徹也さんの現在とレギアスちゃんの過去
「でも勝てないってだけで、負けることは無いんじゃない?」
「いいか?沙梛はドラグハートのおっちゃんとやりあったことがないから分かんないかもしれんが、あれは、あの権限は凶悪すぎる。相手に攻撃を食らわせられない。しかも攻撃したらした分だけ返ってくる。だから攻撃しない。そしたら一方的に殴ってくる。だからガードする。けどガードしたその衝撃も反射して返ってくる。だから受け流す。けどドラグハートのおっちゃん…あんなに強いのに無駄に戦闘技術研いてっから受け流せない…」
「それが徹也さんにも?」
「そう、それが問題なんだよ!徹也、無駄に戦闘技術高くてさ!権限じゃなくて権能なのもいやらしい」
「もしかして、竜…徹也おじいちゃんの話してますか?」
と、ここで翠沙お姉ちゃんが話に加わって来ました。翠沙お姉ちゃんはパパの話から察するに、徹也さんと長い付き合いのようです。
「徹也がどれだけ規格外かって話」
「あー、徹也おじいちゃんは…でも、あんなに規格外になったのってこの世界に来て竜也じゃなくて徹也になってからなんですよ?前の世界じゃ、あそこまで規格外じゃなかったです。まぁ、私たちからすれば規格外だったのですが、それこそ、デシングさんの脱け殻?にも勝てないくらいには」
「え、じゃあなに?あそこまで規格外になったのって、やっぱ俺が余計なこと言っちゃったから?でもあれは誰も予測できないでしょうよ。徹也を育てた世界の俺の記憶をインプットしたときさ。あれ?竜也って名前に改名したん?徹也って名付けたはずだけどって言った瞬間急に発光したん。ありゃ予想できんでしょ」
「あー、それはおじいちゃんも苦笑いしてましたよ。まさか聞き間違いで"てつや"を"たつや"だと思い込んで、しかも何回聞いてもそうなるように脳内変換してたとはと。自分が竜だからっていう理由もあって疑問すら浮かばなかったって。本当の名前じゃなかったから寿命も縮んでて、しかも権限も上手く使えてなかったとかで」
「そのせいで溜まった鬱憤晴らすように爆発的に強化されたってわけなんだよなぁ…はぁ…」
ずるずるとお茶を飲むパパと翠沙お姉ちゃん。
「で?いま徹也なにしてるんだっけ?」
「私達と一緒です」
「瑠璃也の妹を救うってやつか?」
「はい。徹也おじいちゃんにはいま、緋音ちゃんの場所を探してもらってます」
「ごめんな…一度会ってれば俺が探しだせたんだけど」
「い、いえ!こうして世界を移してもらっただけでも!」
「まぁ、それにも利があったからなんだけどな」
「それでも、です」
と、徹也おじいちゃんの話から逸れ始めたので香奈はここで離れました。知りたかったのは徹也おじいちゃんのことでしたので、込み入った話になると聞いてよかったのかびみょーな感じになるのでやめておきます。
ちなみに翠沙お姉ちゃん達の地球は香奈の素体の1つになってます。アルヴテリアの月だけでは香奈の力を受け止め切れなくなったため、外部から他の星を引っ張ってきて香奈の力を安定させたのです。
香奈はルーシャとレギアスちゃんのとこへと戻ります。そこで、先程聞いた話を共有します。
「黒藤徹也さん…瑠璃也さんと翠沙さんのおじいさんなのだから、あの強さには納得ね」
「何億年何億回繰り返した世界か。それほどの時間を戦い続けなければ越えられない壁があると」
ルーシャが納得いったように、レギアスちゃんが挑戦的に言います。
「そういえばレギアスちゃんは転生者なわけだけど、これまでどんな世界を生きてきたの?」
「気になるか?」
「うん。ジュースでも飲みながら聞かせてよ」
「よかろう。おい!ワイン貰ってくぞ!」
と適当なワインボトルを2本引き寄せたレギアスちゃんは虚空からお酒のおつまみを引き出して切り株の椅子に座ります。ワインボトルの栓を引っこ抜いたレギアスちゃんはぐいっと一口呷って、遠い過去を見つめる目で語りだしました。
「さて…何から話すか」
「香奈、ルンルンの話聞きたいな」
「――っ!!貴様、どこでその名を!」
レギアスちゃんが驚きに満ちた顔で香奈を見ます。しかし急に毒気が抜かれたのか、はあ、と一息ついて座り直し、またぐいとワインボトルを呷り、語りだしました。
「あいつと出会ったのは…そうだな。ちょうど、こんな森の中だった。我がまだ自分の運命を悟る前だ。我が産まれた世界はこの世界のような平和などなく、常に魔王軍と人類軍が争う戦乱の時代だった。ある日、霧が立ちこめた雨の日だ。魔物に追われ森に迷い混んだ我は逃げ込んだ洞穴の先で、傷ついて瀕死の状態の雛鳥を見つけたのだ。見たこともない鳥だったものでな、珍しさゆえに可愛がったものだよ。出会った頃は子供の手のひらに収まるほどの大きさだったあいつが、最後のほうでは大人の我の三倍ほどの怪鳥へと成り果てた。ま、見た目なんぞ過ごした時間と経験に比べれば微々たる問題だ。だが…あいつは、ただの鳥じゃなかった」
懐かしさの中に複雑な感情が入り交じっているように感じられます。一際強いのは愛しさと…後悔、でしょうか。
「あいつは…新しい魔王だったのだ。瀕死の状態で死ぬはずだった次期魔王を我は、育ててしまったのだ。その時の魔王と勇者が相討ちをした頃。あいつは魔王へと代替わりを果たした。そして我の手には…こいつ、聖剣ラグナロクが渡ってきた。我が次期勇者だったと言うわけだ。とんだ茶番だろう。自分で救い育てた魔王を、自分で殺せなどと」
レギアスちゃんの瞳の奥にはゆらゆらと、運命に対する憎悪と憤怒が見てとれます。
「その日も出会った時のように雨が降っていてな。互いに互いの運命を悟った我らは…数秒前まで笑いあってた仲だったのに、勇者と魔王というロールによる強制力によって、気づいたら殺しあっていたのだ。そのときは互いに実力不足でな。互いが負傷しながら、またいつの日かと同じように、しかし此度は一人で逃げ延びたというわけだ。逃げ延びた我はしたくもない修行をし、本能的に技の研鑽をし、魔物をこのラグナで切り伏せながら魔王軍支配下、あいつの居る場所へとたどり着いた。五年ぶりの再会だった。仲間を作らず一人だった我と、仲間を失い一人になったあいつの正真正銘の一騎討ちだ」
ワインボトルを二本空にして、さらに異空間の奥から最上級のものと思われるワインボトルをレギアスちゃんは取り出し、きゅぽんと栓を開けて飲み始めました。
「最後の力を振り絞った攻撃をあいつは…無抵抗で受け、光の中世界から消え失せたよ。残ったのは運命に対する恨みと怒りと、激しい後悔、疑念。人生のほとんどをあいつと暮らしていた我には、友が居ない世界は色褪せて見えてな。友が逝ったその場所で、自害した。そして次に目覚めたときは、同じ世界で、産まれたての女児となっていた。我が自害してから三百年の時が過ぎていたが、世界は変わりなく魔王軍と人類軍とで争っていてな。我が目覚めたのはある修道院。辺境の辺境にある小さいものだった。だからこそ、過去の文献が焼き尽くされることもなく残っていたのだろうさ。人類軍と魔王軍の物語がな。その中には当然、あいつと我のことも書かれていた。魔王を育てた勇者の、自作自演の物語が。裏で魔王を操っていた勇者の物語が。そして、その勇者に盗まれ行方不明となった聖剣と以後現れない魔王のこともな。まぁ、その内容は間違ってはいなかった。聖剣ラグナロクは我の中にあって、同時に我は魔王としての運命も持ち合わせていたのだからな。そして我は…運命への憎しみと怒りを世界へと向け、壊した。……これがあいつと暮らしていた世界の顛末だ。別に、面白くもなんともない話だろう?」
うーん…話をきくに、レギアスちゃんの言うあいつ、ルンルンが死んだかどうかなんだけど、この分だと死んだことは確認してないみたいだね。この次元のレギアスちゃんはルンルンを確実に殺したって確証を持っていないみたい。光の中に消え失せたってところがポイントだね。だったら、もしかしたらルンルンをこの世界に呼べるかもしれないかな。まぁ、レギアスちゃんにそれを言うのは呼べるって分かってからにしないと、可能性を言うだけで実はできなかったって、上げて落とすのは嫌だし。




