絡してすぐ動いてくれるかもわからないしな……仕方ないか」
佐々木さんは独り言みたいに言って、携帯の操作を始めた。
「よし、送ったぞ」
数秒後、携帯にメッセージが届いた。メッセージにはしずかさんの勤め先とその住所が──急いで俺は道案内アプリの目的先に設定した。
「佐々木さん、ありがとうございます!」
「おう、気をつけろよ、それと自分もストーカーギリギリの行動をしてることを忘れるなよ」
「はい!」
佐々木さんに頭を下げ、急いで俺は休憩所を出た。
次回、最終話です!




