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コミュ障JKが生く、ちょっとハードな異世界都市  作者: 汗茄子w8
第一章:ひねくれオリビア
7/11

債務

 

 ハリィ君とバーニー君は帰ってくるなり、帽子やポケットからパンやらベーコンやらハンカチやらを取り出して机の上に広げていく。


「おお! 今日はえらく気合入っとるな。ちょうどいい、お金の数え方も教えたところだし私達の商売も見てもらおうじゃないか」


 そして、ゴルドマンさんとハリィ君たちが互いに向かいあって座ると、すぐに真剣な顔つきになっていった。


「じゃあとりあえず食べ物から、パンは全部で半ペニーでいいね? ベーコンは3ペンス」

「おいおい、だいぶ量あるだろそのベーコン。6ペンスだね」

「そうだそうだ! 苦労したんだぞ」

「どうせ皆の晩飯になるというのに……。じゃあ5ペンスにしよう」

「仕方ないな、それでいいよ。さあ、ところでそのハンカチはどうだい。そいつはさる老紳士が落としていったものでね──」

「おおシルクか、いいな。 だが刺繍が入っとるだろ。名前入りは扱いづらいから──」


 男三人が口早に商談を進める。たまに口論のような値段の取り合いになるけど、それでもかなり手際が良かった。

 例えばハリィ君がパンを置くと同時にゴルドマンさんがお金をバーニー君に渡していく。洗練された流れるような動きなので殆どモノを投げているように見えるくらいだ。


「──とまあ、こういう商売をやっているわけだよ」


 ゴルドマンさんが麻袋に戦利品を詰めながら言う。ハリィ君の前にあった品物はもう無くなっていた。


 確かに、今の場面だけ切り取って見れば商売に見えなくもない。

 しかし薄々あやしいとは思ってたけど、この人たちは……。


「もしかして、泥棒……?」

「そう呼ばれる事が多いかな」


 ああやっぱり。良い人たちっぽいのにどうしてだろう。


「まあそんな顔するなよ。俺たちがやってるのは落とし物を拾ってるだけだ。物を失くして気付かないって事は、それは特に必要の無い物って事だ。その辺で施しを乞うている奴らだって、金持ちが余らせた物を貰っているんだからそう変わらないだろ」

「はっは! そんな口上どこで覚えたんだねハリィよ。まあ真理だろうがな。オリビア君も外へ出る時は大切な物には気をつけておくように。()()が泥棒されたなんて笑い話にもならないからね」


 え? ちょっと待って。私、泥棒にされちゃうの?


「あ、あの……私、泥棒はちょっと……不器用だし」

「訓練すればいい」


 短く言い放つハリィ君。何おかしな事を言っているんだというような澄んだ目で真っ直ぐこちらを見ていた。私が間違っているのだろうか。この世界では当たり前に認められてる行為なのだろうか。


「でも犯罪なのでは……」

「捕まればな」

「抵抗があるのは仕方がない、誰でも最初はそうだ。だけどねオリビア君、この宿だってタダじゃない。君は既に一晩泊まっているし、食べ物だって食べたろう?」


 どんどん追い詰められていく。もう選択肢は残されていないのだろうか。


「生きるために必要な事なんだ。オリビアが空腹で動けなくなっていたのを助けたのは取引前のりんごだぞ。本当に追い詰められれば、犯罪かどうかを気にしているうちに死ぬことになる。迷う事ってのはつまり、贅沢なんだ」


 あの時、私の頭の中では物を盗ってでも生き延びるという考えが浮かんでこなかった。それはまだ、選択肢が残されていたからだ。

 しかし、もし懐にお金の代わりになりそうな時計が無ければ、私が生きる為に取った行動は……。


 もしかしたら、もう今さら気にしても遅いのかもしれない。


「まあ絶対に盗みをしろとは言わん。私は宿代を払ってくれさえすればいいからな。それに本当の意味での落とし物でも買い取るよ、効率はすこぶる悪いがな。その他にも稼ぐ手段があるのならそれをすればいい。リアンのような仕事もある。君は綺麗だし体つきも──」

「やめなよお爺ちゃん、彼女はきっとおぼこだろう。シンディもそうだけど……もっと大切にすべきなんだ」


 畳み掛けるゴルドマンさんに対して、それまで黙っていたリアンさんが剣呑な口調で反論した。


 リアンさんも過激なお仕事をしているみたいだ。そして私の手に負える内容じゃないのも分かった。

 もう、私に残された選択肢は……。


「わかりました、やります……泥棒」

「はは! まあそう意気込むものでもない。じっくり訓練して、自信がついたら簡単な事からはじめるんだ。最初の一回さえこなせば仕事との向き合い方も分かってくるだろう」

「しかし泥棒呼びは格好良くないな。ピッカーと呼んでくれ」


 流石にもう泣きそうだった。わけのわからない世界に来て、気付けば雁字搦め(がんじがらめ)になっていて。優しい人たちも裏では悪いことをしていた。


 それでも。

 まだ泣くわけにはいかないのだ、元の世界に帰るまでは。

 いや。タダで帰るなんて事もしない。変態うさぎ男を見つけて股ぐらを蹴り上げてからだ。それくらいしないと気が済まない。

 よし、目標が出来た。

 私はまだ、頑張れる。


 とにかく、ここに長くいてはダメだ。盗みでもなんでも、お金を返したら早く出ていこう。


「よしよし。ステーキとはいかんが、今晩は戦利品のベーコン全部使って盛大な晩餐といこうじゃないか!」

「やったー! これもお姉ちゃんのおかげだね」


 この無垢な笑顔を見せているバーニー君も泥棒なのだ。もしかすると、悪戯か何かの延長で、そもそも悪気は無いのかもしれない。


「あれ、そういえばシンディは?」

「朝一緒に起きて、それから見てないよ」


 またあのお化粧をして外へ行ったんだろうか。のんびりしたシンディちゃんがリアンさんのような仕事をする場面はちょっと想像したくない。


「あら、言わなかったっけ。探偵のところに行ったわよ」

「ええ! 少年探偵団の仕事? なんで教えてくれなかったんだよ」

「あの人は羽振りもいいし人気だからねぇ。こっちにきた話だと一人分しか枠がなかったのよ」


 少年探偵団。なんとなく楽しそうな響きだ。


「それに二人には明日、オリビア君を連れていってほしかったからな」

「おお! いいよ、見せてあげよう。僕たちのコンビプレーをさ」


 泥棒の見学というところだろうか。気は進まないけれど、前に進むにはやるしかないんだね。



 それから夕飯になり、パンとベーコンと、訪問してきた山羊の頭をした商人から届いたジュースを頂くことになった。ゴルドマンさん曰く「利息は取らないから好きなだけ食べていい」との事。


「私、ジンジャービアね」

「僕はレモネードがいいな」

「ジンをレモネードで割ると美味ぞ。バーニーもやってみろ」

「み、水で」

「おいおい……。奢るからちょっとコップ貸してみろ」

「あー!」


 さらに債務が重くなるのも嫌なので水を頼むと、ハリィ君が私からコップを引ったくって別の飲み物を注ぎ始めた。


「ほら、殆どアルコール入ってないから大丈夫だと思うぞ」


 どん、と目の前に置かれたコップに、なみなみと注がれた淡いゴールドの液体が若干泡立ちながら光を反射して輝いている。リアンさんと同じ飲み物みたいだ。


 だいぶ喉が渇いているけど、昨日と同じ過ちは犯さないように……。

 そーっと口を付けた。


「ぺろ……ちび……」

「あはは! 犬か! 大丈夫だって」


 さっきからテンションの上がってるハリィ君は既に赤ら顔になっていた。

 ジンジャービアの味は、なんというか甘辛だ。


「ごくっ……くあっ」


 微炭酸で強めの生姜の風味が喉を刺激するので、ゆっくりと飲んだ方が美味しいやつだ。ジンジャーエールを炭酸少なめにして、生姜の風味を10倍くらいにしたようなパンチ力のある味だ。

 飲んだそばから身体がぽかぽかしてくる。


「うまいだろ? 遠慮せずどんどん飲むといい。物足りなくなったらジンもあるぞ」


 しょっぱいベーコンと甘辛のジンジャービアがよくあうので、かなりのご馳走に感じた。



 ………


 ……


 …



「それでさあ、バーニーのやつ。なんて言ったと思う? あ! 宇宙人! だぜ? 案の定、あの肉屋は宇宙人ってのが何なのか……ああ俺もよく分からんが……とにかく、初めて聞いた言葉だったみたいで、まるで意味をなしていないというか」


「ハリィだってひどいんだよ。盗った側から近くの人のポケットに突っ込んで騒ぎを起こした隙にありったけ持って走るんだもん。前もって言ってくれればいいのに僕だけ逃げ遅れて、とっさに思いついた言い訳がさ」


「なあ私の話も聞いておくれよ、私だっていつまでもこんな生活続けられるなんて思っちゃいないんだよ。 稼げるうちに稼いでね、なにか新しいことしようと思ってんのさ。シンディはかわいいだろ? あのふざけた化粧教えたのは私さ。 あれじゃお客はとれないね。とらなくていいのさ、私がまもってやるんだから」


 ゴルドマンさんが何処かへいなくなると、皆好き好きにお喋りを始めた。静かに話を聞く私は格好の的になるのか、皆饒舌に話してくれる。元々喋るよりは聞いてる方が楽だったので、特に苦ではなかった。

 やり方はどうであれ、みんな一日一日を必死に生きている。そんな人達を糾弾するような事は私には出来ない。


 ただ、私は新しい選択肢を手に入れる努力は惜しまない。どんな事があっても、この世界に屈する事はしないと決意を秘めるのだった。

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