よん
第二の人生二度目の賭けが始まった。勝算はかなりあるけれど、万が一失敗すれば奥州屋に打撃になるのは確実だ。けれど、成功すれば奥州屋は日の本の柱になる。気張っていこう。
ということで、散々実験農場を造りデータを取っていた十勝平野の痩せた火山灰の台地に子供含む五千人を送り込む。魚肥をすき込んでテンサイ、大豆、牧草、小麦の四輪作を行って牧草地では乳牛を飼い、テンサイの絞りかすと葉っぱは牛の餌に。大豆と小麦は採れたらほとんどを開拓民の食事にし。乳製品とテンサイ糖は売って開拓の資金にする。
で、これだけでは確実に食べる分が不足するので、ジャガイモ、大豆、ネギ又はホウレンソウの輪作も小規模で行う。こっちはもっぱら開拓民の食事だ。大豆が多く採れたなら売るけど。
基本的に、食事を自力でまかなわせつつ、乳製品とテンサイ糖で儲ける予定だ。この計画が上手く行けば、砂糖の値段が暴落することは琉球を実質支配している薩摩藩にも伝えてある。「構わん、やれ」と言ってくれたのは予想外だったなあ。
「無謀すぎる計画」と世間ではあざ笑われているらしいけれど、一回目のジャガイモの収穫で開拓民の心は掴めたらしく、視察に行くとみんな笑顔だ。奥州各藩が手を出した川沿いの肥沃な土地は早速氾濫を起こしてヤバげな状態になっていて、それを哀れんだ開拓民がジャガイモを分けられる程度には余裕がある。
奥州各藩が蝦夷に送り込んだ代官が蝦夷各地で悲鳴を上げる中、私はその助言をしに飛び回り、問題を解決していく。
忙しい日々を送っていると、函館に慶邦がやって来て呼び出しを食らった。
まさか蟹を食べたいとかじゃないよね?
「蟹はもちろん食うが、それよりもこれを読め」
えーっと、なになに?
……状況は把握。藩を廃止して県にして、国の元に統治体制を一本化したいけど、それをすると蝦夷地の開拓の予算やノウハウ、人手を握っている奥州各藩が無くなって蝦夷地の開拓事業に影響が出る、と。
「しかり。何か案は無いか?」
簡単に言うねえ……。簡単なのは、新政府に人手を移して継続することだけど、それだと予算足りる?
「無理だ」
デスヨネー。なら、藩の専売品とかあるでしょ? それを国営企業化して、その利益を充てる、とか?
「もう一声欲しいな」
むー。……気になったんだけど、『藩主やその重臣は領地を取り上げ、貴族にして国からお金を出す』って書いてあるけど、これって何で?
「そこまで明け透けには書いておらなんだ筈だが……。藩主や重臣というのは新政府の下では仕事が無くなるからな。だが、地元に影響力がある故無視出来ぬ」
なるほどねー。なら、藩主とかに土地の所有を認める代わりに給付金を減らす、とかは?
「それは廃藩置県の方針とは反発するが?」
まあね。一応貴族の階級だけは与えた方がいいかも? 名目上は、藩主が所有する土地はその藩主が経営する企業のものにするんだよ。
「……だが、企業ということは税を取らねばならぬ。そうすると生活が成り立たなくなる可能性が高い」
贅沢止めればどうにかなるよ。芋食え芋。
「…………」
ま、奥州屋と関係がある所は農林業で稼ぐノウハウは教えるから。
「……今の所碌な案もあらぬことゆえ、提案だけはしてみよう」
じゃ、教本作っておくねー。
「……はあ」
露骨にため息つくな。
何故かこの『藩主を起業家にしちゃえ計画』は通ってしまい、奥州屋やとばっちりを食らった幾つかの商会は振り回されることになるを