筋骨隆々のパティシエ
「40ウェイズになります。」
「はい。」
「おつりは10ウェイズです。レシートとポイントカード、スタンプカードです。ありがとうございました。」
これにて買い物は終了です。キャンプしたあとの服は適当に持っていきましょう。
「このあとどうする?約束通り、ブドウジュースとスペシャルパフェ食べに行く?シャンゼのパンケーキは持って帰るということで。」
「そうね。そうしましょうか。」
この後なにするか決まったので、ミンストに行くとほとんどの確率で利用するレストラン"フール"に入り、ルーシャの分のブドウジュース、スペシャルパフェを頼んで、香奈はリンゴジュース、抹茶ミルクパフェを頼みました。
「来たとき毎回食べてるけど、飽きないの?」
「えぇ。だって美味しいんだもの。」
「ふぅ~ん。…太るよ?」
「何をバカな。魔法使うときには頭を使うのよ?糖分は全部頭が使っているわ。」
「その考えがダメなんだよ…それにしてもルーシャ。なんかちょっと丸くなってきた?」
「嘘っ!?」
「ほら~お腹出てきたんじゃない?最後に体重計乗ったのいつ?」
「さ、3ヶ月前…」
「ダメじゃん。」
ルーシャのお腹をつまみながら話していますが、実際はそんなに出てきた様子はありません。しかし危機感がないのはいただけないので。決して可愛いからだとかではないです。
「か、カーナだって太ってきたんじゃないの?」
「香奈は絶対ないよ。」
だって太らない体質だし。種族的に。
「お待たせしました。」
置かれたのは 高さ40cmほどもある大きなパフェと、その2分1ほどの抹茶ミルクパフェ。ジュースはセルフサービスです。
「ほら食べちゃいなよルーシャ。」
「こ、こんな話したあとなんだから食べられるわけないでしょ?」
「そっか、いらないの…せっかくの奢りなのに…」
「ご、ごめんカーナ。食べるから、食べるから。」
「ふふ、ルーシャ可愛い。」
「カ、カーナ!?からかったわね!」
「ごめんねルーシャ。ルーシャの反応が可愛いかったからつい…ついでに言うと、太った?っていうのもそんな感じはないよ。この歳で気にしても仕方がないしね。」
「…ケーキ1つ。」
「仕様がないなぁ。」
呼び鈴を押し、店員さんにブルーベリーケーキを頼みました。
「ん、満足。」
「それは良かった。そろそろ家に帰る?」
「そうね。パンケーキ買ってから帰りましょうか。」
「忘れてなかったか…」
「当然。」
おこづかいには余裕があり、ちょっとしたものくらいなら普通に買えるのでそんなに困ることはありませんが、貯めるのも我慢するのも教育なのです。
ということでシャンゼに向かいます。シャンゼとはケーキ屋さんのことで、バリエーションが豊富で、トッピングもできるほど。しかも、ほろ苦でお風呂上がりに食べると美味しいやつという曖昧で無茶苦茶なオーダーにも答える凄腕の達人がパティシエで、すごく人気なので食べようとすると凄く待つことになるのですが…香奈達は表口からではなく、裏口から入れるお得意様なのです。
「お、カー嬢!ルー嬢もいらっしゃい!」
こちらのおじさんがここのパティシエのカインさんです。スキンヘッドで顔に傷があり筋骨隆々ですが、表の方で売り子をしている美人な奥さんの受けた注文を聞いて、いっぺんに作るベテランさんなのです。以前外国の貴族の権力争いに巻き込まれたときに、アドお兄ちゃんが贔屓にしていると宣言したとたんに貴族が手を引いたのがきっかけで知り合い、パパが仕入れた物を香奈が時魔法で保存して持ってきたときに仲良くなりました。お菓子作りでも素材の鮮度くらいこだわらないとベテランとは言えないとカインさんは言います。
「おじさんこんにちは。パンケーキ余ってる?」
「と言って来ると思って作っておいてある。左奥のテーブルの一番右、カと書いてある箱がそうだ。」
「さっすが。お礼にここら辺のやつ時間戻しとくね。」
「おうサンキュー。そんじゃまたな。ルー嬢も頑張れよ。」
「えぇ。カインさんもいつも通りに。では。」
ルーシャは自分で気づいていないかもしれませんが、口元が凄くほころんでいます。それに気づいたカインさんも笑顔で仕事を続けます。
「カーナ、何個入ってる?」
「家に帰ってからのお楽しみ。」
「楽しみだわ。…シャンゼのパンケーキ、結局買ってないじゃない。」
「はは。カインさんのとこ行くと逆に何も買えないんだよね。もってけもってけってケーキ持たさちゃう。」
「カーナも十分お得意様やってるじゃない。」
「そうだね。」
カインさんはとても良い人なのです。
「ただいまー。」
「お邪魔します。」
「お帰りなさい香奈。ルーシャちゃんもお帰りなさい。学校どうだった?」
「楽しかったよ。ピクニック、ちょっと人誘いすぎちゃったみたい。」
「あら、何人くるの?」
「まだ決まったわけじゃないけど、10人以上は。貴族たちが多い学校だから、安全とかの事情もあるみたいで。」
「結構来るのね。安全ということなら"私たち"がいればそこが世界一安全な場所になるのに。」
「そうですね。どんな害でも逃げ出すと思います。」
「でも反対に考えてみると、逆に一番危険な場所とも言えるね。」
「あら、それもそうね。そういえば香奈達、シャンゼ行ってきたのね。カインさん元気してた?それ、パンケーキでしょ?」
「カインさん元気だったよ。うん、パンケーキ。」
「それはよかった。パンケーキ、食後に食べましょうか。美味しく食べられるように準備しとくわ。」
「うん、ありがとうママ。」
「パンケーキいくつあるの?」
「まだみてない。ルーシャいくつ?」
「…12あるわ。」
カインさんは魔法も使えるのです。箱が小さくても、中の空間を大きくしていっぱい入れられるようにできるのです。学園の敷地や教室もそういう風にして大きくしています。
「あら、またお礼しにいかないといけないわね。」
「そうお礼とか言って差し入れとかしてっからまたお返しが増えるんじゃないのか?」
「パパ、お帰りなさい。」
「お邪魔しています。」
「ルーシャは相変わらず堅いな。邪魔なんていくらでもして良いのに。」
「そんなわけには…」
「むしろもっと迷惑かけてくれ。で、お返しが増えてく理由が沙梛のお礼にあった訳だが?」
「だって、返さないわけにはいかないでしょ?」
「無限ループにはまっていくぞそれは…」
カインさんも喜んでやっているあたり、カインさんが死んじゃわないと止まない気が…いえ、世代が交代しても恩返し、といっていたらカインさんのお店がつぶれちゃうまで続きそうです。ルーシャ本当に太っちゃう。
「香奈、学校どうだった?」
「ピクニックに誘う友達いっぱい呼んだよ。」
「お、楽しいピクニックになりそうだな。」
「うん!それから、魔王さんが黒板に文字を書いているところがすっごく面白かった。あとあと、マルスさんが急に強くなったりもしたんだよ。」
「それはよかった。魔王が黒板に文字書いて授業してるところ…よし香奈。明日は視覚情報共有しよう。で、マルスが急に強くなったって…一人称俺とかだったか?」
「うん、そうだった。なんで?」
「マルスを本気にさせるほどか…マルスは普段、力を抑えるために力を使っているんだ。その時、もう1つの人格…ジークが出る。マルスが本気になったということは普段の3倍強くなると言っていい。それが阿修羅へと至った者だ。」
え、じゃぁ香奈、そんなマルスさんとやりあえてたってこと?パパの話だと、マルスさんは生身で香奈の全力を受け止めていたわけです。そこにさらに種族としての力が加わると…やっぱり、魔王さんやパパと同じ戦闘力だと言われるだけあります。魔王さんもパパもマルスさんも個としての力が強いですが、魔王さんやパパとは違う方向の力だと思います。
「ちなみにマルスのやつ、指揮官としての才能もあるからな。個が強いくせに軍も自分並みに強くさせる。まったく…既知外なやつらだ。魔王も、マルスも。」
そんな相手に今の龍神形態で相手できるパパもパパですが。




