最大の禁忌とリカーナ(?)の悪趣味
少し強引ですが話を進めました。
「香奈はね…巣を作る常駐型の虫の魔物が増えてると考えてる。それも同じ虫を食べる魔物が。」
「た、たとえば?」
ルーシャが恐る恐る聞いてきます。ルーシャは今、嫌な想像をしていると思いますが、おそらくその想像は当たっています。
「例えば…蟻、蜂、そして蜘蛛とか。」
「ひっ」
ルーシャは蜘蛛が大の苦手です。原初の昆虫にして最大の過ち、存在自体が禁忌のはずなのに駆除しても駆除しても這い出で疾風の如く翔る漆黒の害虫よりも嫌いだと言うのです。とある異世界ではそんな漆黒の悪魔を他惑星に送って進化しちゃった、ということもあると聞きました。蜘蛛はそんな漆黒の大悪魔を補食し、しかも神の使いとも言われる虫なのですが。実際、ルーシャにはまだ言ってませんが香奈の友達にスルルさんという大きい蜘蛛がいるのです。
「蟻であって蟻であって蟻であって蟻であって蟻であって蟻であってお願いします神様…」
「残念蟻ではありません。ちなみに蜂でもないのです。」
「非情な宣告!?」
蟻でしたらもっと被害が出ていますし、蜂でも同じです。徘徊型の蜘蛛以外は巣を作り常駐するのであまり発見されないのでしょうが、餌を捕るのに積極的な蟻や蜂ではもっと深刻な事態になっていてもおかしくはないのです。いままで虫が魔皇さんになったことはありません。ですので火や氷に弱いという分かりやすい弱点がありますが、世界は虫の魔皇発生に免疫がないのです。
「…虫だったら冬に弱いじゃない?長期戦を覚悟したら?」
「ルーシャは虫の繁殖力を無視して産卵期が過ぎる冬まで戦いを長引かせるつもり?」
「短期決戦しかないじゃない…」
「まぁ予想でしかないけどね。」
今回の魔皇さんは蜘蛛だと香奈は考えています。おそらくこれは外れることはないでしょう。魔皇さんが発生したことによって魔皇さんと同じ種族の魔物は1匹1匹が最低でも警戒度4にまで上がります。それが蜘蛛の繁殖力で増え続ける…恐ろしくて想像もできないです。唯一の救いは漆黒の邪神ではなかったこと。奴らは雑食なので地表が更地になることもあり得たかもしれません。しかし、虫系の魔物が強くなっているのも事実。奴らも魔皇さんの恩恵を受けるわけで、燃やしたらフェロモンが広がってぞろぞろと寄ってくるという厄介な特性もメスを殺したら勢いよく卵鞘を噴出する特性もさらにその卵鞘も耐久力が高く殺虫剤なんか効かないという特性も受け継いでさらにパワーアップしてるということに…ほんとは学校なんかに通ってる場合じゃないと思います。世界規模の危機なのです。しかし、惑星規模の危機じゃないのが救いですか。世界規模というのは地表部分だけなのに対し、惑星規模、アルヴテリアの崩壊を賭けた規模じゃないのがまだ救いなのです。魔皇さん自体は1人なのでそれほど脅威ではないのですが、問題はそのあとですね。
その後はルーシャは現実にうちひしがれて授業の時間は過ぎ、魔王さんに提出した自習の成果は早速次の授業で使わせてもらおうと去っていったことで終わったのでした。
時は進んでパーティー当日。ルーシャも香奈もお揃いの華美にならないような紫色のドレスを着ていますがルーシャはアップにした金髪が栄えいて逆効果なのです。
「あの可憐なご令嬢はどちらの?」
「フェルオス家のルーシャ嬢よ。相変わらず可愛らしいわ。」
「あのフェルオス家のルーシャ嬢ですか!?あんなに小さな子だったなんて…隣で親しげに話している、お揃いのドレスを着ているご令嬢は?」
「リカーナ・ブラックウィステリア嬢よ。知らないの?」
「聞いたことないわね…」
「世間知らずね。まぁあまりこういう場には出てこないから無理もないわ。世界トップの投資家、2代目勇者のラピス様の令嬢と言ったらお分かり?」
「ラピス様の!?」
「そして4歳でカーナ銀行を創立。4歳で金融機関を作り1年もしないうちに世界中にしれわたるほどに大きくした天才よ。お父様と同じくらい世界屈指の投資家だわ。ルーシャ嬢とリカーナ嬢は仲がとてもよろしいの。パーティーにお揃いのドレスを着てくるくらいには。」
「天才同士が友達って、どこか運命を感じるわ。」
今の香奈は人間に降格しているので会話の内容はわかりませんが大方予想はできます。おそらくルーシャ可愛いとかルーシャ天才とかルーシャすごいとかでしょう。とても誇らしいです。
香奈が人間に降格している理由は、下手なことをすると国の重鎮達を殺しかねないからです。というのも、この世界でも遺伝した黒藤家のドジは健在。いつ症状がでるかも分からないのです。
※実はもう発症しています。俺のように実害が無いだけです。
「やぁやぁルーシャ嬢にカーナ嬢。お父さんお母さん、従者は一緒ではないのかな?」
「初めまして。ルーシャ・レスト・フェルオスです。」
「初めまして、リカーナ・ブラックウィステリアです。」
誰ですかこの初対面なのに気安く親しげに話してくるおじさんは。体脂肪率48%と肥えた体をお持ちですね。もう死に体です。
「アーバント王国のブードッヒ伯爵も招待されていたのですね。両親、従者は用事があり本日はいらしておりません。」
「そうかそうか。ならうちの従者を付けようか?」
「いえ、結構です。」
ふふ、ブードッヒって…ふふふ…これ、は。笑いが…それにしてもこの、ブードッヒ伯爵。名乗られたら自分も名乗るのが礼儀だとルーシャに教えてもらった頃の香奈でも出来るのに、礼儀知らずだね。
「ど、どうしてかな?従者がいないと身の回りが危ないのに。」
ルーシャの内心は、あなたの従者がついてくる方が危ないんですがね、ペド野郎ですか。当たらずも遠からずだと思います。
「身の回りの警護はそこら辺の従者では私の足手まとい…いえ、これは足手まといに失礼ですね。害虫以下でしかないですが。強いて言えば小間使いですが、立食パーティーでは王宮の侍従が運んでくるのでいりません。要件はそれだけですか?それでは私たちはこれで。」
そこら辺のただの人間1人なら危険度1の魔物でも殺られますし、訓練をした従者でも危険度4では相手にもなりません。本気を出せば危険度8なんて余裕で屠れる能力を持った世界最強の戦略級魔法師。それがルーシャなのです。ちなみに魔王さんは論外です。
「ほんと、あぁいう発情したブタ野郎には呆れるわ。去勢の呪いをかけてやろうかしら。」
「や、やめておこう?」
「カーナは優しいのね。」
「いや、だってこの後に滅びが待ってる人にこれ以上奪っても何も楽しくないよ。」
「徹底的に潰した方が噛まれることはないのに。」
「人の営みを分かってないなぁ~噛みつく牙を折るのが良いのに。復讐心に駆られた人間はどんなことをするかわからないから面白いんだよ。」
そういうことに興味はありませんが、上位存在としては人間の取る突拍子もない行動が娯楽なのです。永く生きていれば娯楽も限られて、変化を求めるようになるのです。それは人間も龍種も同じですね。
「こんばんわシュルデアット卿。本日もお元気なようでなによりです。」
「こんばんわ、シュルデアット公爵様。」
「様なんてよしてくれよリカーナ嬢。こんばんわ。2人も元気そうでなによりだよ。リカーナ嬢は久しぶりだけど、今日もお揃いの服だね。とても似合っているよ。娘が将来着るドレスのアイディアが次々と浮かんでくる。」
このやんわりとした物腰の方はヴィリオン・ラ・フォーレン・シュルデアット卿で、シュルデアット公爵家の現当主様です。侯爵家の娘を嫁に持ち、2人の娘を子に持つとても優しいお方なのです。領地は持たず、巧みな話術と商才、さらにその性格ゆえの人望により龍霊国を裏から支えている偉大なお方でもあるのです。ちなみに、極度に娘を溺愛していることでも有名です。
「今日は突然のパーティーですね。」
「そうなんだよね。僕も最初はびっくりしたんだけど、王妃様もとなると絶対重大な発表だから来ないわけにはいかなくて。急いで準備したよ。」
アドお兄ちゃんは思いつきでパーティーを開くことが多々あり、その度に周囲を巻き込んでいます。たこ焼きパーティーとか、ケーキパーティーとか、ひどいときはゆで卵パーティーとか。そしてやはりその度にキュリスお姉ちゃんから怒られるのです。




