0005 非日常へようこそ!
ジリリ、と安眠を妨害するヤツと格闘して目を覚ますレイ。そのまま二度寝には入らず、起き上がる。
「おはよう、ベリアル」
「うん。おはよう、レイ」
目の前にベリアルがいた。ずっと、ここに居たのだろうか? それだったら、何のために?
「あー。なんだ? 俺は学校に行ってくるから、大人しくしておけよ?」
「うん。なるべく、大人しくしてるね」
朝食はとらずに、そのまま着替えて学校へと向かうレイ。ベリアルが終始ニヤニヤしていたのは少し気になるが、さっさと歩いていく。
「あ、そうだ。レイ、何かあったらボクの名前を強く心の中で叫んでみて。そうしたら会話できるから」
「唐突だな。でも、まぁ、何かあったらやってみるさ。いってきます」
「いってらっしゃ~い」
久しぶりにいってらっしゃい、なんて言葉を聞いた、と思いつつも学校へと歩いていった。
学校までの道のりでは、ほとんど誰にも会わなかった。まぁ、この時間帯に悠長に歩いている生徒は遅刻のギリギリを攻めている生徒であろう。
※※※
チャイムがなる数十秒前に教室に入ったレイ。先生が咎めようにも、遅刻は今までで一度もしたことないので、咎めることもできない。ギリギリなだけで。
「おぅ、何時もにまして遅かったな。レイ」
「あぁ、ちょっと色々あってな」
隣に座って話しかけてきたのが、鏡 奏介。俺の数少ない友人の一人である。不思議なぐらいに席替えで近くになるので仲良くなった。
「なぁ、噂でなんだがな。最近、ここらで悪魔が出没するらしいぜ。ネットの預言者が言ってた」
「どうせ、噂だろ?」
そんなどうでも良いことを話ながら日常は続いていくはずであった。いつものような担任のホームルームを話を聞いて。変わらない授業を真面目に受けたり居眠りしたりして過ごした。とうとう後二時間、授業を受ければ帰れる。
そんな時に、非日常が訪れた。
『ピンポンパンポーン。全校生徒に連絡します。直ちに、体育館に集まってください。これは、訓練ではありません。繰り返します。直ちに、体育館に集まってください。これは、訓練では──』
唐突に鳴った放送は、これまた唐突に、そして不自然に途切れた。まるで、誰かが妨害してしまったかのように。
こんな事は初めてなので、教室中がザワザワと騒ぎだす。授業をしていた教師が、声を大きくし静止を呼び掛けているが興奮してしまっている生徒には届かない。
「やばい。やっぱり、予言は当たったんだ。悪魔が来たんだよ」
小声でそうソウスケが言う。俺だけに伝わるように小声で言ったのだろう。だが、この騒がしい空間でその言葉はかなりの影響力を持っていた。
別の意味で騒がしくなってしまった教室を教師が怒声で黙らせた。その時、誰かが外を見て悲鳴をあげた。窓側に座っていて、何気なく外を見たのだろう。
「悪魔がいるよ。しかも、沢山」
悲鳴をあげた生徒の言った言葉に、誰もが絶望する。出会えば死ぬ。それが、悪魔に対する常識であった。
「とりあえず、走って体育館に行くぞ。絶対に見つからないようにしろよ」
教師がドアを開けてそう言った。誰もが死にたくないからと、そのまま走っていく。何となく、体育館に行けば助かると思っていたのだ。
『ベリアル。悪魔が学校にやって来たんだけど』
『……っ! すぐ向かうよ』
早朝言われたことが今、役に立つと言う皮肉かと思いながらも人の波に飲まれるように自らも体育館へと移動していく。
だが、体育館も安全と言うわけではなさそうだ。レイ達のクラスが一番遅く来たようで、すぐに体育館の扉は閉められた。
「契約者の皆さんが来るのを待ちましょう。きっと、大丈夫です」
そんな校長の軽々しい言葉を言われて誰が信じるのだろうか。誰もが不安で一杯な顔をしながら、しきりに仲の良い友人と話していた。
「まずい! こっちに集まってきている!」
誰かがそんなことを叫んだ。それは、死の宣告でもある。いかに頑丈と言えども悪魔からすれば、鉄も木も変わらない。
「皆さん! 落ち着いてください。私がなんとかします」
「生徒会長? なんで……」
隣でソウスケが呟いている。壇上で校長からマイクを奪い取った生徒会長が叫んだ。
「ここだけは、私が守ってみせます! 契約者である私がっ。眷器顕現:聖霊之弓」
生徒会長、契約者だったのか、とあちこちでザワザワしている。そして、一人で扉を開けて悪魔と対峙する為に走っていった。
生徒会長の持っていた眷器は、純白の弓だった。簡素な作りではあるが、頑丈そうではある。それに、生徒会長は弓道部のキャプテンでもあるので弓の扱いには慣れているのだろう。
そんな生徒会長の姿に、多くの生徒が安心したように床に座って話始めた。もう大丈夫だと、これなら安心だと。
錯覚してしまった。
生徒会長だって、人である。恐怖心が無いわけでもない。それでも、皆を安心させるために外に出ていったのだ。
「ごめんな、鏡。俺も行くわ」
「ちょっ、待て。死にに行くのか?」
「俺さ、もう悪魔に殺される奴。見たくないんだよ。知ってるだろ?」
ゆっくりと扉に向かって歩いていく。それに、目の前に宿敵がいるのだ。復讐しない訳にはいかない。
ズドン、と鈍い音がして体育館の扉が開いた。音の主は生徒会長である。ぼろぼろになった生徒会長が恐らく投げ飛ばされて扉を破壊したのだろう。
「嘘だろ……」
それは、この場にいる全員の言葉を俺が代弁した形になった。安心は、いや慢心はあっけなく崩れ、恐怖が全員を支配した。




