0000 昔語 後編
「──ベリアルはこの世にはおらんのだよ」
「どうして? 天使様はとっても強かったんでしょ」
キョトンとして、無邪気に問いかけてくる結愛。それに少しだけ悲しそうな顔をする澪。
「ベリアルは、儂の命と引き換えに死んだのじゃよ。天魔大決戦の時に」
「そうなんだ……ごめんね。おじちゃん」
しょんぼりとして結愛がそう言った。根は優しい子だからこその反応であろう。
「でも、悪魔のいない世界を実現することができた。結愛も悪魔なんて見たくないじゃろう?」
「うん! あ、パパが呼んでる! 夜にまたお話聞きたいな」
トテテテ、と走りさっていった。きっと、結愛は今聞いた話を父親の俊にでも話すのだろう。
「なぁ、ベリアル。俺の唯一の願いは、あの時『ベリアル、お前と一緒に生きていたい』だったのに。どうして、叶えてくれなかった?」
いつもは無理矢理つけている、老人のような口調から一変して昔のようにもうこの世にいない相棒に問いかけた。
「それは、きっとね。レイの願いがボクにとって、唯一叶えられない願いだったからだよ。でもさ、ボクはどんな願いでも叶えるって言ったでしょ?」
空耳かもしれない。ベリアルの声が聴こえた気がした。懐かしく感じ、後ろを振り返ってみる。
そこには、ベリアルがいた。昔のように灰色の髪をした堕天使が。唯一、昔と違うのは透けていて後ろが見えてしまうことだけである。
ベリアルが床に置かれているスマホに指を向けた。すると、突如スマホに電話がかかってきた。
澪は目頭が熱くなるのを感じた。そして、電話番号には『非通知』ではなくしっかりと、こう登録してあった。
『ベリアル』と。
『君の願いを一つ、叶えてあげよう。億万長者になりたい、だとか。頭が良くなりたい、だとか。何でもいいよ?』
あぁ、昔と同じだ。一言一句変わらない。でも、今回はしっかりと願いを告げて叶えてもらおう。
「俺の願いはベリアル、お前とずっと一緒にいることだ」
『知ってるよ。だから、ボクはちゃんと帰ってきたよ』
透けているベリアルの顔が悪戯っぽく笑った。無邪気で屈託の無い笑顔であった。だからこそ、最後に言おう。
「おかえり、遅かったじゃん。ベリアル」
「ただいま、レイ」
「俺の願いは、堕天使には叶えられない」完




