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女商人は幕末から歴史を変える  作者: ネムノキ
女商人は変わった歴史に困惑する
23/29

 『奥州グループ』、特に『警備保障』の面々は現地の人との交流に重きを置いている。農林水産業という現地の人の協力が得られないと出来ない商売を扱う以上、これは当然のことだ。

 それは日本であれ、アラスカであれシベリアであれ、東南アジアであっても変わらない。もちろん、朝鮮もだ。

 朝鮮では、主に佐賀などの九州出身の人達が現地の警備に入っていた。『征韓論』をとなえていた地域の人達だけれど、現地入りすると、広がる荒野と荒れ果てた人心に涙し、仕事の外で現地の人達との交流を進めていた。

 それは、盗賊を討伐することであったり、薩摩芋の育て方を教えることであったり、武芸を教えることであったりと、各々が教えることが出来ることを、自主的に行っていた。

 私は、農場や山の整備、朝鮮政府との意見のすり合わせで忙しく、そんな彼らを横目で見るだけだった。


 そんな彼らは、清が朝鮮に侵攻してきた時、社員や現地の住民を逃がす時間を稼ぐために戦って死んだ。


 目を閉じる。

 武士の誇りを残せると喜んでいた。娘を売らずに済むと涙していた。朝鮮の子供に稽古を付け、筋が良いと褒めていた。薩摩芋を収穫して、一緒に食べた。メンタイの辛さに目を回していた。


 目を開く。

 朝鮮半島の北西部に整備していた農場は踏み荒らされ、折角育ってきていた山の木々は焼き払われた。お陰で大損害だ。


 だけれど。



 それ以上に、私の社員を、私の大切な社員を、殺した清を、許せなかった。



 視線を上げると、『奥州グループ』の経営陣が揃って、不安げに私を見ていた。私は息を吸い、話し始める。


「私は、誰もが飢えない世界を創りたかった」

「誰もが笑顔になれる世界を創りたかった」

「だから、それに向けて精一杯努力してきた」

「…………」

「きっと、この判断はその『夢』を壊すことになる」

「きっと、この判断は復讐の連鎖を産む」

「きっと、この判断に正義は無い」

「……だけれど、許せないんだ」

「社員を奪った清を」

「社員とその家族の未来を奪った清を」

「…………」

「君達は、反対してくれて構わない」

「怒ってくれて構わない」

「君達が反対するなら、私は、ここを去る」

「去って、賛同してくれる人を集めて清と戦う」

「…………」

「では、問おう」

「『奥州グループ』は全力を上げて清と戦うべきだ」

「そう思う人は挙手を」

「反対の人はそのまま」

「では、挙手!」


 ……誰も、手をあげなかった。


「そっか」

 それもそうだ。

「そうだよね」

 私の社員達は、馬鹿じゃない。自分達で考えて、最善の道を選べる人達だ。

 私は、知っていたじゃないか。


「あのー」

 うつむきそうになる中、『警備保障』の社長が手を挙げた。

「会頭の気持ちは分かりますわ」

「ワイだって、大事な社員を殺されて、正直腸が煮えくりかえっとる」

「けんど、彼らの判断は正しい」

「それに、清も後が無い以上こうするしか無かったのは分かる」

「……多分だけんど、誰も悪くないんでさ」

「清には清の正義があって、ロシアにはロシアの正義があって、そしてわてらにはわてらの正義がある」

「ただ、その向いとる方向が違うから、こうやってぶつかるんでさ」


 次いで、『農園』の社長が話し始めた。

「私は、会頭の『誰も飢えない世界を創りたい』ってのに憧れてます」

「今の『奥州グループ』はその芽なんだと思います」

「その芽を守るためには、連合軍に協力しないと無理な話なのは分かります」

「ても、それを全力ですると、清の人達を切り捨てることになります」

「だから反対です」


 『養殖』の社長は言う。

「『農園』のに賛成だ。我々が掲げる目標を、ここで捨てる訳にはいかん」


 『畜産』の社長は言う。

「個人的には、連合軍を助けつつ清の人々も助けられる手段を取りたいけどね」


 『漁業』の社長は首をかしげる。

「連合軍も清の人々も助ければいいじゃないか」


 『果実』の社長は名案を閃く。

「ほら! 『ナイチンゲール』だっけ? あんなのすればいいじゃん!」


 『工業』の社長はため息をつく。

「この戦争が終われば、どうあろうとも戦場になった地域の産業は衰退する。そこにグループを展開すれば、被害もマシになるだろうさ」


 わいのわいの、と経営陣は意見を飛ばし合う。私の理想を叶えるべく、意見をぶつけ合う。


 それが、どうしようもなく眩しかった。


「……会頭、我々の意見が出揃いました」

 『農園』の社長が代表して言った。

「我々は、全力で連合軍を支援するべきです」

「目指すは戦争の早期終結」

「同時に、敵味方関係無く傷病の治療をする団体を結成、派遣」

「そして、戦後荒れるであろう中華に進出して農場を造り、仕事と食事を提供します」

「我々は貴女の言うような恨みからではなく、理想を成すために動くべきです」


「……そっか」

 彼らは、最適解を出した。私なんかよりも、ずっと冷静に、ずっと正確に正解を導き出した。

「なら、その方針で行こうか」

 一抹の寂しさを感じつつ言うと、具体的にどうするかの話し合いが始まった。

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