0001 意味不明な電話
「ただいま」
返事なんて返ってこないのは分かっている。だって、両親はここには居ない。正確にはこの世界にはもう居ない。
今は一人暮らしをしている。一応、両親が遺してくれた莫大な遺産があるので生活には困っていない。それに、アルバイトもしているので金には困ることはなかった。
ただ一人なので、少し寂しく感じる。幼い頃からずっと一人きりであるから、慣れてきたと思っていた。それでもどこかで他人を求めている、気がした。
「さて、夕食でも食べるか」
独り言を呟く。誰かに反応して欲しい。そのような思いが少しだけあるのかもしれない。
今日は作るのが面倒だったので、ハンバーガーを買ってきてみた。久しく食べていなかったので、食べてみたくなったのだ。
デジタル時計は18:57を指していた。部活には入っていないし、今日はアルバイトのシフトも入っていない。なら、なぜこんなに遅い時間になってしまったのか。
それは、気紛れで遠回りして帰ったからだ。そのお陰でハンバーガーを買えたのだから結果的には良かったと言えば良かったのだろう。
「ん。テレビ、テレビっと」
座卓にハンバーガーとポテトを置き、包みを広げながらテレビのリモコンを足で手繰り寄せる。
電源の付いたテレビ。流れるニュースは、やはり昨日の悪魔のニュースだった。
悪魔。
それは人を快楽的に殺し、喰らう異次元の存在である。重火器などは一切、通用しない。通用したところで再生力も高いので心臓を潰さない限りは活動し続けるという。
『えー。昨日の未明、悪魔によって四人が亡くなりました。発生した悪魔は、対悪魔特務機関により討伐が確認されたようです。次のニュー──』
「また悪魔か。どれだけの人を殺せば気が済むんだろうな」
亡くなったと、そう言ってはいるものの正確には骨一つ残さずに、喰われたのだろう。
自然、タンスの上に乗っている家族写真に目が写った。全員が笑顔で笑っていた。これは、両親が死ぬ一週間前に撮った写真であった。
殺されたのだ。目の前で、残忍な方法で、蟻を殺すようにあっさりと、悪魔によって。
もちろん、俺も無傷で助かった訳ではない。背中にはその時の傷が痛々しく残っている。だが、両親のお陰で生き残ったのだ。
「どうして悪魔なんて生まれたんだっ。ずっと、目覚めなくて良かったのに」
なんだか、イライラしてきてハンバーガーを思いっきり口に詰め込んだ。だが、喉に詰まりそうになる。慌てて冷蔵庫へと走って、麦茶をコップへと注いで飲み干す。
麦茶と一緒に、胃に流れていくハンバーガーが流れていく感覚を感じながら、また机に戻る。そんな時だった。スマホに着信が入ったのは。
ディスプレイに映る番号は、身に覚えのない番号からの電話である。嫌、おかしい。そもそも、見たこともない電話番号である。日本からではないのは確かである。
「えぇいっ。毒食らうなら、なんちゃらだっ」
出てみることにしたようだ。内心は、心臓バックバクである。ヤのつく自由業の人とかなら、電話番号ごと変えようと思っていた。
「もしもし、天津 澪です」
『君の願いを一つ、叶えてあげよう。億万長者になりたい、だとか。頭が良くなりたい、だとか。何でもいいよ?』
唐突だった。出た瞬間に、そんなことを言われても困ってしまう。願い事? そんなものは無い。億万長者になんてなりたくないし、と言うよりもなっている。頭は別に悲しくなるほど悪いわけではない、と思いたい。
「ええっと。どちら様で?」
『あ、でも。もちろんボクの願いも一つ聞いてもらうけどね』
コイツ、話を聞いていねぇ。質問に答えてほしい。だが、電話から聞こえてくる声からして女性、というよりも少女のような高い声であった。
「あの、悪戯なら切りますよ? 悪戯じゃなくても切りますね」
『ちょぉっと、待って。やっと見つけたんだから。本当に願い事、ないの? 本当に、無欲な男子高校生なの?』
ちょっと待て、なぜ高校生だと分かった。おかしいだろう、声で予測? そんなことは無理であろう。いつも電話広告で、奥様はいらっしゃいますか? と聞かれる程であるのに。
レイは内心でそのように思っていた。
「無いな。それに、あってもお前には叶える事なんて出来ないね」
『確かに亡くなった両親を生き返らせる、なんて事はボクには出来ないね。そっか、ごめんね。もう、切るね』
「ちょっと、待って。どうして知っている。おかしいだろ」
どうして電話口の少女(仮)は俺の身の内を知っている。おかしすぎるだろう。両親のことはあまり、人には話していないと言うのに。
『ふふ、驚いたでしょ』
「あぁ、今月中最大の驚きだよ」
なんか軽口言いあっている。初対面、と言うより会ったこともないはずなのに。そんなに、誰それと直ぐに仲良くなれるほど、コミュニケーション能力は高くないと自負している。
「俺は悪魔に復讐をしたい」
『ボクは君に悪魔を殺し回ってほしい』
同時に話したのは、似たような無いようであった。
『えっ。おかしいな。ボクはてっきり君は、悪魔とはもう関わりたくないと思っていたのに』
「驚いてくれて何よりだ。だが、これが俺の今の願いだよ」
ぶつっ、と電話が切れてしまった。少し安心しながらスマホを座卓に置いた。
もう一度、喉が乾いたので麦茶を飲みに冷蔵庫へと向かった。コップへと注いでまた座卓へと戻って来て凍りついた。
「やぁ、さっきぶりだね。澪君!」
先程、電話をしていた声の主がポテトを食べていたのだから。
「うそん」




