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第10話 約束(仮)

 ラウンドテンを出て数十秒後──


 駐車場に停まった佐々木さんの愛車、白のBNWを見つけ、佐々木さんと俺は早歩きから駆け足になった。大慌てで車に乗り込む。と同時に佐々木さんはシートベルを締め、流れるような動きでエンジンをかけた。ぐんと発進した車は低いエンジン音とともに無事車道に出ることに成功した。


「いやびっくりしました……」


 車の窓から山道を眺めながら俺はほっとしていた。まさか佐々木さんと連絡先を交換するために数名女性が出待ちしてるなんて……急ぎの用があるんで、と言って切り抜けて来た。何か貴重な体験したな。


「ああ、驚いたな……」


 そう頷いてから、佐々木さんは謝った。


「昼飯、餃子の玉将で食べられなくなって申し訳ない」


 佐々木さんと俺はラウンドテンと同じ敷地内にある餃子の玉将で昼飯を食べてから帰る予定だった。


「いやいや! 俺は全然大丈夫です! もらったジュースもあるんで、しばらくは、はい!」

「悪いな、あ、ペットボトル置いとくやつ使っていいからな」

「ありがとうございます!」


 佐々木さんの許可をもらったので、俺は持っていたジュースを置く。帰りに受付でもらったジュースはちょうど腹持ちがよさそうなバナナスムージーだった。常温だから飲むのにちょっと勇気がいる。


「この山道を抜けたところにラーメン屋があるんだけど、昼飯そこでいいか?」

「はい、もちろんです!」


 餃子の玉将でラーメンを食べる気満々だったからラーメンは大歓迎。


「わかった、ラーメンで決まりな~」


 佐々木さんはそう言うと、スピーカーの電源を入れた。行きと同じように洋楽が流れ始めた。

 昼飯の話したら、やばいくらいお腹が減って来た。何とか気を紛らわせないと……仕方ない、バナナスムージー(常温)を飲むか。

 置いたばかりのペットボトルを取って、蓋を開けた。俺は腹を括って一口飲んだ。


 甘い……


 何だこの甘い飲み物は? ボウリングの後に飲むとあれだな。もう一口飲んでみる。


 やっぱ甘い……


 ちょっともう蓋を締めてと。



 しばらく経っても口が甘い……


 あまい……


 あま……


 あ……



「──は!?」


 あ、危なかった! 今マジで寝ることだった……! 


「どうした?」

「す、すみません、何でもないです!」


 家に帰るまでが街コンボウリング! 



 一時間後──


 車に乗り込み、バン、と扉を閉めた。


「ごちそうさまでした! この店、マジでおいしかったです!」 

「わかったわかった、さっきも聞いたぞ」


 俺は先輩が運転する車で寝ることなく、ラーメン屋にたどり着き、塩ラーメンにありついた。

 それも餃子とチャーハン付き──何か俺、佐々木さんに奢ってもらいすぎな気がして来た。街コンボウリングの参加費なんて、男性プライスで軽く大台に乗ってたよな。


「あの佐々木さん、今日俺奢ってもらってばかりですけど、本当に街コンボウリングの参加費、払わなくていいんですか?」

「おう、いいって言っただろ。ほぼ俺がむりやり一日、付き合わせたみたいなもんだし、気にすんな」

「あ、ありがとうございます!」


 ふ、太っ腹だ……! 


「おっ」


 佐々木さんの携帯がブルルと鳴った。

 メッセージを送って来た相手はありささんだ。佐々木さんの顔を見れば俺でもわかった。はあ……羨ましすぎる……


「平、ちょっとだけいい知らせがあるぞ」

「はい?」 

「ありさちゃんがしずかちゃんをダブルデートに誘ってくれるって」

「え!? それって……」

「そう言うことだ」

  

 ダ、ダブルデートに俺も参加できるってことですか……!? 


「まあ、しずかちゃんが来てくれたらだけどな。予定を組めたとしても、来週は俺が予定があるから、早くて再来週だ」

「俺はいつでも参加できます!」

「りょーかい、平はいつでもOKってありさちゃんに伝えておくからな」

「はい! ありがとうございます!」


 佐々木さんはメッセージを送ったあと、


「おう、帰るか~」


 そう言って車を発進させた。少しして車内に洋楽のバラードが流れ始めた。 



 三十分後ーー


「──ら」


「起きろ平、着いたぞ」

「はっ!? はい!? ここは!?」

「平家の前だぞ」


 普通に寝てた……! え、ちょっと待てください、平家の前って!? あ、ウチだ! 

 玄関からちょうど買い物に出掛ける感じの母さんが出て来た。ウチの前に停まる車に気づいて、フレンドリーに佐々木さんにお辞儀した。

 ……いやいやどう言うこと!? 佐々木さんと母さん、顔見知りっぽいな!? で、何で佐々木さんがウチの場所を!?


 車から降りた佐々木さんは母さんといつもお世話になっております的な会話を始めた。俺も慌ててバナナスムージーを片手に車から降りた。


「母さんちょっと待って、え? 佐々木さんと知り合い?」

「何寝ぼけたこと言ってるのよ、二週間くらい前だったかしら、酔いつぶれた紀頼を佐々木さんがタクシーでウチまで送って来てくれたじゃない、忘れたの?」


 と、呆れた顔で母さんに言われた。


「の、飲みつぶれた俺を、タクシーでウチまで……?」


 全然覚えていない……!


「そうよ、その調子だと佐々木さんに菓子折り持って行きなさいって言ったのも忘れてるわね」


 うっ……記憶が……二日酔いで寝てたとき確かに母さんがそんなこと言ってたような……


「そうだわ! 佐々木さん、ウチでお茶でもどうかしら?」 

「あ~いえいえ! お心遣いありがとうございます! 俺はそろそろ失礼させていただきます」

「あらそう? 今度来るときはぜひ上がって行ってくださいね」

「はい、ぜひよろしくお願いします。それでは失礼します」


 佐々木さんは笑顔で母さんに軽く会釈して車に乗り込み、ブルルン、と重低音を響かせた。ゆっくりと静かな住宅街に白のBNWのエンジン音は消えて行った。


「はあ、佐々木さんって私服姿でもイケメンなのね~」

「ですね~」

「紀頼、今日はもうすることないんでしょ、夕ご飯のお買い物に付き合いなさいよ」

「え、父さんは?」

「昼寝してるもの」


 結局、買い物に付き合うことになった。


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