0002 堕天使 ベリアル
「何、人のポテトを食べてる?」
「美味しそうだったからね」
そんな事を言いながら、少女が立った。身長は俺よりも頭一つ分小さい。灰色の髪に真っ赤な瞳がじっと、こちらを見ている。
「ボクはベリアルっ。堕天使さ」
痛い。ものすごく痛い。確かに、髪色や瞳、雰囲気は人のソレとは違うように感じる。だが、堕天使とは。厨二病というやつなのだろうか。
「ねぇ、今。ボクのことを痛い奴だと思った?」
「ソンナコトナイサ」
ゾクリとするほどの、冷たい視線。体温が急に下がったように感じた。それと同時に図星だったので、少し動揺してしまった。
「まぁ、そんな事は良いとして。ボクと契約してよ。そうすれば、君の願いは叶うさ。悪魔に復讐するんだろう?」
「ちょっと待て、確証が無いぞ。それに、悪魔を傷つけられるのは天使とその契約者だけだ」
これは常識である。だからこそ、逃げるしか出来ないのだ。一般人には。
「だから、さっきからいってるでしょ? 堕天使だって。堕天使だって一応は天使だよ?」
二ヘラ、と笑いながら近づいてくる。なんだか嫌な予感がする。ゆっくりと、ベリアルと距離を置いて後ろ向きに歩いていく。
ゴンっ、と鈍い音がして目の前からベリアルが消えた。いや、目の前にあるのが天井であるのでひっくり返ったのだろう。後頭部が痛い。
「ふふ、捕まえた~」
俺の胸の上に座り込んでベリアルが呟く。目が、完全に肉食獣が餌を見つけたような感じである。ゆっくりと、顔が近づいていく。悔しくも、少しだけドキドキしてしまった。
「ちょっ、待って、待って」
「待たないよ~、」
ベリアルの唇が俺の唇に触れた。何かが口を伝って流れていくのが分かる。ゆっくりと伝っていったよく分からない物が全身へと回っていくような気がした。ポカポカと体がしてくる。
「これで君は今からボクの契約者さ」
「なんてことするんだ。俺のファーストキスを……」
まさかの、この堕天使とか自称している見ず知らずの少女がファーストキスの相手だなんて。そんな風に思いながら、ベリアルを見上げた。
「なぁ、その灰色で鳥の翼みたいなのは、何?」
「やだなぁ、堕天使の特徴的な翼だよ。もしかして、天使を見たこと無い?」
驚いた。まさか本当に堕天使だったとは。これなら信用できる、かも知れない。天使ならテレビで少しだけ見たことがある。確かにこのような翼があった。尤も、灰色ではなく純白であったが。
「改めて自己紹介するよ。ボクはベリアル。堕天使さ。よろしくね、レイ!」
「俺は天津 澪。よろしくな、ベリアル」
ところで、このベリアルの下敷きになっている状況。客観的に見れば、押し倒されているように見えなくもない。それに、なぜキスされたのかの理由も聞いていない。
「俺のファーストキスを奪った理由を聞かせてもらっても? それと重いので退いていただいても?」
「まったく、キスぐらいで大袈裟なんだから。それに、重いなんて女の子に言っちゃダメだぞ」
少し睨みながらそう言った、よそよそと退いて立ち上がった。下から見ている感じになっている。そのまま、俺も体を起こした。
「キスをしたのはねぇ。したかったからだよ…………嘘、嘘。本気にしちゃった? もしかして? 本当はそれが、契約の儀式だからだよ。だから、ボクの翼が見えるようになっただろう?」
確かに、何か力が巡ったような感じがした。その為だったのか、と納得したような顔をして頷いた。
「ま、ぶっちゃけ。握手だけでも良かったんだけどねっ!」
ドヤ顔でそう言ってのけた。キスには意味がないらしい。青筋が浮かぶのが分かった。
「えっと。そんなに怒らないでよ。レイ。キミの願いは他には無いの? 悪魔への復讐以外は」
「ないな。それが今は唯一の願いだ」
きっぱりと断言した。それ以外はいらないと。そんなレイの姿に驚いたような顔をするベリアル。
「じゃぁ、願い事が叶うまでは保留、ね」
「あぁ、そうだな。そうしてくれると助かる」
「じゃぁ、悪魔を殺すための武器。眷器を出して見せるよ。ボクの眷器は三つ。堕天乃刄、聖癒乃杖、魔断乃壁だよ。特別に大公開だっ!」
「ちょっと待ってくれ、普通。眷器は一天使に一つじゃないのか?」
ニュースではそんなことをいっていた気がする。そんな疑問に笑いながら答えてくれた。
「んー、違うよ? 力の強い天使なら二つは操れるよ。まぁ、ボクよりも強い天使なんて見たこと無いけどね!」
そう言うことだと納得しておこう。突っ込んだら話がややこしくなりそうだ。




