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『寺子屋会議』では白熱した討論が行われ、憲法案が纏まった。
『二千年以上にわたる日本の歴史は、戦いの歴史でありました。海の向こうから攻めて来た人々と。国内の不満を持つ人と。公家と。武士と。仏教徒と。キリスト教徒と。飢餓と。疫病と。地震や津波などの天災と。
ですが、同時に我々日本国民はそれを乗り越え、手を取りあって共に歩んできました。
我々はそれを誇りに思い、またその伝統を後世に伝えるべく、ここに日本国憲法を提案します』
この前文からなる『奥州寺子屋憲法』は、天皇を国の象徴とすること。国民は天皇の前に平等に権利と義務を負うこと。主権は国民にあること。人権は保障するけど『公共の福祉』を優先とすること。立法、司法、行政を分離すること。国民は兵役、納税、教育を受ける義務を負うこと。などが書かれている。やだこの子達天才……!?
個人的に一番気に入っているのは、『立法、司法、行政は自分達の行ったこと、定めた条約や法律を国民に分かりやすく説明する義務を負う』の一文だろう。これが採用されれば、訳の分からない文章の法律に迷わされることがなくなる。
『奥州寺子屋憲法』を子供達と共に明治天皇に提出し、子供達を引き連れて京都見物を行っていると、政府から呼び出された。『警備保障』の面々に子供達を任せて政府に出向くと、何やら偉そうな人達がずらりと並んでいる部屋に通された。
「説明せよ」
で、『奥州寺子屋憲法』の解説をしたら良いの? どこから?
「何故天皇に主権を持たさぬ?」
えーっと、確か議事録が……。
うん、子供達いわく、『日本が異国との戦争に負けて占領されても、日本の文化や精神を後世に残せるようにするため』だそうな。
「負けるだと!?」
「腰抜けが!」
でも、もし仮に天皇主権で負けたらどうするよ? 負けた責任は天皇が取ることになるよ?
「ううむ……」
「しかし……」
それに、天皇が主権を持たないなら、日本が危うくなったとき、友好国に逃がして徹底抗戦することが出来る、だって。それに、二千年以上続く王室なんて、世界でも天皇家だけだからね。そこに、『象徴』として国民の心理的な柱という側面を与えれば、異国も簡単には天皇家に手出しを出来なくなる、って子供達は考えたみたいね。私としては、少し甘い気がするんだけど。
「……なるほど」
「子供ながら馬鹿に出来ぬ考えじゃ」
で、他にもあるんでしょ?
「うむ。この『公共の福祉』とは…………」
この日は終日政府要人からの質問に答えることになった。
奥州寺子屋憲法作るとき堅苦しい言い回し好きな子が割食ってそうだなあ、と妄想したり。