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第11話 書店

 二日後──


「三千六百円になります」


 昼過ぎ、俺は会社の最寄り駅近くの書店まで足を運んで、二冊の本を買った。資格の参考書と問題集を一冊ずつ。

 ゴールデンウィークに入る前日、仕事を教わっている先輩(後藤さん)に、そんなに暇なら資格の勉強でもしておけばと、取っておくと役に立つ資格を何個か教えてもらった。ゴールデンウィークも残り四日。そろそろ勉強しようと思い、重い腰を上げて家を出て来た。ちなみに昨日は家でオンラインゲームしたり、筋トレしたりして過ごした。


「お買い上げありがとうございました!」

「ありがとうございます」


 店員さんから買った本を受け取る。さすが五階立ての書店、品揃えが豊富だった。おかげでいい本が買えたと思う。

 ずっと奥まで立ち並ぶ本棚を横目に、俺は出口に向かって歩く。


「そうだ──」 


 いいこと思いついた、ついでにボウリングの本も見て行こう。ダブルデート(仮)でボウリングに行くかもしれないし、華麗にストライクを取れるようになっとこう。そう、佐々木さんみたいに!


 自動ドアの手前で、くるりと踵を返した。すると数メートル先に、


「え!?」

「あ!?」


 しずかさんがいた──いやまさか!? 見間違えたんじゃないかと、目をこすってからもう一度見た、やっぱりしずかさんだった。

 驚いてるところもかわいい。しずかさんもこの書店の紺色のビニール袋を抱えていると言うことは、本を買い終わって帰るところだろうか。なんてのんきに考えている場合ではなかった。


「あなた、私が行くところ行くところに……! も、もしかしてストーカー!?」

「ええ!?」

 

 スス、ス、ストーカー!? 俺が!?

 

「いやっ違います違います──」


 おお、落ち着け、俺は無実です!


「この書店に来たのはマジでたまたまです! 見てください、俺この資格の本を買い来ただけなんです!」

「……」


 買ったばかりの本をバーン、と取り出したものの効果はいまひとつだった……! ダメだ、もっとこう説得力のある話を──


 ──そうだ! 


「もしも、俺がストーカーだったら、隠れて後ろからしずかさんを見てます!」

「うわ……」

「ああー! もしもですよもしも! もしも俺がストーカーだったらですよ!」

「……」


 しずかさんは少し考えてから口を開いた。


「……確かに、あとをつけている相手の前を歩くストーカーなんていない気がして来ました」


 それを聞いてほっとする俺。しずかさんは申し訳なさそうに言った。


「本当にたまたまだったんですね。ごめんなさい」

「いえいえ気にしないでください! むしろ俺は誤解が解けて嬉しいです──」


 ふと周りを見たら、迷惑そうにこちらに顔を向ける店員さんやお客さんがちらほら見えた。しまった、騒ぎすぎた! その上、場所も悪い!

 

「と、とりあえず出ましょうか!」

「そ、そうですね」


 ウィーンと自動ドアを開け、二人並んで書店を出て、少し歩いたところで足を止めた。


「すみません、俺の声が大きくて……」

「いえ、もとはと言えば私が悪いので……」


 何となく気まずい……! いや、待て待て、このままごく自然な流れでしずかさんと一緒に駅まで歩いて行けるのでは!?


「あ、あの! 俺、これから駅に行くんですけど、しずかさんも駅に行きますか?」

「……はい、行きます」

「よかったら一緒に歩いて行きませんか?」

「嫌です」


「……」

「……」


「そこを何とかお願いします!」

「ムリです」


「……」

「……あ!」


 しずかさんは、思いついた! みたいな表情で俺に提案した。


「私が先に駅に向かうので、あなたは百数えてから来てください」

「ええ……」


 予想外です……! 


「ダメですか?」

「数えさせていただきます!」

 

 なし崩しに快諾してしまった。しずかさんの提案をムゲにできるわけがなかった。


「か、勘違いしないでくださいよ、あとで駅で落ち合うとかそう言うのじゃないですからね」

「それは何となくわかります!」

「じゃあ私、もう行きます」

「あ、はい! えーと、いち、にい、さん──」


 しずかさんはずんずん駅に向かって歩いて行く。


「じゅう、じゅういち、じゅうに、じゅうさん──」


 しずかさんが止まった、と思ったら振り返った。可愛かったので手を振ってみた。しずかさんはぷいっと前を向いてずんずん歩いて行く。


「あれ、どこまで数えた? えーと、確か、にじゅう、にじゅういち、にじゅうに、にじゅうさん──」


 百まで数えるってけっこう時間掛かるな。またしずかさんが振り返ったので手を振ってみた。またしずかさんはぷいっと前を向いてずんずん歩いて行く。今のしずかさんと俺を端から見たら、見る人によってはカップルに見えるかもしれないな(照)、なんて考えていると、


「にじゅ──」


 ドン、と後ろから肩にぶつかられた。よろけたけど何とか踏みとどまった。見ると、帽子を目深にかぶった男が駅に向かって足早に歩いて行った。


「何だったんだあのひと……ああ!」


 しずかさんが見えなくなってしまった……もう百数える意味あるのか、これ……


「にじゅう、にじゅういち──」


 ちゃんと百数えてから家に帰った。


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