三
戦争で一番大切なのは何か?
兵士?
確かにそうだろう。兵士がいないと戦えない。
武器?
最もだ。武器が無いと敵を殺すのにものすごく苦労する。
国民の支持?
確かに、民主主義国民では必須だけど、それはあれば良い、程度だと思う。
私が思うに、戦争で一番大切なのは、『補給』、つまり物資の輸送だ。兵士がいても前線に送れなければ戦えない。武器があっても送られてこなければ素手だ。国民の支持があろうと、物資を前線に送れなければ兵は国民に見捨てられたと思うだろう。
特に近代戦では、武器弾薬の消耗が激しいこともあり、補給の重要性は増す。その量は膨大であり、飛行機やら燃料効率の良い車やらが未だ登場していない現在、それを満足に運べるのは鉄道と船だけだ。
……だけなんだけど、生憎と満州や朝鮮に鉄道は無い。では何で運ぶのかというと、馬や人で、だ。
馬については私達『奥州グループ』が北海道開拓のために研究し、育てておいたものの北海道の工業化が予想以上に進んだせいで使い道が無くなっていたものが大山牧場に山ほどいるので、それを朝鮮と日本に赤字ぎりぎりで売りつけた。
あと、ロシアからトナカイを大量に注文されたので、話を聞くと、どうやら雪で覆われているシベリアで馬代わりに使う、とのこと。砕氷船をフル稼働させてアラスカからウラジオストクに運び、納品する。
日本だけでは食料品が不足するので、東南アジア各地から食料品を買い付けて運び、船が全く足りないので『三菱商会』を始めとした知り合いの商会に声をかけて物資を運び。ウラジオストクと釜山は一大物資集積基地となった。それを前線まで運べるかは別の話だけれど。
私達がこうして安心して船を動かせたのは、日仏の連合艦隊が清の海軍を殲滅したからだけれど、同時にそれは後からやって来た米軍が被害を受けずに山東半島まで進出し、その油断から要塞砲と機雷で壊滅するのにも繫がったので良いとは言い切れない。
キレたアメリカが総力を上げて山東半島に上陸し、多大な犠牲を払いつつ占領地を拡大している。
ロシアは新疆を占領したものの、満州やモンゴルはあまり侵攻出来ていない。
日本と朝鮮軍は平壌を何とか解放した。
そんな1882(明治十五)年五月。厄介な情報が入ってきた。