五
インドシナ半島から清を攻めている、本来主戦線となるべきフランスがぼろ負けした、というニュースが流れてきた。この戦線の清軍の主力を担っているのは、士気の高い志願兵なので、そこにイギリスからの武器が加われば、フランスといえど容易には勝てないだろう、と日露が予測していたら案の定だった。
そして、満州を往くロシア軍から、嫌な報告が。
「焦土作戦かあ……」
撤退していく清軍を追いかけると、徹底的に略奪され困窮した村や街が広がっていたそうな。あまりに酷すぎる、と彼らに最低限の住居や食料、薬を用意しているものの、その影響でなかなか進軍出来ないようだ。それでも、何回か会戦を行って清軍を蹴散らしているみたいだけどね。……その度に捕虜が増えて大変らしい。
この食糧難を解決したのは、カナダだ。大量に食料を売ってくれ、更に赤十字社を結成して満州戦線に送ってきてくれた。お陰で、ロシア軍やイスラエル軍の食と医療はかなり改善された。
でもさ、そんなに大規模に送ってきていいの? カナダの宗主国のイギリスは清寄りの立場だよ?
『既に我々カナダはロシアや日本が無ければ成り立ちませんからね。心配してくれてありがとうございます』
ああなるほどね。経済的に無視出来ない、と。
でも、イギリスから何か言われたらどうするつもりなの?
『その時はイギリス連邦を抜けるだけです』
……え本気で? 軍事的に悪手でしょそれ。
『その時は助けてくれるでしょう?』
いや出来る範囲でなら助けるけどさ。東海岸はどうしようもないよ?
『大丈夫ですよ。モントリオールからバンクーバーまでの鉄道がそろそろ全線開通するので』
何それ初耳。さては隠蔽していたな?
『情報はあげましたので、代価を』
うわああくどいねえ。……そうだねえ、メープルシロップに投資したいんだけど、どう?
『……ま、それで手を打ちましょう』
また上から目線な。
『これでも国政に携わる者なので、面子というものがあるのですよ』
まあ、駐日大使だしねえ。そういうことにしとくかあ。
こうしてカナダの協力を得た連合軍は、ゆっくりと清へ侵攻していく。その代価として、『奥州グループ』はカナダへの影響力をさらに強めていくこととなった。