07
ティアナは回復の報告も兼ねて王宮へ召喚された。夜会という形ではあるけれど。
リヒトや叔父が沢山新品のドレスと宝飾品。
「・・・叔父様、妨害あるかしら。」
「今はないだろうね。バカの帰還の時はあるだろうが。」
「じゃあ、バカ帰還の時は純白のウェディングドレスが良いわね。」
は?二人して唖然とした顔で見る。
「純白のドレスを鮮血に染めて帰還・・・なかなか演出としては恐ろしくありません??」
あ、ティアナの婚期というものは消滅した。嬉しくもなんだか悲しい。ドレスを血染めにするなんて。
「そんなドレス姿で手を差し出せる男ってバカくらいか・・・」
「叔父様、城にいるお馬鹿様に恋人は?」
「あぁ、いるな。カルスレー子爵の令嬢だったか・・・いつもピンクばかり着てる脳内お花畑ピンク色な娘だったような・・・」
「では、私もピンクに致しましょう。この絹を使って宝石は真珠とダイヤモンド、ルビーを使って。子供らしい感じではなく大人っぽく、色気も醸し出しながら。」
あ、女の戦いが始まった。ティアナは人を呼び、脳内ピンク娘に対抗するためにドレスの色を被せるわよ!!と、着せ替え人形ではなく戦装束を選ぶ。香水、宝石、靴、ドレス、メイク全てを使い叔母のマリアを彷彿とさせる美しさを出す。
「女の戦いって怖い・・・」
「マリアもよく気に食わない令嬢のドレスを調べて色を被せたりしていたからな・・・」
「リヒト兄様、エスコートをお願い致します。」
王宮の夜会は女の戦場だ。行方不明だったティアナ・キルシュタインは無事帰還したことを知らしめるために。
今回の主催は王太后。第二王子や恋人は主催ではないので一招待客でしかない。リヒトも普段の仕事用の顔でティアナのエスコートをきちっとして見せつける。
そして王太后が現れるまでの間親しい方との挨拶をしておく。
「ティアナ様、ご無事で本当に・・・」
「えぇ、私は無事ですから素敵なお顔を曇らせないで。」
大体泣かれそうになる。宥めて、それらしい言葉を掛けて回る。王太后が現れる前に遭遇してしまった。バカ兄弟弟の方とその恋人。
「行方不明からの憔悴の回復にしては元気そうだな、キルシュタイン公爵令嬢。」
「まだ体調も芳しくないので暫くしましたら領地に戻りますわ、殿下。ご心配を頂きありがとうございます。」
主に主犯格だから自分の保身のための心配だとは知っているけれど。
「貴方がティアナ様?はじめまして。」
無視。子爵が公爵家に挨拶をされても無視。当然だ。
「キルシュタイン公爵家はレイナを無視するのか?」
「あら、殿下。その方は貴方とは未だ婚姻されていないでしょう?王族に連なってもおらぬのであればこの王宮での作法に明るくないと恥をかくのはそちらの可憐な花ですわよ。王位に継ぐ前に何があるか分からないのが伏魔殿とも呼ばれるこの王宮。第一王子が放逐されてから陛下の容態がさらに悪化されているようですし・・・臣としては心苦しいですわ。夢を見ていると地に落とされるのが世の習い。足元を見て置かないと怖い時代になりましたわね。」
ざまぁ。自由奔放にさせて貰っているのもそれ以前に基礎を叩き込まれているからだ。
本当に髪から上から下までピンクね。しかも趣味悪い。上品に綺麗にまとめて正解だったわ。
「キルシュタイン公爵令嬢は兄のことを知っていたのか。」
「叔父からの説明程度ですが。行方不明というのは兄弟として心配でしょう・・・我領にもし第一王子が訪れれば大切保護致しますわ。勝手に虜囚にされるなど怒り心頭でしょうし。」
エレナ・カルスレー子爵令嬢は泣きそうな顔をして第二王子の後ろに隠れていた。ティアナは追い込んだら面倒ね。と、思っていたら主催の王太后が登場した。
夜会は普通に始まり、ティアナは身内である第二王子より先に、彼は呼ばれないのだが王太后の元に呼ばれた。
「ティアナ、よくぞ無事で・・・王子も未だ行方しれずで悲しみにくれる私には喜ばしい報せを頂けました。」
「ありがとうございます。私はこのように元気になりました。また領地に戻りますが王太后様のお呼びであればいつでも王都に来ますわ。」
「まぁ、嬉しいわ。今宵のドレスも素敵ね。ピンクって幼稚なものが多いでしょう?貴方のように綺麗に着れるなら良いかもね。」
「叔母が私のワガママを叶えてくださったデザインなので、叔母に伝えておきます。」
二三の会話だけだが、大分第二王子陣営を大っぴらに貶しまくった。特に恋人のドレスをセンスなしと言い切っているのだから。
「父上、女子というのは恐ろしいですね。」
「世の常だ。マリアが社交界にいる時なんて敵なしの無双していたぞ。」
「・・・センスの塊ですもんね・・・」
笑顔で遠回しだが確実にいびっているのだから。
「うん、義姉上は脳筋だったからそういうのには無関係に育ったかと思ったのだけど・・・」
「いや、母上仕込みでしょ・・・」
仕事しよう。怖すぎる。笑顔で殴っているのだから。言葉上他愛のない言葉なのに裏をとると楽しそうに殴っているようにしか見えない。
「はぁ、ティアナに喧嘩売るから・・・」
「物理で殴ってくる方がマジだけどな。」
「楽ーに死なせてくれますからね。ティアナ。」
見事に頚椎を狙う。そしてあっという間に殺す。痛いの最初だけでどのように攻撃されたか分からずに事切れるだろう。
いけしゃあしゃあと王太后と話していたが、先日本邸でにこやかに女子会という名のお茶会をしていただろう。
「友人でもあるマリアが危篤!?内密に見舞いに行きます。」ここで行かなければ何が友ですか!!と、護衛をほとんど付けずにキルシュタイン公爵領まで来てニコニコとお茶をしていたのだから女の演技力は凄い。
それから第二王子には声をかけることは無かった。だが、第二王子は露骨に恋人がいる前で後宮に入れと言ってきた。
「お断りいたします。私、自分より弱い男に従うつもりないので。」
「はっ、娘風情が。」
「では、早速拳で語り合いましょう。余興としては面白いでしょう?殿下は殿下が思う強者を差し出してください。その方に私が敗北したら後宮に入りましょう。」
騎士団に命令が下るが、相手がティアナだと知るなり騎士として女性と手合わせは無理だと逃げた。騎士団の人間は幼いティアナが大人相手にしても倒しているのを知っているから負けるし、死ぬのを分かっているから適当な理由で断った。
第二王子が出してきたのは死刑囚。勝てば死刑は免除してやるというものだ。
「あら、死刑囚ですか。叔父様、やっちゃいますね。」
「構わん。銀器のナイフしかないが。」
「ステーキなど切れるから問題ありませんわ。」
王宮の外の広場で勝負が行われる。死刑囚はこれで無罪放免になるなら必死になるだろう。ティアナは死刑囚であれば殺しても問題ないということだ。
騎士団長は審判いらないだろう。と、ため息をつきながらも開始の号令をかける。
ヒュンっ!!!ナイフが死刑囚の両目に刺さった。狂いもなく一瞬で。そしてふわりと飛び上がるともう1本で首の頸動脈を切り裂く。それは開始号令から分も掛からなかった。見るも鮮やかに瞬殺。生きてはいるけど、すぐに止血させているが・・・
「全く、こんな木偶の坊しか用意出来ないとは・・・騎士団長、汚してしまい申し訳ございません。」
「いや、王太后様が許可されているからな・・・相変わらずの腕前で・・・」
「熊狩りの方法ですわ。領地で害獣が多くて熊狩りが通用して良かった。」
ちなみにティアナは頸動脈を背後から綺麗に切ったので血を浴びていない。慣れている人間でしかないが、本人は熊狩り能力と言い切るのが怖い。
「はぁー、怖かった。」
笑顔で言うな・・・余興と言っても武芸に秀でた騎士団しか見ていなかった。王太后が血を見慣れてなければ行かぬほうがいいと普通に止めたからだ。
「流石ティアナ!!指1本も触れさせないとは!!流石兄上と義姉上の娘だ!!さて、これで後宮入りはなしということで。」
「まぁ、死刑執行は変更なし、殿下ティアナに要件がある時は小賢しい真似ではなく、本人に拳の語り合いでお願いします。その方がこちらも手間が省けますので。」
「あ、私もこういうのなら闇討ち暗殺決闘を買取りますのでお気軽に。」
ちゅっ。と、投げKiss・・・破天荒な淑女で通してきたがそれをする必要がなくなった。そして武力よる喧嘩であれば喜んで買うと。