徒花
地球の自転軸が傾いて居なければ、日本は年中温暖な気候だったのかも知れませんね。
四季の変遷を楽しむ事が出来なくなってしまうのは残念ですが……。
「……」
外が暗い。意識が覚醒したばかりの僕が理解できるのは、それくらいだった。
今、何時かな。
枕元に置いた時計を手探り掴んで、見た時計の針は、深夜の三時半を指していた。
妙な時間に起きてしまった僕は、時計を枕元に戻して、布団に寝転がったまま、窓の外を眺めた。
ベランダの手摺の上。ビルの奥に消える間際の月。綺麗な上弦の月が見えた。
しばらくの間、ずっと布団の上から眺めていた僕は、ゆっくり立ち上がって、窓を開けた。
サンダルに足を通して、ベランダの手摺に腕を掛ける。そして、消え行く月を眺めた。
今日は、窓辺に君はいない。この時間だから、仕方ないと思った。
深夜三時半に、自室のベランダとは言え、一人で夜の街に出ている背徳感。僕の気分が高まっていた。
どれくらいの時間が経った頃だろう。ふと、僕が使う通学路の端に、街灯に照らされて伸びた影が現れた。姿は、ビルに隠れて見ることは出来ないが、長く伸びた影は、徐々に全身を映す。
やがて、足元まで伸びた影の主が現れた時、僕は咄嗟に身を屈めた。
その影の主が、何故この時間に外を出歩いているのか。何をしていたのか。
寒い時期に白い薄着を着て、小さなショルダーバッグを肩に掛けて、深夜の三時半に夜の道を歩く君。何をしていたのか、今ならば聞ける。
でも、僕はベランダの手摺の影から、君が歩いている姿を眺めることしか出来なかった。
あまりに非日常的な君の行動を見て、知ってはいけない事実を知ってしまった気がしたんだ。この事実さえ忘れなければならないような、そんな気がしたんだ。
「……」
何をしているのか、聞くことなんて出来なかった。ここから、錆びた鉄筋を軋ませて階段を登って行く君を、こっそり眺めることしか出来なかった。
対比と言いますか、ギャップが好きなのです。麗しい女の子に伸びる影を想えば、白飯三杯は頂けます。
本作、まだ続きます。緩く続きます。
お付き合い下さい。




