秘密の鍵束
プライドスナッチを理解した俺だが、同時期に家庭環境が悪化してしまう
妹がお母さんに連れて行かれたのだ
お母さんはすでに再婚していて、その再婚相手の元に妹を連れ去ってしまった
親父はもちろん反対した
親権はこちらにあるんだ当然だろ?
5年間、男手一つで毎日0時過ぎまで働き、大切に育てた一人娘をだ
再婚して裕福になったからと、いまさら親権を主張されても困るってもんよ
しかしお国は残酷だ
むしろ妹が残酷なのだろう
男だけの家庭で育ち、兄は引きこもり、親父は朝から晩まで家にいない生活
思春期な妹はお母さんの元に行きたかったのだろうか
養子縁組をして俺達家族の元から去ってしまった
当然、親父は荒れた
家に帰ることも少なく、毎晩飲み屋を渡り歩く日々
たまに顔を合わせるとシワの増えた目でどこか遠くを見ている
本当に苦労をかけた
引きこもりの俺を何も言わずに育ててくれた親父
妹に邪険にされても絶対に怒らなかったな
もう俺も高校生だしバイトでもしようかと考えていた矢先の出来事だった
早朝6時過ぎ、玄関のドアを叩く音で目が覚めた
玄関に立ってみると、どうやら警察が来たようだ
まさか俺のプライドスナッチがバレて著作権がどうたらこうたらで逮捕なのか!
ビビリながら玄関を開けると
「二瓶望君だよね?」
はい
心臓バクバクだった
「君のお父さんが事故にあって病院に運ばれっちぇんだ」
人間、本当にびっくりした時は声が出ないものだ
しばらくの空白のあと
「今から一緒に白河病院まで来ちぇくんねえが?」
パトカーに乗り込み病院に向かう
道中、警察から聞かされたのは
何やら登校中の小学生の列にトラックが突っ込んだらしい
自動ブレーキが法律で義務付けられているのだが、この田舎はそれが壊れている車も少なくない
親父がとっさにかばって小学生は無事なようだ
しかし親父は意識不明の重体という
なんとも漫画の主人公らしい、親父の咄嗟の行動に惚れた
手術中の赤い灯りをぼんやりと見ていた
この時代の医療は優秀で、即死じゃなければ大抵は助かる
俺の予想とは裏腹に親父は
脊髄損傷の半身不随ってところだそうだ
パワーギプスを付けて半分機械人間になってしまった
心配してる俺に親父は
「どうだお父さんかっこいいだろ!見ろよこの足、時速40キロは出るぞ!」
もういっそ脳移植でもして機械人間になってしまえ馬鹿親父!
この頃から親父は施設に入ることになり、俺は一人暮らしを始める
入院中に親父が
「お父さんに何かあったら、お父さんの大切にしてるものを望が受け継いでくれ」
親父から秘密の部屋の鍵束を譲り受けた
この鍵束は、渡り廊下の先にある【秘密の部屋】の鍵らしい