食料調達の班分けと伊達な女の子と龍の子ども
「さて、食材を集める班の分け方だけど」
ツリーハウスの前に集まって大人たちと一通り大まかな役割分担をしました。子供たちは食材集め、大人たちは晩御飯を作る準備をするとのことです。これはおそらく子供たちの交流を深めるという表の目的と、自分たちは楽がしたいという裏の目的があります。いいだしっぺがアドお兄ちゃんですから。
「食べれるものと食べれないものを見分けられる人いる?」
ルーシャが言います。集まっているのは子供だけ。従者の人たちは見分けられるかもしれないですが、箱入りのぼんぼんには見分けられるはずもありません。そう、ぼんぼんなだけなら見分けられるはずはないです。しかしそうではないのがこのメンバー。
「僕は大体のものなら。」
「あ、私もできます!特に木の実は好きなのでいっぱい集めてました!」
「食ってみればわかることだろうが」
「本でかじった程度でいいのなら…」
レギアスちゃんの食べてみればは論外だとして、大方予想通りのメンツに。スレイン君ティアちゃんは予想通りで、エルシリアちゃんが本で読んだ程度。なら班分けは4:4:3でスレイン君とティアちゃんが別になればあとは自由で問題ないはずです。
話し合いの結果、スレイン君とディア君とエルシリアちゃん、アルケミアちゃんペア。ティアちゃん、コーニス君、ロロ君、ハルバード君ペア。レギアスちゃん、香菜、ルーシャペアということになりました。
と、ここで一つ。アドお兄ちゃんが一言、『一番食材を集められた班にお兄ちゃん特製おやつ詰め合わせセットをあげる』という言葉でやる気がもりもりになった皆です。こう見えてアドお兄ちゃん、調理がとても上手なのです。お昼では得意のプリンで子供たちの胃袋をがっちりと鷲掴みにしてました。
「それじゃ皆班ごとに別れて行動するわけだけど、道に迷ったら迷わず方位磁針を使ってね。非常事態になったら方位磁針を壊して。大人の人たちが飛んでいくから。」
と注意して、散開しました。
スレイン班
「さて、何を目標にしようか」
「魚はカーナちゃんが取って来てたよね?」
「それならこれ以上魚は控えたほうがいいかな…」
「…あれは草食動物の食べ痕だな。ここらを縄張りにしてるみたいだ。」
「さすがディア。こういうのはお前が一番頼りになる。」
ディアが先導する山道はエルシリアやアルケミア等の山道に慣れていない子供でも歩けるように選別されていた。ディアの先導のもと、数キロ歩いてついに獲物を見つける。その獲物はアルヴテリアに一般的に生息する兎。数多くの群れで行動し、その優れた聴覚は数百メートルほどの敵の音も聞き取る優れもので、逃げ足も一級品。それゆえ狩りの難易度は高めだが、肉はかなり上質で美味である。スレイン班にとってはこれ以上ない獲物だった。
打ち合わせ通り、ディアのハンドサインでエルシリアとアルケミアが標的の少し離れたところからこちら側へ風を起こす。ディアが食べ痕や落ちている毛等から相手が兎だと当たりをつけていたために相手に悟らせずに先手を打つことができた。。その風は自分たちの匂いを相手に悟らせない効果があるほか、動いた音に違和感を生まないという効果もある。だがさすがに風の出所が不自然だったためか、獲物達が警戒しだす。そこでディアは獲物の三方からパンッと大きな音をたてた。それに驚いた兎達は破裂音のしなかった一方へと逃げる。その先には…罠を張った、スレインがいた。
ギイギイと鳴き声をあげる兎達。上手いこと群れの全ての兎を捕らえることができたのだ。せめてもの抵抗だと言わんばかりに暴れる兎。そんな兎達の足を手早く縛るスレインとディア。これで今日の肉は決まりだ。
「大猟だな。1…2。20人前くらいはあるか?」
「どうだろうね。大人達がどれくらい食べるかわからないし…」
「でも、1位を狙えるくらいにはあるんじゃない?」
「ディア君のおかげだね」
彼女らは、ディアの評価をかなり上げる。カーナが戻したのはディアの記憶だけ。他の生徒らはディアのみっともない姿を覚えているのだ。そこでのディアの評価は最低だったが、今、彼女らはディアを婚約者候補の候補の候補くらいにまで評価した。そう、天龍学園はただの学校ではない。婚活の場でもあるのだ。
ティア班
「女の子1人だけど、困ったことがあったらなんでも言ってね」
と格好をつけるロロ。しかしティアは伊達な女子ではなかった。…いや、伊達な女子だったのほうが合っているか。なにせ、コーニスでさえ選ばないような獣道をなんなく踏破。それでいて野草を見つける余裕まであるときた。
「なにもんなんだ…あの女子は」
と、ハルバード。名前と恵まれた肉体に反して運動神経はあまり良くない彼だが、体力には自信があった。そんな彼が、自己強化魔法を重ねがけしてもらってやっと追い付くレベル。ティア・フランメ、ただ者ではないようだ。
「あ、これはトウサラソウ!ピリリと刺激がいいスパイスになる食材なんですよ」
そんなトウサラソウの花には毒がある。食べれる部分といえば葉先の一部分だけ。しかもその葉先にも毒があるものと食べれるものが別れている。見分け方は葉の表面。光に当たったとき、少し黄色っぽいのが食べれる葉で、緑っぽいのが毒がある葉だ。深い森ではまず見分けられないだろう…が、そこはティア・フランメ。熟練顔負けの手際で可食部分だけを集める。そんな高度なことをしているということにすら気づいていないロロ、コーニス、ハルバード。
「コーニス君それどう料理してもおいしくならないよ」
「そ、そうなんだ」
ぺっ、と集めた野草を捨てるコーニス。そんなコーニスの籠の中がすっからかんなことに気づいたティアフランメはついに言ってしまった。
「あ、こっちもう入りきらなくなってきたからそっちの空いてるのと交換してもらえませんか」
ロロ、コーニス、ハルバード。この三名は、荷物持ちであった。
カーナ班
「なぜ我と貴様が一緒なのだ」
「余り物だからじゃない?」
「ぐっ、ぐぬぬ…」
適当に歩く香菜達。レギアスちゃんも渋々ながらついてきてくれます。ぶんぶんぶんぶん鎌で邪魔な木の枝や蔦を切りつつ、食べれるものは集めてく。さすが精霊です。そういえば。
「そういえば、レギアスちゃんってなんの精霊なの?髪が緑色だし、なんかの植物?」
「貴様には関係なかろう」
「ん~…匂いが大自然なのよね。植物関係なのは間違いないのでしょうけれど、なんの植物なのかわからないわ」
「貴様、他人の体臭を嗅ぐなどどういう了見をしている!」
「あ、ほんとだすごくいい匂い!」
「や、やめろ離せ!」
これは…なにか限定された植物の匂いじゃないけど、でも植物の匂いがしてる…奥行きがあって、大自然を直に感じてるような……。あ、わかった!
「さては森林の精霊でしょ!」
「な、なぜ貴様それを」
「匂いで」
「こんの小娘がっ!!」
レギアスちゃん、結構素直でかわいい子っぽいです。そうこうしてるうちにどんどん森の奥へ奥へと来てしまいました。いつもの香菜なら臭いでわかることでしたが、隣に濃厚な匂いを発してる存在があるとどうしても鈍ってしまい、それに気づけなかったようです。
「む?なんだあれは」
「ん?あ、あれ幼体の龍じゃん…あ、やば」
「認識されちゃったわね。下手に刺激するとすぐに成体の龍が飛んでくるわよ」
そろりそろりと後退後退。しかしレギアスちゃんは事の重大さが分かってないのか、傲慢さが浮き出た顔で後退。ちなみにレギアスちゃんは常時浮遊してます。しかし今回はそれが裏目に出てしまいました。肉体を持たない精霊は物体を透過してすり抜けます。そんなレギアスちゃんがこんな森で後ろも見ずに後退すると、木をすり抜けていっちゃいます。すると急に生命体が消えたことに驚く幼体の龍。位が高かったり知能が高くても、赤ちゃんは赤ちゃんなのです。結果
『クルルルルォォォォォォオオオオオオ!!!』
と叫び声をあげさせてしまいました。この鳴き声は親を呼ぶ時の声。龍種は生態系ピラミッドの頂点に位置する生命体なために繁殖力が少なく幼体の生態もなかなか知られていませんが、そんな龍種な香菜にはわかります。
「来る龍種次第では逃げないといけないよ!」
「滅してしまえばよかろう?」
「ダメ!龍種の発生にはそれなりの条件があって、龍種がいることで物凄い恩恵があるの。そんな龍種を消滅させてしまえばその恩恵がアルヴテリアから文字通り消え失せちゃう!そして全ての龍種が全人類を敵に回すよ!?」
龍種がアルヴテリアにもたらす恩恵。例えば、最高位龍種で言えばアドお兄ちゃん、炎龍であるアドミニオン・ヴィ・マーキュルが地核の安定化をしていなければ今すぐにでもアルヴテリアは大陸プレートを吹き飛ばすほどの噴火をするでしょう。もしアドお兄ちゃんが消滅させられることがあれば、この宇宙全てから炎が消えます。このように龍種がもたらす恩恵というのは絶大で、そんな龍種と敵対しようものなら宇宙と戦おうとしているも同義。実際高位龍が消滅させられた時、全ての龍種が全戦力でもって復讐を果たしました。しかし、そんなことをしても消滅させられた高位龍が司っていたものは戻ってきませんでした。それほどまでに龍種というものの影響力は甚大なのです。それを分かっているからこそ龍種は人類への不干渉を約束しているのですが、こちらがそれを破るとなれば。だからここは退かなければなりません。香菜は今人間に降格しているので龍種を宥めることもできないのです。使える権限は持っているものですが、種族的に言えば人間。龍種へと戻るには少しばかり必要な手段があって時間がかかります。ここは退くの一択です。
「香菜、時魔法は!?」
「ダメ、相手が龍種だから時止めは効かない!」
「なら転移だけれど…拠点から離れすぎてる。龍霊山の特殊な魔力環境じゃ展開に数分かかるわ。レギアスさんは転移門開けないの?」
「精霊には必要ない。我固有の能力を使えば飛ばせるが?」
「この宇宙のものじゃない力は香菜の体とルーシャが無意識に展開してる防御魔法が受け付けないの…やっぱルーシャの転移門を頼るしかないか。あと何分くらい?」
「5分といったとこかしら」
「オッケー…相手もお早い到着だよ」
ギン、と空間に音をたてて現れたのは二柱の成体の龍種。位を見る限り…むぅ、貴位龍種の番か。貴位龍は頭が硬いのばっかだから、説得も無理っぽい。
龍種の序列は最高位龍種から、王位龍、貴位龍、博位龍、学位龍と別れていて、高位中位低位関係なく存在してます。最高位龍種は絶対者ですが、それ以外の龍種の強さは種族位の高さの次に、蓄えた知識によって決まります。種族位が低位でも貴位の龍種もいますし、高位でも学位の龍種もいるのです。ただ、王位龍はその序列順から全て高位龍の方々です。その特性から貴位龍はプライドが高いのです。ちなみに貴位龍のなかにも公龍、侯龍、伯龍、子龍、男龍という位があります。
『まって、話し合おう!』
『ほう…貴様、特殊な権限を持っているようだな。人間から話しかけるとは』
『我らの子を誑そうとしていたのだな?』
『罪深きものよ…法に裁かれるがいい!!』
龍種は全個体統一して、手加減という権限を持っています。それは一度だけ、相手にどのような攻撃をしても怪我を負わせないという権限です。これを持っているということを証拠に龍種は人類への不干渉を証明しているわけですが、干渉されればやり返さないわけにはいかないとこの権限で対象を上手い具合に弱らせ、龍種人類統一法会議という龍種の法と人間の法とは別に独立した法廷機関に連れていって裁くのです。もちろん裁かれることもありますが。過去にも人間と龍が互いに恋に落ちてどちらも裁かれるということが起きてます。




