六
損耗の激しい朝鮮軍を後方に回し、日本軍は朝鮮と清の国境線であった鴨緑江を渡河。南山にて清軍と激突。流石に派遣されてきた清軍は精鋭で、塹壕を掘って睨みあう塹壕戦となった。
こうなると、忍耐力とどちらが物資を前線に多く配備出来るかが勝敗を左右する。『奥州グループ』は朝鮮が南北に建設中の鉄道に出資すると同時に、暇している清軍の捕虜を働かせることを提案。出資額の影響か、この提案はあっさり通り、朝鮮における鉄道の敷設は牛の歩みだが加速していく。
一方の日本国内では、健康な男性を戦争に取られた影響で労働力が不足していた。この状況を解決すべく、女性の雇用が促進され、そして女性を本格的に雇ったことの無い企業が多かったため、トラブルが多発した。
私は、政府から女性を雇用する際のマニュアル作りを任されたので作る。基本的に扱いは男性と同じでいいけど、生理とか妊娠出産に配慮して、子供を預けられる施設を作って。でセクハラしない、と……。このセクハラしない、ってのが一番難しいかもねえ。この時代ハラスメント祭りだし。あとは、男性でも育児休暇を取れるようにしたいけど、こっちは理解されるかなあ?
とりあえず、それだけすれば、後は大丈夫。日本が男尊女卑になったのは儒教やキリスト教の影響が大きいって前世の友人が言っていたし、実際農村や商会だと明治になる前から女性も結構働いているのよね。『奥州屋』時代に女性を男性と同等に扱う、ってしても抵抗が少なかったのはこのお陰だし。
他にも、労働環境を改善して労働者をすり潰すようなことはしないよう、データも添えた意見書も提出したり。
教育制度の改革も訴えた。現時点では、統一された教科書はあるものの、公的な『小学校』の数はまだまだ足りておらず、いわゆる私学の『寺子屋』が初等教育の中心だった。教育周りが史実より遅れている裏には、私の影響があると思う。『奥州屋』で、企業内で社員教育を行い、その社員の子供にも企業が教育をすることで早期から使える社員を育成する、という成功例を出した結果、それを真似する企業が多発。何だかんだ言ってお金の余裕の無い、出来れば産業に投資したい明治政府は、この動きに便乗することで教育にかかる費用を削減したのだ。
その結果、社員教育を行っていない企業の子供と行っている企業の子供の間に教育格差が発生している。これを改善しないと、徴兵制にしたところで、兵士の質に差が出るんじゃないか、とそれっぽい理由を付け、同時に前線から聞こえてきた、教育に関係するような声も添付。そうしたら政府は、この戦争後に、小学校を増やす約束と、教育の仕方を纏めたマニュアル作りを今から始める宣言をした。
……まあ、やらない善よりやる偽善よね。知り合いの企業含めて、新しく社員を雇う度教育を受けさせる労力が馬鹿になっていない、という声がかなり上がっていたから、とは公には言えない話だなあ。