いち
笑いが止まらない、というのはこういうことを言うのだろうか。
何の因果か江戸の越後屋の番頭の娘に転生し、色々と商いに口を出していたら気味悪がられ、十歳目前に僅かな荷と共に放逐され。なけなし(?)のへそくりの十両を元手に『奥州屋』を立ち上げて陸奥湾でホタテの養殖を始め。ホタテの貝柱の干物を大阪の清と伝手のある商会に売りつけて予想以上の利益を上げると、弘前藩と盛岡藩のご用商会のひとつになった。
ホタテの干物をバンバン売り捌いて上げた利益で蝦夷に進出し、毛皮やサケを扱えるようになり、ついでにサケのふ化放流による資源の維持を教え、本題のイクラを作ってアラスカのゴールドラッシュに沸くロシア(金の情報を売ったのは私だ)に売るようになると、幕府のご用達になり。イクラを売った金でスナイドル銃をアメリカから買って幕府に売るようにもなった。
そうなると勢いは止まらず、仙台に本拠地を置く東北地方有数の商会として奥州屋は拡大を続けることなった。
カキの養殖にも成功したし、リンゴの果樹園やセイヨウミツバチの養蜂も軌道に乗ってきているし。それらを独占的に扱えているお陰でウハウハである。
止まらぬ笑いを止めたのは、未来知識であった。
「……あれこれ幕府側強化してない?」
つい最近も四斤山砲をアメリカから納品したのだけれど、「大砲高い!」とごねる幕府のお偉いさんに「花火応用してこんなの作れない?」と迫撃砲の概念伝えたし。
「うわあ……」
今更だけれど、やっちゃったよ。
「……ま、いっか」
考えても仕方ない。いっそ、幕府側を超強化して薩長土肥を踏み潰してもらおうか。ちまちま貯めたお金でロシアやアメリカから買った船も八隻になるし、意外といけそう? やらないけど。
ともかく、イギリスやフランスとも交易したいなあ。アメリカとロシアで満足していたらいけない。それだけじゃない。清と間を挟まずに交易もしたい。清との貿易で今お世話になっている商会は調子が悪いみたいだし、いっそ吸収してしまうか。
当座の方針を決め、私は頬を叩いて気合いを入れた。